イランの教訓を使う北朝鮮——金正恩が「核を手放さない」理由をさらに不可逆化した演説の意味

2026年3月24日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が国会にあたる最高人民会議で演説し、自国の核・ミサイル開発を「後戻りできない国家路線」として改めて宣言した。単なる対米非難の繰り返しに見えるかもしれないが、今回の発言には一つの重要な文脈がある。金氏はイランへの米軍攻撃を引き合いに出しながら北朝鮮の核保有の正当性を論じており、発言全体からは「核を持たない国が米国の軍事力にさらされた」という論理を積極的に活用していることがうかがえる。


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「イランを見よ」——北朝鮮が使い始めた新しい論理

金正恩氏は演説の中で、米国によるイランへの軍事作戦を念頭に置きながら、「アメリカは世界各地で国家的テロや侵略行為を行っている」と非難した。そして続けてこう述べた。「核保有を後戻りできないものとしたわが国の決断が、いかに正当か実証している。われわれは自衛的な核抑止力をさらに拡大・進化させ、核武力の迅速かつ正確な対応態勢を万全に整える」。

ここで重要なのは、この発言が突然出てきたものではないという点だ。北朝鮮の外務省は3月1日の時点ですでに、米国とイスラエルによる対イラン攻撃を「違法な侵略行為」として強く非難している。朝鮮半島分析サイト「38ノース」によれば、この声明は2025年6月の攻撃への反応よりも明らかにトーンが強く、北朝鮮が今年2月の第9回党大会で強調した反米・核武装路線と一体のものとして展開されていると分析されている。

つまり今回の最高人民会議演説は、3月上旬から積み上げてきた「イラン=核保有正当化の教材」という論理の、制度的な集大成だといえる。


「自衛の核」から「不可逆の核」へ

北朝鮮の核保有の論理は、長年「米国の侵略から身を守るための自衛手段だ」というものだった。しかし今回の演説は、そこからさらに一歩踏み込んでいる。

AP通信は、金氏が北朝鮮の核保有を「irreversibly(取り消しのきかない形で)」固めると宣言したと報じた。「自衛のため」という理由づけから、「もはや撤回できない国家の決断だ」という制度化へ——核保有の性格が変わりつつある。

「核抑止力の拡大・進化」の具体的な中身については、今年2月の第9回党大会がより詳細だ。党大会では、ICBMや戦術核、潜水艦発射ミサイルといった多層的な核戦力の整備方針が打ち出されており、今回の最高人民会議演説はその路線を制度的に確認するという意味合いが強い。金氏が今回言及した「迅速かつ正確な対応態勢を万全に整える」という表現は、こうした党大会以来の核戦力拡張路線の延長線上にある。


最高人民会議とはどんな場か

そもそも今回の演説が行われた「最高人民会議(SPA)」とは何か。日本の国会や欧米の議会に相当する、北朝鮮の最高立法機関だ。ただし民主主義国家の議会とは性格が異なり、実際には金正恩氏や党指導部がすでに決定した路線を制度化・追認する場として機能することが多い。そのため、ここでの発言は単なる政治的スローガンではなく、「国家路線としての公式宣言」という重みを持つ。

今回の会議では、韓国をめぐる憲法改正の内容が注目されていた。北朝鮮は2024年の憲法改正で韓国を「敵対国家」と定義したとKCNAベースの各社報道が伝えており、対韓強硬路線を制度化する基本線はすでに示されている。今回さらに憲法の一部を改正したとは明らかにされたものの、何をどこまで追加・変更したかは現時点で未公表だ。


韓国には「徹底無視」、米国には含みも

演説の中で金氏はまた、韓国について「最も敵対的な国家とみなし、徹底的に無視していくとともに、わが国に手を出せば容赦なく代価を払わせる」と述べ、対話を拒否する姿勢を改めて示した。

北朝鮮はかつて、「南北統一」を国家目標として掲げていた。しかし2024年以降、金氏は韓国を「同じ民族の一部」ではなく「敵対する別の国家」として扱う方向へ大きく転換している。今回の改憲内容が公表された場合、その条文化がさらに進んでいるかどうかが確認されることになる。

一方、米国に対する姿勢は、韓国への強硬路線とはやや異なるニュアンスを持っているという見方もある。AP通信は、金氏の発言には「米国が北朝鮮の核放棄を交渉の前提条件に置かないなら、対話の余地を残している」という含みがあると整理している。韓国への完全な拒絶と、米国への条件付き対話の余地——この二層構造に、北朝鮮外交の計算高さが表れているとも読める。

韓国メディアのコリア・中央デイリーやハンギョレは、イランへの米軍攻撃が北朝鮮にとって「核を持たない国は攻撃される」という確信をさらに強め、トランプ政権との対話再開にも逆風になると専門家が見ていると伝えている。


日本政府の反応

木原官房長官は24日、「北朝鮮による核・ミサイル開発は国連安保理決議の明白な違反であり、わが国や地域、国際社会の平和と安全を脅かすものだ」と述べた。そのうえで「北朝鮮の核保有は認められないとの日本政府の立場に変わりはない」とし、米国・韓国をはじめとする国際社会と協力しながら、核・弾道ミサイル計画の完全な廃棄を求め続けていく考えを示した。


なぜ今、この発言は重要なのか

イランへの米軍攻撃という出来事を、北朝鮮がいかに素早く自国の核保有正当化に活用したか——今回の演説はその政治的な巧みさを示している。韓国専門家たちが指摘するように、今回の発言は単なる国内向けプロパガンダにとどまらず、今後の米朝交渉をさらに難しくする構造的な変化を示唆している可能性がある。

核保有を「自衛の選択」から「撤回不能な国家路線」へと格上げしている今、北朝鮮が外交的な交渉の場で核放棄を受け入れる可能性は、以前にも増して低くなっているとみられる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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