中東情勢の緊張を受け、石油化学製品の基礎原料であるナフサの調達が改めて論点になっている。NHKなどの報道によると、2026年7月2日、石油化学メーカーなどでつくる業界団体の石油化学工業協会で筑本学会長が記者会見し、ナフサ由来の石油製品や、ナフサの原料となる原油の備蓄のあり方を、国や石油元売りと検討する考えを示した。
今回の話は、原油価格やガソリン価格だけの問題ではない。ナフサは消費者が直接買う商品ではないが、包装材、レジ袋、食品トレー、接着剤、塗料、電子部品、医療・衛生用品などの前段階にある原料だ。調達が不安定になると、まず企業間の材料調達、納期、価格に表れ、時間差で身近な製品に届く可能性がある。
新しい点は、業界側が単なる代替調達にとどまらず、備蓄のあり方に踏み込んだことにある。ただし、現時点で備蓄制度が正式に決まったわけではない。何を、誰が、どの程度持つのかは、これからの協議項目になる。
ナフサは「見えない原料」だが、包装材や工業部品につながる
ナフサは、原油を精製して得られる石油製品の一種で、石油化学産業の入口にある。ナフサを分解すると、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品が作られ、そこから樹脂やフィルム、容器、接着剤、塗料、電子材料などに加工されていく。
このため、ナフサ調達の不安は「燃料が高くなるか」という話だけでは整理できない。食品を包むトレーや袋、医療現場で使う衛生用品、家電や自動車に使われる部材など、生活と産業の両方に関わる。
一方で、「ナフサ不足」と聞いて、すぐにすべてのプラスチック製品がなくなると読むのも早い。製品ごとに在庫、代替材料、輸入のしやすさ、需要の集中度が異なるため、影響は一律ではなく、地域や品目、企業によって差が出る。
「量はある」と「必要な原料が届く」は別の問題
石油化学業界では、中東以外からの代替調達も進められている。報道では、エチレン生産に必要な原材料は確保できており、今後は工場稼働率が上がるとの説明も示されている。
ここで分けて考えたいのは、総量として原料を確保できることと、個別の企業や製品が必要とする原料を安定して受け取れることは同じではない点だ。ナフサには、成分や用途が異なる種類があり、設備との相性や作れる製品の構成に影響する。
野村総合研究所の分析でも、ナフサの総量が確保されても、個別企業が必要な種類や成分のナフサを確保できるとは限らないという論点が示されている。数字上の供給量だけでは、特定の樹脂、包装材、工業部材の納期や価格を十分に説明できない。
中東以外からの調達だけで解消できるとは限らない
代替調達では、数量だけでなく、価格、品質、輸送、受け入れ体制が同時に問題になる。調達先が変われば、輸送距離や船舶手配、保険料、契約条件が変わる。ナフサの性質が従来品と異なれば、国内設備で想定通りに処理できるかも確認材料になる。
新電力ネットの専門解説では、ナフサ不足の問題について、量だけでなく品質差、製品バランス、流通の目詰まりも課題になると整理している。これは、原料から最終製品までの工程が長く、途中のどこかで条件が合わなければ、最終製品の供給や価格に影響が出るためだ。
企業が不安に備えて在庫を積み増す場合もある。これは合理的な防衛策になり得る一方、短期的には買い急ぎや調達の偏りを生み、必要な企業に必要なタイミングで材料が届きにくくなる論点も残る。
備蓄を議論するなら、何をどこまで持つかが争点になる
今回の会見で注目されるのは、業界団体が備蓄の検討に言及した点だ。日本には原油の国家備蓄制度があるが、ナフサやナフサ由来の石油化学製品をどこまで備えるかは、原油備蓄と同じ発想では整理しきれない。
原油を備蓄しておけば、精製によってナフサを得る余地はある。しかし実際に必要になるものが、ナフサそのものなのか、エチレンなどの基礎化学品なのか、樹脂のような中間材料なのか、包装材や医療用品のような最終製品に近いものなのかで、備える対象は変わる。
備蓄を厚くすれば、供給途絶への備えにはなる。一方で、保管設備、在庫管理、品質劣化、費用負担の問題が出る。国、石油元売り、化学メーカー、加工メーカーのどこがどの費用を負担するのか。そのコストが製品価格に影響するかどうかも、制度設計上の論点になる。
生活用品への影響は、全国一律の不足として読まない
海外メディアでは、日本国内でレジ袋、食品トレー、食品用手袋などに不足や価格上昇が出ている個別事例も報じられている。ナフサが印刷インキ、プラスチック、接着剤、医療用品などに使われることを考えると、生活への接点は広い。
ただし、個別の店舗や地域で起きた不足を、全国的な深刻不足と読み替えるのは適切ではない。食品トレーでは調達が詰まっても、別の包装材では在庫で吸収できる場合がある。企業によって契約先、在庫水準、代替品の有無も異なる。
家計への影響も、すぐに「商品がなくなる」という形だけで表れるとは限らない。包装材や衛生用品のコストが、食品価格、外食、医療・介護用品、自治体指定ごみ袋などに遅れて反映されるかどうかが確認点になる。
エチレン回復だけでなく、川中・川下の詰まりも確認点になる
業界側がエチレン生産の回復見通しを示したことは、短期的な供給懸念を抑える説明にはなる。エチレンは多くのプラスチック製品につながる重要な基礎化学品であり、生産が戻れば関連製品の供給にも一定の支えになる。
それでも、エチレンだけで石油化学製品全体を判断するのは難しい。ナフサ由来の製品は、基礎化学品、樹脂、フィルム、容器、接着剤、塗料、電子材料、医療用品へと段階を経て広がる。原料、在庫、物流、価格の条件がどこかで崩れれば、最終製品では納期遅れやコスト上昇として表れる。
今後の注目点は、備蓄がどの程度具体的な制度論に進むのか、対象が原油・ナフサ・石化製品のどこまで広がるのか、そして包装材や医療用品、工業部品の価格や納期にどのような変化が出るのかだ。中東情勢の緊張は、エネルギー価格だけでなく、生活用品と産業部材を支える原料網の弱さを映す問題にもなっている。
出典・参考
主な参照資料
- 新電力ネット「ナフサとは?石油化学製品の基礎原料と需給構造」 https://pps-net.org/column/160590
- 野村総合研究所 木内登英氏コラム「ナフサ不足に関する分析」 https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20260413_2.html
- The Guardian “Japan naphtha shortage plastic bag” https://www.theguardian.com/world/2026/jun/04/japan-naphtha-shortage-plastic-bag

