5兆22億円余り。ソフトバンクグループ(東証プライム:9984)が2026年3月期に計上した最終利益は、日本企業として初めて5兆円を超えたとされる規模になった。
ただ、この数字の驚きは「たくさん稼いだ」という一点だけではない。利益を押し上げた主役は、通信や小売のように日々の事業で積み上げた収益ではなく、米OpenAIへの投資評価益だった。ChatGPTを手がける企業の価値が大きく上がったことで、ソフトバンクグループの決算も一気に跳ね上がった形だ。
一見すると、AI投資の大勝負が当たったように見える。だが同時に、この決算は「評価益に支えられた利益」をどう見るかという問いも投げかけている。
何がここまで大きな利益を生んだのか
ソフトバンクグループの2026年3月期の最終利益は、前期のおよそ4倍となる5兆22億円余りだった。過去最高であり、同社は日本企業で最終利益が5兆円を超えるのは初めてだとしている。
最大の要因は、生成AI「ChatGPT」を開発した米OpenAIへの投資だ。ソフトバンクグループは、OpenAIへ累計346億ドルを出資してきた。OpenAIの企業価値が上昇したことで、保有する株式の評価額も上がり、その評価益が利益を大きく押し上げた。
つまり今回の決算は、ソフトバンクグループがAIブームの中心的企業に大きく賭け、その価値上昇を会計上の利益として取り込んだものだ。今回の決算では、AIへの期待が日本企業の利益規模を押し上げた形になった。
なぜ「すごい利益」だけでは見えにくいのか
ここで重要なのは、最終利益の中身だ。
最終利益とは、売上から費用や税金、投資損益などを差し引いたあと、最終的に会社に残る利益を指す。ただし、その利益が毎年安定して入ってくる事業収益なのか、保有資産の評価額が上がったことで生じた利益なのかによって、意味は大きく変わる。
今回のソフトバンクグループの場合、中心にあるのはOpenAI株式の評価益だ。評価益とは、保有している株式や投資先の価値が上がったことで会計上計上される利益のことをいう。
たとえば、100億円で取得した株式の評価額が300億円になれば、実際に売却していなくても200億円の評価益が出る場合がある。ただし、それは現金として手元に入った利益とは違う。将来、同じ評価額で売却できるとは限らず、市場環境や投資先の成長見通しが変われば、評価額が下がる可能性もある。
今回の5兆円利益を見るうえで、この違いは欠かせない。数字は大きいが、その多くは「すでに現金化された利益」ではなく、「持っている資産の価値が上がったことによる利益」と見る必要がある。
OpenAIへの集中は強みでもあり、リスクでもある
ソフトバンクグループは、OpenAIへの投資をさらに増やす方針だ。同社の2026年2月発表によれば、追加出資が完了した場合、OpenAIへの累計投資額は646億ドル、持ち分は約13%に達する見込みとなる。日本円では、およそ10兆円規模に相当する。
この規模の投資は、成功すれば大きなリターンを生む可能性がある。OpenAIが生成AI市場で成長を続ければ、ソフトバンクグループの企業価値にも追い風となる。孫正義氏が掲げてきたAI中心の投資戦略が、数字として表れたと見ることもできる。
一方で、集中投資には反対側のリスクもある。AI関連企業への期待が高まり続ける間は評価益が膨らみやすいが、成長鈍化や競争激化、規制、資金調達環境の変化によって評価が調整されれば、損失も大きくなり得る。
OpenAIは生成AIブームの中心的存在だが、競争相手は少なくない。Google、Anthropic、MetaなどもAI開発に巨額の資金を投じている。AI市場そのものが拡大しても、特定企業の価値が一直線に上がり続けるとは限らない。
投資会社としての性格が強く表れる決算だった
ソフトバンクグループの決算を読むうえでは、同社が通信事業だけでなく、大型テクノロジー投資の担い手でもある点を外せない。ビジョン・ファンドを通じて、AI、半導体、フィンテック、ロボティクスなど将来成長が期待される企業に大きな資金を投じてきた。
この仕組みでは、投資先の評価額が上がれば利益が一気に膨らむ。反対に、評価額が下がれば損失も大きくなる。過去にはWeWorkなどへの投資で巨額損失を計上した時期もあり、ソフトバンクグループの業績は投資先の評価に大きく左右されやすい。
今回の決算は、その投資会社型の特徴がよい方向に表れたものだ。OpenAIへの投資が大きな評価益を生み、最終利益を過去最高に押し上げた。
ただし、これは同時に、同社の業績を見るときに「利益額の大きさ」だけでは不十分だということも示している。どの投資先が利益を生んだのか、その利益は現金化されたものなのか、追加投資に必要な資金をどう確保するのか。こうした点まで見なければ、決算の実像はつかみにくい。
読者はどこを見ればよいのか
一般の読者にとって、ソフトバンクグループの決算は遠い企業ニュースに見えるかもしれない。だが、今回の論点は投資信託や個別株を見るときにもつながる。
高い利益や大きなリターンが出ているとき、その中身が安定した事業収益なのか、保有資産の値上がりなのかで、次に見るべきものは変わる。事業で稼いだ利益なら継続性が焦点になる。評価益なら、投資先の成長性と市場の評価がどこまで続くのかが焦点になる。
新NISAなどで資産形成を考える場合も、同じ発想が役に立つ。過去の成績がよい商品でも、そのリターンがどの資産やテーマに支えられているのかを見ないと、将来の値動きへの備えは難しい。
ソフトバンクグループの5兆円利益は、AI時代の成長期待を映している。一方で、評価益に大きく依存する決算が持つ変動の大きさも映している。
見るべきなのは、単に「5兆円を稼いだ会社」かどうかではない。AIへの期待がどれほど企業価値を押し上げ、その期待がどれほど会計上の利益を左右する時代になったのか。その変化こそが、今回の決算の本当の読みどころだ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

