AIブームの恩恵は、半導体や生成AIサービスだけに向かっているわけではない。データセンターを動かす電力、その電力を安定して届ける送配電インフラにも需要が広がっている。
その流れを決算に映したのが日立製作所(6501)だ。2026年3月期の連結決算では、最終利益が前期比30.3%増の8023億円となり、過去最高を更新した。AIの普及に伴うデータセンター向け電力需要の高まりを背景に、送配電設備の整備や保守に関わる事業が好調だったことが支えとなった。
一方で、決算には別の論点も表れた。イラン情勢を受け、一部の生産工程で遅れが出ているほか、原材料の調達支障やコスト上昇の影響も出ている。会社側は、2026年4月から6月までの3か月間で売上を400億円程度押し下げる見込みを示した。
今回の決算は、AI時代の電力需要という成長要因と、地政学リスクによる供給網への負荷が同時に見えた内容だ。
AIブームが電力インフラ需要を押し上げる
AIと聞くと、半導体や生成AIサービスを思い浮かべやすい。しかし、AIを動かすには大規模なデータセンターが必要となる。データセンターは大量のサーバーを24時間稼働させるため、安定した電力供給が欠かせない。
電力需要が増えれば、発電だけでなく、電気を運ぶ設備の増強も必要になる。送電線、変圧器、変電所、制御システムといった送配電インフラは、データセンター時代の基盤といえる。
日立は子会社の日立エナジーを通じ、こうした送配電インフラを世界規模で手がけている。関連資料や報道では、2025年時点の日立エナジーの受注残が579億ドルに達したとされ、今後の売上を支える要素として注目されている。
「AIそのもの」ではなく「AIを支える側」の成長
今回の好決算は、日立がAIそのものを作る会社として伸びたというより、AIを支える電力インフラ側の需要を取り込んだ結果と見るほうが自然だ。
米国では、データセンターの増加に加え、製造業の国内回帰、EV普及、老朽化した電力網の更新といった需要が重なっている。関連報道では、変圧器や開閉装置など送配電設備の供給不足や納期長期化が指摘されている。
ロイターの報道によれば、米国の発電所向け大型変圧器の需要は2019年から2025年にかけて274%増加した。これは日立の決算そのものの説明ではなく、電力インフラ需要が世界的に強まっている背景を示す材料だ。
日立はこうした需要に対応するため、米国で電力グリッド部品の生産能力を拡大する投資も進めている。AIブームをめぐる投資は、半導体工場やクラウドサービスだけでなく、電力設備メーカーにも波及している。
中東情勢が供給網のリスクとして浮上
好調な事業環境の一方で、日立はイラン情勢の影響にも言及した。一部の生産工程で遅れが発生し、原材料の調達にも支障やコスト上昇が出ているという。
会社側は、この影響によって2026年4月から6月までの3か月間で売上が400億円程度押し下げられる見込みを示している。送配電設備の需要が強くても、部品や原材料の調達、生産工程、物流に支障が出れば、売上計上のタイミングやコストに影響する。
ここで注意したいのは、中東情勢と日立の個別調達ルートを単純に結びつけすぎないことだ。中東はエネルギー供給や海上輸送の面で世界経済に大きな影響を持つ地域だが、今回確認できるのは、日立が一部の生産や原材料調達への影響を明らかにしたという点である。
つまり、中東情勢は日立にとって、成長事業そのものを否定する要因ではない。ただし、短期的な売上やコストを動かす変数として無視できない。
それでも最高益更新の見通しを維持
日立はこうした逆風を織り込んだうえで、2027年3月期の最終利益を8500億円と予想している。前期比5.9%増となり、実現すれば2期連続で過去最高益を更新する水準だ。
加藤知巳CFOは、中東情勢に関するリスクが今年度の業績見通しの大きな変動要因になる可能性があり、引き続き注視していくと説明した。成長分野の需要は強いが、外部環境の不確実性も残るという整理である。
日立は最大5000億円規模の自社株買いも発表している。好業績を背景に株主還元を強める一方、供給網や原材料コストの変動には警戒が必要な局面となっている。
決算が示した二つの読み方
今回の日立の決算は、AIブームを半導体や生成AIサービスだけで見るのではなく、電力インフラの整備という視点で捉える重要性を示している。データセンターが増えるほど、電力を安定して届ける設備への投資も必要になる。
同時に、グローバルに事業を展開する製造業では、地政学リスクが生産や調達、コストに波及する。日立の決算には、成長分野の強さと外部環境の不確実性が並んで表れた。
AI電力需要は中長期の追い風になり得る。一方で、中東情勢のようなリスクが供給網にどう影響するかは、日立のようなグローバル製造業を見るうえで重要な論点となる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

