日本企業の決算に変調か 増益続くも「減益・未定」が4割に増えた理由

昨年度は増益だった企業が多いのに、今年度は「減益」や「未定」とする企業が増えている。SMBC日興証券が東京証券取引所プライム市場の企業を中心に分析した集計では、前年度と比較できる524社のうち増益は369社と全体のおよそ7割を占めた。一方で、今年度の業績見通しでは、減益予想と未定を合わせるとおよそ4割にのぼる。

一見すると、日本企業の業績はなお底堅い。だが、決算発表で市場が見るのは過去の成績だけではない。むしろ株価や賃上げ、家計への影響を考えるうえでは、企業が次の1年をどう見ているかが重要になる。今回の決算ピークで見えたのは、好調だった実績の後ろに、イラン情勢の悪化や原油高による不透明感が重なり始めている姿だ。

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何が予想と違ってきたのか

SMBC日興証券が、12日までに決算発表を終えた536社を分析したところ、前年度と比較できる524社では、増益が369社、減益が134社、赤字が21社だった。昨年度の実績だけを見れば、日本企業の収益力はまだ強かったといえる。

増益を支えたのは、AIやデータセンター関連の需要を受けた電気機器企業の好調、株高や金利上昇を追い風にした銀行・証券会社の収益改善だった。米国の関税措置の影響があった中でも、全体としては増益企業が多かった。

ところが、今年度の見通しになると空気が変わる。赤字予想の2社を除くと、増益予想は326社、減益予想は163社、業績予想を「未定」とした企業は45社だった。減益予想と未定を合わせると、およそ4割に達する。

ここで重要なのは、「昨年度は良かったのに、今年度は慎重な見方が増えた」というズレである。企業決算では、過去の利益が大きくても、将来の利益が伸びにくいと見られれば、投資家は警戒しやすい。今回の決算発表は、その警戒材料が少しずつ増えていることを示している。

なぜ「未定」が増えるのか

業績予想を未定にする企業が増えると、悪材料のように受け止められやすい。ただし、未定は必ずしも「悪い数字を隠している」という意味ではない。合理的な前提を置きにくいほど、外部環境が動いている場合にも、企業は予想を出しにくくなる。

今回の背景の一つにあるのは、イラン情勢の悪化だ。原油や石油製品の価格が高止まりし、供給面の不安も意識されている。企業にとって原油高は、ガソリン価格だけの問題ではない。石油由来の原材料や燃料、物流費、電力費などを通じて、幅広いコストに波及する。

特に影響が出やすいのは、海運、化学、輸送用機器などの分野だ。海運は燃料費や輸送ルートの影響を受けやすい。化学はナフサなど石油由来の原料価格に左右される。輸送用機器では、部品や素材、物流費の上昇が利益を圧迫する可能性がある。

つまり、今年度の見通しが慎重になっているのは、日本企業そのものの競争力が急に弱まったからとは限らない。企業努力だけでは読み切れない地政学リスクや原油高が、業績予想を出しにくくする背景になっている。

原油高はどこまで生活に広がるのか

原油高と聞くと、まずガソリンや灯油の値上がりを思い浮かべやすい。しかし、企業業績への影響はもっと広い。原油から作られるナフサは、プラスチック、合成樹脂、包装材、食品容器、断熱材などの原料になる。

影響を受けやすい企業の一例が、発泡プラスチックメーカーのJSPだ。同社は東証プライム上場企業で、証券コードは7942。住宅用の断熱材や食品容器などを手がけている。昨年度は増益だったが、今年度は24%の減益を予想している。

背景には、材料の仕入れ価格の上昇がある。JSPでは、材料価格がイランへの軍事作戦が始まる前と比べて2割から4割ほど上がったため、取引先と交渉しながら販売価格への転嫁を進めているという。

価格転嫁とは、原材料費や物流費の上昇分を販売価格に反映することだ。企業にとっては利益を守るために必要な対応だが、価格が上がれば最終製品も高くなる。住宅資材なら住宅価格、食品容器なら食品価格、自動車部品なら自動車価格に影響する可能性がある。

ここで企業が恐れているのは、単なるコスト増だけではない。値上げが広がることで、消費者や企業が購入を控え、需要そのものが落ち込むことだ。売上高が増えても、コスト増と需要減が重なれば、利益は伸びにくくなる。

すべての企業に逆風なのか

原油高は多くの企業にとってコスト増の要因になるが、すべての企業に同じような逆風が吹くわけではない。業種によっては、むしろ追い風になる場合もある。

エネルギー開発大手のINPEXは、東証プライム上場企業で、証券コードは1605だ。原油価格の上昇や為替の前提が変われば、資源開発企業の収益見通しにはプラスに働くことがある。原油高は、石油由来の原材料を使う企業にはコスト増になりやすい一方、資源を生産・販売する企業には収益上振れ要因になりうる。

円安も同じだ。輸出企業にとっては海外売上の円換算額を押し上げる要因になる一方、輸入原材料や燃料への依存が高い企業には負担になりやすい。日本企業全体をまとめて「良い」「悪い」と見るだけでは、実態を見誤る。

今回の決算発表で、AI・データセンター関連や金融が堅調だった一方、化学・海運・輸送用機器で慎重な見通しが目立ったのは、この業種ごとの差が表れたものだ。業績見通しを見るときは、全体の増益率だけでなく、その企業が何を売り、何を仕入れ、どのコストに弱いのかを合わせて見る必要がある。

投資家や家計は何を見ればよいのか

企業決算を見るうえで、昨年度の増益はもちろん重要だ。ただし、それだけでは今後の姿は見えにくい。株価は過去の成績だけでなく、次の利益がどうなるかを織り込んで動くからだ。

今回のように、実績は強いが見通しは慎重という局面では、数字の表面だけで判断しにくくなる。増益企業が多いから安心、減益予想が多いから危険、と単純に分けるよりも、減益の理由が一時的なコスト増なのか、需要そのものの弱さなのかを見分けることが大切になる。

これは投資家だけの話ではない。原油高や原材料価格の上昇は、企業の利益を通じて株価に影響するだけでなく、商品価格や住宅価格、食品価格にも波及する可能性がある。新NISAなどで投資信託や個別株を選ぶ人にとっても、企業業績の変化は遠い話ではない。

もっとも、専門家の間では、日本企業の稼ぐ力は以前より高まっているとの見方もある。世界経済が大きく崩れているわけではなく、日本企業が業績を伸ばしやすい環境が残っているという指摘もある。したがって、今回の数字をもって日本企業全体が失速したと断定するのは早い。

むしろ見るべきは、好調だった企業業績が、外部環境の変化にどこまで耐えられるかだ。原油高、供給不安、価格転嫁、需要減。この連鎖のどこで利益が削られやすいのかが、今年度の決算を見るうえで焦点の一つになる。

「好業績」の中身を見直す局面に入った

今回の決算発表は、日本企業の昨年度業績がなお強かったことを示した。一方で、今年度については、イラン情勢や原油高を理由に慎重な見方が広がっていることも明らかになった。

大事なのは、「日本企業は弱くなった」と短絡的に見ることではない。実績は底堅いが、外部環境の不確実性が高まり、企業が利益見通しを出しにくくなっている。そう捉える方が、今回の数字に近い。

決算で見るべきものは、利益が増えたか減ったかだけではない。その利益がどの前提に支えられ、どのリスクで崩れやすいのかまで見て初めて、企業業績の実像が見えてくる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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