トランプ政権の10%関税に違法判断 相互関税に続き司法が歯止め

10%の関税は残るはずだった。ところが、その「代替策」にも司法のブレーキがかかった。

米国際貿易裁判所は2026年5月7日、トランプ政権が幅広い国や地域を対象に導入した10%の一律関税について、法律上認められた権限を超えているとして違法との判断を示した。もともとこの関税は、連邦最高裁で否定された「相互関税」などの代わりとして導入されたものだった。つまり、政権が関税政策を続けるために選んだ次の根拠にも、裁判所が疑問を突きつけた形だ。

ただし、これで米国の関税政策が全面的に止まるわけではない。今回の判断は1審段階で、政権が控訴する可能性がある。さらに、トランプ政権は別の法律を根拠にした関税措置も検討している。日本企業や投資家にとって重要なのは、「10%関税が違法と判断された」という見出しだけでなく、関税政策がどの根拠へ移り、どの産業に影響が出やすくなるのかを見極めることだ。

目次

何が違法と判断されたのか

今回問題になったのは、トランプ政権が通商法122条を根拠に発動した10%の一律関税だ。対象は幅広い国や地域で、日本を含む多くの貿易相手国に関係する措置だった。

通商法122条は、米国が国際収支上の大きな問題に直面した場合、大統領が一時的に輸入課徴金を課すことを認める規定だ。期間は原則150日以内、税率は最大15%までとされる。トランプ政権はこの条文を使い、10%の関税を導入した。

裁判所が問題にしたのは、政権が主張する「貿易赤字」が、この条文で想定されている「国際収支上の大幅かつ深刻な赤字」に当たるのかという点だった。国際貿易裁判所は、単に米国の貿易赤字が大きいという理由だけで、幅広い輸入品に一律関税を課すことは認められないという方向で判断した。

一見すると、これは法律の細かな解釈をめぐる争いに見える。しかし実際には、大統領が議会の明確な承認なしに、どこまで広範な関税を発動できるのかという大きな問題につながっている。

なぜ「代替策」まで止められたことが重いのか

今回の判断が注目されるのは、10%関税が最初の関税政策ではなく、すでに否定された措置の「次の一手」だったからだ。

トランプ政権は当初、IEEPA、つまり国際緊急経済権限法を根拠に、いわゆる相互関税などを発動していた。IEEPAは本来、国家安全保障や外交上の緊急事態に対応するため、大統領に資産凍結や取引制限などの経済措置を認める法律だ。

しかし、連邦最高裁は2026年2月、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。これにより、IEEPAを根拠にした相互関税などは法的根拠を失い、徴収済み関税の返還手続きも進むことになった。

そこで政権が持ち出したのが、通商法122条だった。IEEPAが使えないなら、別の条文で関税を続けるという発想だ。ところが今回、その122条を根拠にした10%関税についても、国際貿易裁判所が違法と判断した。

この流れを見ると、焦点は「関税を上げるか下げるか」だけではない。トランプ政権の関税政策が、司法によって段階的に制限されていることが重要だ。ただし、最終的な法的決着はまだついていない。政権の政治的な意思が強くても、法律が想定していない使い方には裁判所が歯止めをかける。その構図が、IEEPAに続いて通商法122条でも表れた。

すぐに日本企業の負担が消えるわけではない

では、日本企業や日本から米国へ輸出する企業にとって、今回の判断はすぐに関税負担の軽減につながるのだろうか。

現時点では、影響は限定的とみられる。報道では、裁判所の判断による直接の差し止め対象は原告側に限られるとの見方もあり、米国向け輸出全体の関税が直ちに変わる状況ではない。専門家からも、日本から米国への輸出時の関税は現時点で大きく変わらないとの見方が出ている。

加えて、トランプ政権が控訴すれば、最終的な決着までには時間がかかる。大統領自身も、裁判所の判断に驚かないと述べ、別の方法で対応する考えを示している。

つまり、今回の判断だけで「関税リスクは終わった」と見るのは早い。むしろ、企業にとっては、どの関税がどの法律を根拠に残り、どの関税が差し止められ、どの措置が新たに出てくるのかを分けて見る必要がある。

次の焦点は301条による個別関税

今後の焦点になりやすいのが、通商法301条を使った関税措置だ。

通商法301条は、外国の不公正な貿易慣行に対して、米国が制裁関税などの対抗措置を取るための制度だ。中国への追加関税などで使われてきた根拠として知られている。

IEEPAや通商法122条が、幅広い国や地域に対する大きな枠組みとして使われたのに対し、301条は通常、調査を経て、特定の国や産業を対象に発動される。トランプ政権は、貿易相手国の製造業に過剰な生産能力があり、米国の多額の貿易赤字につながっていると主張しており、日本や中国、EUなどを対象に調査を進めている。

このため、今後は「全世界一律の10%関税」よりも、特定の国や特定の品目を狙い撃ちする関税リスクが意識されやすくなる。自動車、鉄鋼、半導体、機械、化学品など、米国向け輸出との関係が深い分野では、301条調査や個別の関税措置に注意が必要だ。

一律関税の法的根拠が揺らいでも、関税政策そのものが消えるわけではない。むしろ、より狭い対象に絞られた形で、企業ごとの影響が読みづらくなる可能性がある。

「全面撤退」ではなく「根拠の組み替え」へ

今回の判断を、トランプ政権の関税政策が完全に終わるサインと見るのは単純すぎる。

たしかに、IEEPAに続いて通商法122条にも司法判断が示されたことで、大統領が広範な関税を一気に発動する余地は狭まりつつある。これは政権にとって打撃だ。関税を外交交渉や国内産業保護の道具として使いたい政権にとって、法的根拠の選択肢が減ることは大きい。

一方で、政権は控訴できる。別の法律を根拠にすることもできる。301条や232条など、より対象を絞った措置を使う余地も残っている。関税政策は「全面撤退」ではなく、「根拠の組み替え」が次の焦点になる可能性がある。

読者にとって見るべきポイントは、10%という数字だけではない。どの法律を根拠にしているのか、その法律が想定する条件を満たしているのか、対象が全世界一律なのか、それとも特定国・特定産業なのか。そこを分けて見ると、今回のニュースの意味がはっきりする。

今回の違法判断は、関税リスクを消したというより、政権が関税を使うための道を狭めた。その結果、次に出てくる関税措置は、より限定的で、産業別の色合いが強いものになりやすい。日本企業や投資家にとっては、関税の「有無」だけでなく、どの分野にリスクが移っていくのかを見る局面に入っている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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