火災保険や地震保険、自動車保険、傷害保険は、家計にも事業にも入り込んでいる。一方で、税金との関係は「保険料を払ったら控除になる」「保険金を受け取ったら非課税になる」と単純に整理しにくい。
損害保険の税務でまず分けたいのは、保険料を支払う場面と、保険金を受け取る場面だ。さらに、同じ保険でも、個人の生活用資産なのか、個人事業主の事業用資産なのか、法人の契約なのかで扱いが変わる。
この記事では、2026年5月25日時点で確認できる公的資料をもとに、損害保険と税金の基本を「確認する順番」が分かる形で整理する。個別の課税関係は、契約内容、対象資産、受取人、保険料負担者、事業利用の有無によって変わるため、最終的には控除証明書や契約内容、必要に応じて税務署・税理士への確認が前提になる。
損害保険の税金は「払うとき」と「受け取るとき」で分ける
損害保険と税金の話が分かりにくいのは、「保険料」と「保険金」が同じ文脈で語られやすいからだ。
保険料を支払う場面では、個人なら所得控除の対象になるか、個人事業主なら必要経費になるか、法人なら損金または資産としてどう扱うかが論点になる。
一方、保険金を受け取る場面では、そのお金が何を補うものなのかを確認する。個人の生活用資産や心身の損害を補うものなのか、事業用資産の損害を補うものなのか、法人が受け取る保険金なのかで、税務上の入口が変わる。
つまり、損害保険の税金は「保険の名前」だけでは決まらない。誰が契約し、何を対象にし、どのような性質のお金を支払ったり受け取ったりしたのかを分けて考える必要がある。
個人が確認する機会の多い制度が地震保険料控除
個人の損害保険で確認する機会が多い制度の一つが、地震保険料控除だ。ただし、損害保険料なら何でも所得控除になるわけではない。
国税庁は、平成19年分から従来の損害保険料控除が廃止され、一定の地震保険料について地震保険料控除を受けられると説明している。所得税では、支払った地震保険料が5万円以下なら支払金額の全額、5万円を超える場合は最高5万円が控除額となる。
財務省の地震保険制度に関する資料では、住民税についても最高2万5,000円の控除上限が示されている。
ここで混同しやすいのが、火災保険料と地震保険料控除だ。地震保険は、地震・噴火・津波による火災、損壊、埋没、流失などを補償する保険で、居住用建物と家財が主な対象になる。火災保険に付帯して契約する方式であり、一般に火災保険の主契約だけでは、地震・噴火・津波を原因とする損害はカバーされにくい。
地震保険料控除の対象資産は、本人または生計を一にする配偶者・親族が所有し、常時居住用に供する家屋や、生活に通常必要な家具・衣服などの生活用動産とされる。年末調整や確定申告では、保険会社などから届く控除証明書が重要な手がかりになる。
なお、従来の損害保険料控除は廃止されているが、一定の旧長期損害保険契約には経過措置がある。古い契約を持っている場合は、証明書や契約内容で対象になるかを確認したい。
個人の生活上の損害を補う保険金は非課税が出発点
保険金を受け取ったときは、「何を補うお金なのか」を見る。
個人の生活用資産や心身の損害を補う性質の保険金であれば、一般に損害の穴埋めとして非課税が出発点になる。たとえば、個人の住宅や家財が火災で損害を受けた場合の保険金、生活用の自動車の修理費を補う保険金などは、利益を得たというより、失われたものを補うお金として理解しやすい。
ただし、「保険金」という名前が付けばすべて非課税になるわけではない。死亡保険金、満期返戻金、解約返戻金、年金形式で受け取る給付金などは、単純な損害の補てんとは性質が異なる場合がある。保険料を負担した人、被保険者、受取人の関係によって、所得税、相続税、贈与税など別の税目が関係することもある。
ここで大切なのは、「損害保険金は非課税」という言葉を広げすぎないことだ。生活用資産の損害を補うお金なのか、事業上の収入や経費に関係するお金なのか、法人が受け取るお金なのかを分けて確認することで、誤解を避けやすくなる。
個人事業主は事業用と生活用の線引きが分かれ目になる
個人事業主の場合、損害保険料の扱いは個人より複雑になる。判断の入口は、その保険が事業に関係しているかどうかだ。
店舗、事務所、事業用車両、業務用設備などを守るための保険料であれば、事業に必要な支出として必要経費になる場合がある。一方、自宅部分、生活用の家財、事業主本人の私的な保障に関する保険料は、原則として必要経費にはなりにくい。
特に自宅兼事務所や店舗兼住宅では、事業用と生活用が同じ場所に混在する。こうしたケースでは、保険料の全額を事業経費と見るのではなく、業務に直接関係する部分を合理的に区分することが論点になる。
保険金を受け取る場面でも同じだ。生活用資産の損害を補う保険金なのか、事業用資産の損害を補う保険金なのか、棚卸資産の損害を補うものなのかで、税務上の整理が変わる。棚卸資産の損害に対する補てんであれば、事業所得の収入金額との関係も確認材料になる。
副業や個人事業が広がるほど、損害保険は家計だけでなく帳簿にも関係する。保険の種類だけでなく、対象資産が何に使われているかを分けることが、確定申告時の基本になる。
法人契約は「損金になるか」だけで終わらない
法人が損害保険を契約する場合、個人の生活用保険とは別の整理になる。
会社が事業用資産を守るために保険料を支払う場合でも、単純にすべてをその年度の損金と見るのは粗い。事業関連性、保険期間、支払方法、返戻金の有無などに応じて、損金として扱う部分と資産として扱う部分を分けることが論点になる。
たとえば、掛け捨て部分は保障のための費用として考えやすい。一方、満期返戻金付きの契約など、将来戻る部分がある保険では、積立部分を資産計上する考え方が関係する場合がある。
また、法人が保険金を受け取った場合、個人の生活用資産に対する損害保険金と同じように「非課税」とは整理しにくい。法人税の計算では、受け取った保険金は益金との関係で確認することになる。
固定資産が滅失・損壊し、保険金で代替資産を取得するような場合には、圧縮記帳が関係することもある。圧縮記帳は税金が消える制度ではなく、一定の要件のもとで課税を将来に繰り延べる仕組みとして理解したい。
中小企業や経理担当者にとって、法人契約の損害保険は「節税」よりも、保険料、返戻金、保険金、固定資産の処理をどう分けるかが実務上の確認点になる。
地震保険は税制だけでなく生活再建の備えとしても確認したい
地震保険料控除は、年末調整や確定申告で目にする税制上の項目だが、その背景には地震保険制度そのものの特徴がある。
財務省は、地震保険を地震・噴火・津波による被害を補償する保険と説明している。対象は居住用建物と家財で、火災保険に付帯して契約する方式だ。
大規模地震では、民間保険会社だけでリスクを引き受けることが難しい場合がある。そのため地震保険には、民間保険会社の責任を政府が再保険する仕組みが組み込まれている。損害保険料率算出機構も、地震保険について公共性が高く、建物の構造や所在地などのリスク差が料率に反映される制度だと説明している。
この制度背景は、地震保険料控除を単なる「控除枠」としてではなく、住宅・家財・災害への備えとつながる仕組みとして理解する手がかりになる。税制上の控除だけでなく、補償対象、対象資産、家財の扱い、火災保険との違いもあわせて確認したい。
迷ったときは「誰の、何の、どんなお金か」を確認する
損害保険と税金で迷ったときは、細かい計算に入る前に、次の順番で整理すると全体像をつかみやすい。
まず、個人の話なのか、個人事業主の話なのか、法人の話なのかを分ける。次に、保険料を支払った場面なのか、保険金を受け取った場面なのかを分ける。さらに、対象が生活用資産なのか、事業用資産なのか、棚卸資産や法人所有資産なのかを確認する。
個人なら、地震保険料控除の対象になるかを控除証明書で確認する。保険金を受け取った場合は、それが生活上の損害を補うものなのか、返戻金や死亡保険金のように別の性質を持つものなのかを分ける。
個人事業主なら、事業用と生活用の区分が出発点になる。法人なら、支払保険料の損金処理だけでなく、資産計上、益金、圧縮記帳まで確認範囲が広がる。
損害保険の税務は、ひとつの言葉で一括りにしようとすると誤解しやすい。年末調整、確定申告、事業経理、法人決算のどこで確認する話なのかを分ければ、自分に関係する論点が見えやすくなる。
出典・参考
主な参照資料
- 国税庁「No.1145 地震保険料控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1145.htm
- 国税庁「No.1146 地震保険料控除の対象となる保険や共済の契約」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1146.htm
- 財務省「地震保険制度の概要」 https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm
- 損害保険料率算出機構「地震保険基準料率」 https://www.giroj.or.jp/ratemaking/earthquake/
- 日本損害保険協会「損害保険Q&A 共通 Ⅵ.損害保険と税金について」 https://soudanguide.sonpo.or.jp/basic/6_3.html

