ANA次期社長が語る原油高の「本当の怖さ」——国内線の運賃は変わるのか

「直ちに影響を受けるとは考えていない。ただ——」

4月1日にANA(全日本空輸)の社長に就任する平澤寿一氏は、イラン情勢の悪化を受けた原油価格の急騰について、こう言葉を続けた。「燃油価格が高止まりするようであれば、影響は全くないとは言えない」。

出典:NHK記事

この”ただし”の部分に、いまの航空業界が直面している問題の本質が凝縮されている。


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今すぐ困ってはいない、でも安心もできない

3月17日時点でブレント原油は1バレル103ドル台まで上昇している。中東情勢の緊迫化によって、世界の原油輸送の要衝であるホルムズ海峡付近で物流の混乱が続いているためだ。

しかし、航空会社はこうした価格変動に対し、ある程度の備えをしている。それが燃油ヘッジだ。

燃油ヘッジとは、将来使う燃料の価格をあらかじめ一定の水準で固定したり、為替も含めて予約したりする仕組みだ。突然の急騰に対する「クッション」として機能し、ANAは投資家向け資料で、燃油ヘッジを適用期間の3年前から実施する方針を示している。

だから「直ちに影響はない」という発言は、単なる強がりではない。一定の根拠がある。

問題は、ヘッジが切れた後だ。燃料高が数か月以上続く「高止まり」の局面になると、保険が効かなくなる。そこに平澤氏が懸念を示した「高止まり」という言葉の意味がある。


今回の局面で、航空燃料が原油以上に高騰している

さらに足元では、もう一つの問題がある。

中東情勢の悪化では、原油の先物相場だけでなく、実際に航空会社が買うジェット燃料の現物価格が急騰しやすい。精製や輸送の混乱がそのまま燃料コストに跳ね返るためだ。

海外報道では、今回の局面でジェット燃料価格の上昇が原油以上に急激だとされており、海外の航空会社の中にはすでに減便やサーチャージ導入で対応を始めているところも出ている。「原油価格が上がった」という数字だけを見ていると、航空会社への影響を過小評価してしまう可能性がある。


「国内線のサーチャージ」という新たな論点

今回の平澤氏インタビューで、もう一つ注目を集めたのが、国内線の燃油サーチャージについての発言だ。

燃油サーチャージとは、燃料価格が一定水準を超えた際に、航空券本体とは別枠で徴収する追加料金のことだ。国際線ではすでに広く定着した仕組みで、チケット購入時に「燃油サーチャージ○○円」と表示されているのを見たことがある人も多いだろう。

一方で、国内線での燃油サーチャージはまだ日本では一般化していない。そこに風穴を開けようとしているのが日本航空(JAL)だ。JALは2027年4月からの国内線への燃油サーチャージ導入を検討しており、経営ビジョンの一環として方針を公表している。

これに対して平澤氏は、「他の交通機関との競合関係もある。あまり時間をかけるつもりもない」と述べ、ANAとしても早期に判断する考えを示した。JALに続き、ANAも国内線サーチャージの導入に踏み出すかどうか——これが航空業界の新たな焦点になっている。

出典:NHK記事


なぜ国内線は値上げが難しいのか

「なぜ国内線だけ話が複雑なのか」と思う人もいるかもしれない。

理由はシンプルで、国内線は新幹線、高速バス、自家用車と直接競合しているからだ。国際線に代替手段はないが、国内移動は別の選択肢がある。価格が上がれば、特に旅行者はすぐに他の移動手段に流れてしまう。

加えて、利用者の構成も変わってきた。以前は「飛行機で出張」という会社員が国内線の安定した収益源だったが、テレワークの普及でビジネス客が大きく減った。替わりに増えた観光客は、価格に非常に敏感だ。運賃を上げれば乗客が減り、結果として収入が下がるというジレンマがある。

平澤氏が「価格転嫁するのがなかなか難しい状況だ」と率直に語った背景には、こうした構造的な問題がある。


「1つの予約サイトで新幹線も飛行機も」という未来

長期的な視点で平澤氏が語った言葉も印象的だった。

「航空だけではなく鉄道やバス、車などさまざまな交通機関と連携して自由でストレスのない移動を実現したい。1つの予約サイトで複数の航空会社の航空券やJRの乗車券を買えるようにするなど、同業他社のほかJRや私鉄各社などとも連携を深めていくことが重要だ」

国内線の厳しい競争環境を、航空会社だけで解決しようとするのではなく、交通インフラ全体の中でANAの役割を再定義しようとする発想だ。競争から協調へ、という方向性は、地方路線の維持に悩む地域や鉄道会社とも利害が一致する部分がある。

もっとも、「1つの予約サイトで新幹線も飛行機も」という世界の実現には、各社のシステムや利害の調整が必要で、いつ頃どのような形で具体化するかはまだ見えていない。


まとめ——「直ちに影響なし」の先にある問い

情報を整理すると、次のような構図が見えてくる。

短期は「ヘッジで守られている」が、中長期は「高止まりが続けば厳しい」。国際線は伸びており——ANAホールディングスの2025年度第3四半期決算でも国際旅客需要の拡大が業績を支えたことが示されている——だからこそ「地政学リスクへの感度が上がっている」。国内線は単純な値上げが難しく、サーチャージ導入の検討と他交通機関との連携が避けられない課題になっている。

燃料価格という「外側の変化」と、需要構造の変化という「内側の変化」が重なる中で、ANAの新リーダーはどこに舵を切るか。その答えが出始めるのは、4月以降になりそうだ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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