世界の中央銀行準備資産で金が米国債を上回る 時価評価と分散志向の読み方

欧州中央銀行(ECB)が2026年6月2日に公表した報告書で、2025年末時点の世界の中央銀行準備資産に占める金の比率が、米国債を上回ったと示された。総公的外貨準備に占める比率は、金が27%、米国債が22%、ユーロが15%だった。

ただし、これは市場価格ベースの構成比である。各国中央銀行が米国債を一斉に売り、金へ大規模に乗り換えたという話ではない。ECBは、2023年末の金価格で補正すると、米国債26%、金16%、ユーロ16%になるとも説明している。つまり、時価で見れば金が上回った一方、価格上昇の効果を取り除くと米国債がなお上位に残る。

中央銀行の準備資産とは、各国が為替介入、対外決済、危機時の信用補完などに備えて持つ資産だ。日本から見ても、これは遠い統計だけの話ではない。米国債市場はドル金利やドル円相場と結びつき、金価格は円建ての小売価格や買取市場、金関連金融商品への関心にも届きやすい。ただし、中央銀行の準備資産運用と家計の資産運用は目的も制約も異なる。

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「金27%」は保有量だけでなく価格上昇が押し上げた

今回の数字で最初に確認したいのは、金の比率上昇が購入量だけで説明できるものではない点だ。ECB報告書では、金価格が名目ベースで2025年に約60%、2024年に約30%上昇したことが、準備資産に占める金の比率を押し上げた要因として示されている。

金は、保有量が変わらなくても価格が上がれば評価額が増える。中央銀行のバランスシート上では、既に持っている金の価値が膨らみ、全体に占める比率も高くなる。今回の「金が米国債を上回った」という見出しの強さは、この時価評価の効果を含んでいる。

この違いを押さえると、ニュースの読み方は変わる。金の存在感が高まっているのは確かだが、それは保有数量の急増だけを意味しない。価格効果、中央銀行の購入、準備資産の分散という複数の要素が重なっている。

中央銀行が金を持つ理由、利回りより重い分散と信用リスク

米国債は、長く代表的な準備資産とされてきた。市場規模が大きく、売買しやすく、国際決済で中心的な役割を持つ米ドルと結びついているためだ。危機時にも買い手がつきやすい資産として、多くの中央銀行が重視してきた。

一方、金は米国債とは性質が違う。金は特定国の債務ではなく、発行体の信用リスクに直接依存しない。地政学的な緊張や制裁・資産凍結リスクが意識される局面では、外貨準備の一部を金に振り向ける動きが出やすくなる。

ただし、金は米国債の完全な代替ではない。利息を生まず、保管コストがかかり、価格変動も大きい。中央銀行にとっての金は、利回りを得る資産というより、相手国の信用や政治判断に依存しにくい分散先としての意味が大きい。

中央銀行の金購入は高水準、ただし直近3年よりは鈍化

金の存在感を支えているのは価格上昇だけではない。ECB報告書では、2025年の中央銀行による金購入は約850トンとされる。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の統計でも、2025年の中央銀行・公的機関の金需要は863.3トンだった。

この水準は、2010〜2021年平均の473トンを大きく上回る。中央銀行の金需要は、歴史的に見てなお強い水準にある。

一方で、2022〜2024年の年1,000トン超のペースからは低下している。ここでも、「中央銀行の金需要が高水準にある」ことと、「購入ペースがさらに加速している」ことは分けて考えたい。時価評価での比率上昇と、実際の購入量の変化を混同すると、準備資産の移り変わりを過大に読んでしまう。

「米国債を抜いた」は「ドルの終わり」ではない

今回の報告は、ドル中心の国際金融秩序にどのような変化が起きているのかを考える材料になる。ただし、「金が米国債を上回った」ことを、そのまま「ドルの地位低下を一気に示すもの」と読むのは粗い。

米国債は米政府が発行する債券であり、米ドルそのものではない。中央銀行は米国債以外にも、ドル建て預金やその他のドル建て資産を持つ場合がある。米国債単体の比率が下がっても、米ドル建て資産全体の位置づけが同じように下がったとは限らない。

国際通貨基金(IMF)のCOFER(コーファー、外貨準備の通貨構成を示すIMF統計)では、2025年第4四半期の外貨準備に占める米ドル建て保有比率は56.77%だった。ユーロ建ては20.25%、人民元建ては1.95%である。ただし、COFERは金準備そのものを含まない統計のため、金と米ドル比率を同じ枠内で単純比較することはできない。

今回の変化は、米国債単体、米ドル建て資産全体、金、ユーロを分けて読む必要がある。準備資産の分散が進むとしても、それは直線的な脱ドル化とは限らない。

日本からは金価格だけでなく米国債市場とドル円にもつながる

日本との関係で見ると、焦点は金価格だけではない。米国債は世界の金利形成に深く関わる。米金利やドル円相場は、輸入価格、企業の資金調達、国内の金融環境にも波及し得る。

金価格の上昇は、国内の金小売価格、宝飾品、買取市場、金関連の投資信託やETFへの関心を高めやすい。円安が重なる局面では、国際価格の上昇に為替の影響も加わり、円建ての金価格がより大きく動いたように見えることがある。

もっとも、中央銀行が準備資産として金を持つ理由と、個人が資産運用で金を選ぶ理由は同じではない。中央銀行は国家の外貨決済や金融安定を支えるために保有する。家計では価格変動、手数料、税制、換金のしやすさなど別の条件が関わる。この記事では、投資対象としての金よりも、国際金融の中で金の役割が再評価されている構造を整理している。

次に確認したいのは、ドル資産全体と誰が金を買っているか

今後の確認材料は、金が米国債を上回ったという一点に限られない。まず、金価格が動けば準備資産に占める金の比率も変わる。価格が上がれば比率は高まり、下がれば時価ベースの構成比は低下する。

次に、米国債単体ではなく、その他の米ドル建て資産を含めたドル資産全体の動きが重要になる。準備通貨としてのドルの位置づけを判断するには、米国債、ドル預金、その他のドル建て証券、ユーロや人民元との比較を分けて確認することが手がかりになる。

さらに、どの国が、どのような背景で金を増やしているのかも論点になる。ECB報告書では、中国、ポーランド、トルコ、インドなどが2022年以降の主な購入国として挙げられている。WGCの調査でも、中央銀行関係者の多くが今後の金準備増加を見込んでいる。ただし、調査は回答者の見通しであり、個別中央銀行の確定した行動ではない。

「金が米国債を抜いた」という数字は、国際金融の変化を考える入口として強い。ただし、その中身は単純な米国債離れでも、短絡的な脱ドル化でもない。価格上昇、中央銀行の分散志向、地政学リスク、米ドル資産全体の位置づけを分けて追うことで、いわゆる金回帰の実像が見えやすくなる。

出典・参考

主な参照資料

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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