「燃料は7月まで確保できている。ただし、夏ごろに電気料金が高騰する懸念がある」
日本最大の発電事業者であるJERAが、イラン情勢をめぐる決算説明会でこうした見方を示した。一見すると、矛盾して聞こえる。燃料が足りているなら、電気代は上がらないのではないか。だが実際には、「在庫の確保」と「価格の上昇」は別の問題だ。
なぜ「足りている」のに値上がりを警戒するのか
JERAは2026年4月27日、2025年度の決算説明会をオンラインで開いた。その中で、火力発電の主な燃料であるLNG(液化天然ガス)について、2026年7月分まで在庫を確保していると説明した。
LNGとは、天然ガスを冷却して液体にし、船で運びやすくした燃料である。日本は天然ガスを国内でほとんど産出できないため、電力会社や都市ガス会社が海外から輸入している。火力発電の燃料としても重要で、日本のエネルギー構造の中で大きな位置を占める。
今回の焦点は、燃料が足りるかどうかではなく、燃料をいくらで調達するかだ。中東情勢の緊張が長引き、LNG市場の需給や輸送への不安が強まれば、調達コストが上昇する可能性がある。そのコストは、一定の時間差を置いて電気料金に反映される仕組みになっている。
JERAの大滝雅人財務戦略統括部長は、LNGの中東からの供給途絶が長期化すれば、価格面や市場での流動性にも影響が出るとの認識を示した。警戒の焦点は、供給量そのものよりも、価格と市場流動性にある。
電気代に「夏ごろ」と言える理由
なぜ「夏ごろ」という時期が出てくるのか。理由は、電気料金の計算方法にある。
電気料金には「燃料費調整額」という仕組みが組み込まれている。発電に使う原油、LNG、石炭の輸入価格が上がれば電気料金も上がり、下がれば下がるよう、毎月調整する制度である。
ただし、この調整は「いまの燃料価格」をそのまま使うわけではない。資源エネルギー庁の説明では、電気料金に反映される燃料価格は、各月の3〜5か月前の貿易統計価格をもとに計算される。仮に足元で燃料価格が上昇すれば、その影響が消費者の電気代に表れやすくなるのは数か月後だ。
JERAの「夏ごろ警戒」という見方は、この制度上の時間差を踏まえたものと読める。
JERAの規模が示す影響力
JERAは、東京電力グループと中部電力が共同で設立した発電・燃料調達会社だ。非上場企業だが、その規模は日本の電力システムに深く関わっている。
2025年度にJERAが発電用に調達したLNGは2235万トンで、日本全体のLNG輸入量6530万トンの約34%に相当する。JERAの燃料調達は、一社の問題にとどまらず、日本の電力コスト全体にも影響が及びやすい。関連する上場企業としては、東京電力ホールディングス(東証プライム:9501)と中部電力(東証プライム:9502)がある。
JERAが警戒感を示したのは電気料金だけではない。2026年度の業績見通しについても、中東情勢などにより資源価格や燃料調達の見通しが不透明だとして「未定」とした。中長期のコスト構造を読み切りにくい状態が続いているということだ。
ホルムズ海峡という急所
中東情勢がLNG価格に波及しやすい地理的な理由がある。ホルムズ海峡だ。湾岸の産油・産ガス国からエネルギーを運ぶ海上交通の要衝であり、ここが不安定化すれば、LNGだけでなく原油の輸送にも影響が出る。
JERAのLNGのうち、ホルムズ海峡を通過するものは約5%とされる。日本全体で見ても、ホルムズ海峡を経由するLNG輸入は年間約400万トン、全体の約6%程度との推計がある。数字だけ見れば一部にとどまる。
それでも、影響は「6%が止まるかどうか」だけでは測れない。市場は供給不安を価格に織り込みやすい。実際に供給が途絶えなくても、途絶えるかもしれないという懸念が広がれば、国際的なLNG価格に上昇圧力がかかる可能性がある。
日本はエネルギーの輸入依存度が高い。国際価格の変動が、燃料費調整額を通じて家計や企業のコストに届きやすい構造にある。
「電力は足りる」と「電気代が上がる」は両立する
このニュースで押さえるべき論点は、「供給不安」と「価格上昇」を分けて考えることだ。
JERAは電力の安定供給を重視する姿勢を示している。現時点で、停電や電力不足が起きるという話ではない。問題は、その電力を確保するための燃料コストが上がり、その一部が家計や企業の電気代に転嫁される可能性である。
夏は冷房需要が増える。電力需要が高まる時期に燃料コスト上昇の影響が電気料金に反映されれば、家計の負担感は増しやすい。企業向けのエネルギーコストが上がれば、商品やサービス価格への二次的な影響も生じうる。
中東情勢は遠い話に見える。だが、燃料費調整額という制度は、世界の燃料価格と日本の電気代をつないでいる。地政学リスクが、LNG価格を経由して家計に届くルートはすでに存在している。
これは「確定」ではなく「警戒」だ
ここで重要なのは、JERAの発言があくまで「懸念」を示したものであり、電気料金の高騰が確定したわけではないという点だ。
中東情勢が緩和に向かえば、LNG価格は安定し、電気代への影響も限定される可能性がある。今後の情勢次第で状況は変わりうる。JERAが2026年度の業績見通しを「未定」とした背景にも、この不確実性がある。
「夏に電気代が必ず上がる」という読み方ではなく、「上がる可能性があるため、燃料価格と料金反映の時間差を見ておく」という姿勢が現時点では妥当だ。
ただ、こうした警戒がJERAの規模で示された意味は小さくない。日本のLNG輸入量の約3分の1に相当する量を発電用に調達する会社が、燃料コストと電気料金について慎重な見方を示している。家計や企業にとって、夏場の電気代を注視すべき材料である。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

