4月22日までに大手生命保険各社の2026年度運用方針が出そろい、最大手の日本生命は国内債券残高がいくぶん減る見通しを示した。ここだけを見ると、「生保が国債離れを進めている」と受け止めたくなる。だが実態を丁寧にみると、業界全体が一方向に国債を売っているわけではない。
日本生命は低利回り債の入れ替えを続け、第一生命ホールディングス(8750)傘下の第一生命は残高をおおむね横ばいとし、富国生命は超長期国債や事業債を積み増す方針を示した。大樹生命も国内超長期債は横ばいとしつつ、低利回り債の入れ替えを進める構えだ。市場で起きているのは単純な「国債売り」ではなく、金利上昇局面に合わせたポートフォリオの組み替えである。
何が起きたのか
日本生命は今年度、国内債券の運用残高がいくぶん減る見通しだと説明した。ロイターによれば、国債残高の減少は2年連続となる見込みで、低利回り債の入れ替え規模は2兆円を下回るとみられている。
一方、第一生命は国債残高をおおむね前年度並みに維持し、入れ替え規模の目安を1兆円としている。富国生命は超長期国債や事業債を中心に積み増す方針を示し、大樹生命は国内超長期債を横ばいとしながら低利回り債の入れ替えを進めるとしている。
つまり、業界全体でみると「減らす」「横ばい」「増やす」が混在している。生命保険会社をひとくくりにして「一斉に国債を売っている」と理解するのは実態に合わない。
なぜ「売る」と「入れ替える」は違うのか
日本生命の動きを正確にいえば、国債をやめるというより、低い利回りで保有してきた債券を売却し、より高い利回りの債券へ移しているということだ。売却そのものは起きているが、目的は保有資産全体の利回り改善にある。残高減少も、こうした入れ替えの結果として生じる面が大きい。
背景にあるのが「順ざや」だ。生命保険会社は契約者に予定利率を約束しており、実際の運用利回りがそれを上回る状態が順ざや、下回る状態が逆ざやである。逆ざやが長く続けば収益や健全性に重荷となるため、低金利期に買った債券を今の金利水準に合う資産へ入れ替える動きには合理性がある。
低金利時代に積み上がった国債は、足元では相対的に利回りが低い。これを現在の利回り水準の国債や他の円債へ持ち替えれば、将来の運用収益を改善しやすい。日本生命の方針は、この意味で利回りの再構築とみるのが自然だ。
生保はなぜ国債を大量に持つのか
そもそも生命保険会社が巨額の国債を保有するのは、保険という事業の性格による。生保は数十年先に保険金や年金を支払う義務を負っており、資産運用でもその将来支払いに見合うキャッシュフローを確保する必要がある。これがALM(資産・負債の総合管理)の考え方だ。
国債、とりわけ20年債や30年債などの超長期債は、満期までのキャッシュフローが読みやすく、保険負債との対応を取りやすい。生保が債券市場で大きな存在感を持つのは、運用の好みではなく事業構造に根ざしている。
本当に金利上昇の引き金になるのか
国債が売られれば価格は下がり、価格が下がれば利回りは上がる。この関係からみれば、「生保が国債を売るなら長期金利が上がるのでは」という見方は自然だ。
ただ、今回の動きはそれほど単純ではない。業界全体で一方向の大量売却が起きているわけではなく、売却と再投資を伴う入れ替え、残高維持、積み増しが並行している。日本生命も積極的に市場へ売り圧力をかけるというより、入れ替え規模を抑えながら利回り改善を進める姿勢だ。
4月22日の債券市場では、新発10年国債利回りが一時2.395%まで上昇し、四半世紀ぶりの高水準圏に入った。だが、この金利水準を左右しているのは生保の運用方針だけではない。より大きな需給構造の変化が重なっている。
国債市場を動かすもっと大きな構図
長期金利を考えるうえで、生保の動きは一要因にすぎない。大きいのは、日本銀行による国債買い入れ減額と、超長期債需要の変化だ。
日銀は2025年6月の決定で、長期国債の買い入れ予定額を2026年4月以降も毎四半期2,000億円程度ずつ減額する計画を示した。2026年4〜6月の月間買い入れ額は2.7兆円程度で、その後も段階的に縮小し、2027年1〜3月には2兆円台前半まで低下していく見通しだ。最大の買い手である日銀が、予見可能な形で市場から少しずつ後退している。
財務省の資料でも、生命保険会社は新規制への対応を背景に超長期債需要を支えてきた一方、2023年度の投資は抑制的にみえると整理されている。つまり、生保は近年の超長期債需要を支えた主体だったが、その買いの勢いは以前ほど一方向ではなくなっている。
こうした需給変化に、海外金利や中東情勢などの外部要因も重なる。長期金利の下がりにくさは、生保の個別方針だけでなく、日銀の買い支え縮小と生保需要の質的変化を含む複合要因としてみるべきだ。
「生保の運用」は国債市場の鏡だ
今回の各社方針は、一見すると地味な運用計画の開示にみえる。だが実際には、日本の国債市場を長く支えてきた主要プレーヤーが、金利上昇局面に合わせて行動を調整していることを映している。
生保が国債を嫌っているわけではない。むしろ国債を持ち続ける前提のまま、どの年限を、どの利回りで、どの規模で保有するかを見直している局面といえる。その変化が市場へどう作用するかは、日銀の政策運営や海外環境とも絡むため、単純な因果関係では捉えにくい。
確かなのは、「生保が国債を売っているから金利が上がる」という一文では、いまの市場を説明しきれないことだ。誰が、何のために、どの年限で動いているのかを立体的にみることが、日本の長期金利を読むうえで欠かせない。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

