ホルムズ海峡の通航混乱が続く中、アジアの石油元売り各社は中東産原油の代替として米国産原油の確保を急いでいる。トレーダー情報をもとにした報道では、日本企業が先行し、韓国やシンガポール勢も購入に動いた。5月にアジア向けへ積み込まれる米メキシコ湾岸産原油は、少なくとも6000万バレルが買われ、3年ぶりの高水準になったと伝えられている。
ただ、足元で深刻化しているのは原油そのものの不足より、運ぶ船の不足だ。米エネルギー情報局(EIA)が2026年4月15日に公表した週次統計では、4月10日時点の米国原油輸出は日量約520万バレルだった。単週ベースでは高水準だが、需要急増に対して輸送手段が追いついていない。
焦点は「原油不足」ではなく「船腹不足」
米国湾岸からアジアへ原油を運ぶ主力は、1隻で200万バレル前後を積めるVLCC(超大型原油タンカー)だ。市場報道によると、今後2週間でチャーター可能なVLCCが見当たらないとの見方も出ている。通常なら一定数ある空き船が薄くなり、米国湾岸の船腹需給は急速に締まっている。
背景にあるのは輸送距離の長さだ。中東からアジアへの通常ルートが使いにくくなると、買い手は米国やブラジル、西アフリカなどへ調達先を広げる。ただ、米国湾岸からアジアへの航海は長く、同じ隻数でも船の回転率が落ちる。原油は確保できても、船が戻らず次の輸送に回せないという現象が起きやすい。
なぜ米国産原油に買いが集まるのか
ホルムズ海峡はオマーンとイランの間にある海上要衝で、最狭部は約21マイルしかない。EIAによると、平時には世界の石油・石油製品供給の約2割がこの海峡を通る。日本、韓国、中国、インドなどアジアの主要輸入国にとって、ここが不安定になることは調達コストと調達期間の両方を押し上げる。
その点、米国はシェール増産を背景に輸出余力を持ち、メキシコ湾岸には積み出しインフラも整っている。今回の買い付け増加も、日本だけの特殊な動きというより、アジア全体で非中東の調達先を増やす流れの一部とみたほうが自然だ。
「全面停止」よりも厄介な高リスク化
もっとも、現状を単純に「原油が全く通れない状態」とみるのは正確ではない。一部のタンカー航行は報じられており、市場が直面しているのは全面停止というより、通航量の急減と保険・安全保障リスクの急上昇だ。船が通れるかどうかの判断が難しくなるだけでも、買い手は代替調達を急ぎ、船主や保険会社は慎重になる。
その結果、中東産原油の不足感だけでなく、輸送の不確実性そのものが価格に上乗せされる。調達担当者にとって重要なのは「いくらで買えるか」だけではなく、「予定どおり届くかどうか」に変わりつつある。
次に効いてくるのは運賃と保険料
VLCCの逼迫が続けば、チャーター運賃や戦争保険料は上がりやすい。輸送コストの上昇は、原油価格そのものとは別の形で精製会社の負担を重くする。日本のように中東依存度が高い国では、原油価格、輸送費、保険料、到着遅延が同時に効いてくる可能性がある。
エネルギー市場は価格だけを見ていると実態を見誤りやすい。今回の局面が示しているのは、供給量が残っていても、船腹と航路の確保が難しければ調達は簡単に細るという事実だ。産油国の動向だけでなく、海上輸送の詰まり具合まで含めて見なければ、次のリスクは読みにくい。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

