財務省が2026年7月8日に公表した国際収支速報によると、2026年5月の日本の経常収支は3兆9,683億円の黒字だった。前年同月と比べ、黒字幅は6,478億円拡大した。
ただし、この数字は「輸出が伸びたから黒字になった」とだけ読むと実態をつかみにくい。経常収支は、モノの輸出入だけでなく、旅行や輸送などのサービス取引、海外投資から得る利子や配当なども含む対外取引の統計である。
今回の統計で確認したいのは、黒字の中心が貿易収支ではなく、第一次所得収支にある点だ。日本から見ても、この内訳は為替、輸入価格、企業収益、観光関連の見方につながる。家計に直接届く統計ではないが、円相場や輸入コストを通じて、食品、エネルギー、日用品の価格にも間接的に関わる。
黒字の中心は、海外資産から得る第一次所得収支だった
5月の経常黒字で最も大きかったのは、第一次所得収支の4兆2,756億円の黒字である。第一次所得収支とは、海外への投資や保有資産から得る利子、配当、企業収益などの収支を指す。
つまり今回の統計は、輸出が伸びたという話だけでなく、日本が海外資産から得る収益にどれだけ支えられているかを示す材料でもある。海外子会社の収益、金融機関や企業の証券投資収益、為替水準などが、経常収支の数字に反映される。
ここで注意したいのは、「配当金が増えた」とだけ表現すると範囲が狭くなる点だ。財務省資料では、第一次所得収支の黒字幅拡大について、証券投資収益などを背景に挙げている。利子や配当を含む海外投資収益全体として読む方が、統計の性格に近い。
貿易収支は黒字化、ただし69億円にとどまる
5月の貿易収支は69億円の黒字だった。黒字に転じた点は確認したい材料だが、第一次所得収支の4兆円超と比べると、経常黒字全体を動かした中心とは言いにくい。
主な数値は次の通りだ。
- 経常収支:3兆9,683億円の黒字
- 貿易収支:69億円の黒字
- 輸出:9兆3,602億円、前年同月比14.7%増
- 輸入:9兆3,533億円、前年同月比8.1%増
- 第一次所得収支:4兆2,756億円の黒字
- サービス収支:103億円の赤字
輸出も輸入も増えているため、輸入が落ち込んだから黒字になったわけではない。輸出の伸びが輸入の伸びを上回った形である。
財務省資料では、半導体等電子部品や自動車などの輸出増が参考情報として示されている。ただし、これは通関ベースの商品別動向を含む説明であり、輸出額の増加が数量増、価格上昇、為替影響のどれにどれだけよるのかは、別の統計と合わせて確認する論点になる。
サービス収支の赤字化は、インバウンドを単純に読まない手がかりになる
5月のサービス収支は103億円の赤字だった。財務省資料では、旅行収支の黒字幅縮小が背景として示されている。
サービス収支には、旅行だけでなく、輸送、知的財産権等使用料、金融サービスなども含まれる。訪日客が多い局面でも、日本人の海外旅行、海外へのサービス支払い、輸送費、デジタル関連サービスの支払いなどによって、全体の収支は変わる。
そのため、サービス収支の赤字化をもって観光業全体の不調と断定するのは早い。一方で、「インバウンドが強いならサービス収支も当然強い」と単純化することもできない。旅行収支の黒字幅、訪日外国人旅行者数、出国日本人数、旅行消費額を合わせて確認することで、観光関連の実態が見えやすくなる。
市場や家計には、為替・輸入価格・企業収益を通じてつながる
経常収支は、毎月の家計支出を直接決める統計ではない。それでも、市場では円需給や日本経済の対外取引を確認する指標の一つとして扱われる。
経常黒字は、海外との取引で受け取り超過になっていることを示す。ただし、単月の黒字額だけで円相場を説明することはできない。金利差、金融政策、資源価格、海外投資収益の再投資動向など、為替を動かす要因は多い。
家計との関係では、輸入額の増加が一つの確認点になる。資源価格や円安が輸入コストを押し上げれば、エネルギー、食品、日用品の価格に時間差で影響する。一方で、輸出企業や海外で収益を上げる企業にとっては、外需や海外投資収益が企業収益を見るうえでの論点になる。
次の確認点は、輸出増と海外投資収益が続くか
5月の経常収支は大幅な黒字だったが、重要なのは黒字額だけではない。第一次所得収支が大きく、貿易収支は小幅黒字、サービス収支は赤字という組み合わせが、現在の日本の対外取引の姿を映している。
今後確認したいのは、半導体関連や自動車などの輸出増が続くのか、輸入価格がどう動くのか、海外投資収益が高い水準を維持するのかという点だ。あわせて、旅行収支を含むサービス収支がどの方向に動くかも、観光やサービス分野を考える材料になる。
経常黒字は、日本経済の対外取引の一面を示す。ただし、その中身を分けて読まなければ、どの産業や資金の流れが支えているのかは見えない。今回の統計は、日本の稼ぎ方を「輸出」「海外投資収益」「サービス取引」に分解して確認する意味を改めて示している。
出典・参考
主な参照資料
- 財務省「令和8年5月中 国際収支状況(速報)の概要」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/preliminary/pg202605.htm

