IEA、過去最大の石油備蓄放出が始動——アジアは即時供給へ、それでも本丸はホルムズ再開

「16日以降、市場に前例のない量の石油が供給される。しかし、安定した輸送を取り戻すためにはホルムズ海峡の開放が極めて重要だ」——IEA(国際エネルギー機関)のビロル事務局長がSNSにこう投稿したのは3月15日のことだ。

過去最大規模の緊急放出が始まった。だがその言葉の裏には、「これだけではまだ足りない」という正直な認識がある。


目次

何が決まり、いつ始まるのか

IEA加盟国は3月11日、合計4億バレルの石油備蓄を協調して市場に放出することで合意した。日本・アメリカ・欧州諸国などが参加するこの決定は、IEAが1974年の創設以来6回目となる協調行動であり、規模としては過去最大だ。3月15日に公表された各国の実施計画では、地域別合計は4億1,000万バレル余りとなった。

IEAの3月15日付声明では、放出の時期と地域別の量が明らかになった。

  • アジア・オセアニア:3月16日以降、直ちに開始
  • アメリカ大陸・欧州:3月末から開始

地域別の放出量は、アメリカ大陸が最大で1億9,580万バレル、アジア・オセアニアが1億860万バレル、欧州が1億750万バレルだ。内訳は原油が72%、ガソリンや軽油などの石油製品が28%だという。


日本の役割——過去最大規模の放出

日本もこの協調行動に参加しており、ロイター通信は、日本が3月16日から放出を始める計画で、規模は約8,000万バレルに上ると報じている。

日本の原油輸入の約9割は中東産だ。ホルムズ海峡の混乱は、日本にとって単なる海外の出来事ではなく、ガソリン代・電気代・物流コストを直撃する問題だ。IEA声明は地域差の理由を詳述していないが、中東依存度の高いアジア向けを優先した可能性がある。


IEAの備蓄放出とは何か

IEAは、第一次石油危機(1973年)を受けて1974年に設立された国際機関だ。加盟国は平時から一定量の石油備蓄を義務的に保有しており、供給危機の際には協調して市場に放出できる。今回は政府備蓄2億7,170万バレル、義務在庫1億1,660万バレル、その他2,360万バレルという内訳だ。

備蓄放出の目的は、供給量を一時的に増やすことで原油価格の急騰を抑え、市場のパニックを落ち着かせることだ。今回の規模が「過去最大」と強調されるのは、それだけ今回の危機が大きいと各国が判断していることの裏返しでもある。


「20日分」という限界

ただし、この措置に万能感を持つのは禁物だ。

ロイター通信は、今回の4億バレル超という規模が、ホルムズ海峡が閉鎖されたことによる供給喪失分の「約20日分にすぎない」と伝えている。海峡の閉鎖が短期間で解消されれば備蓄放出は有効だが、事態が長引けば吸収しきれなくなる。

IEAのビロル事務局長自身も、今回の放出だけでは不十分だという認識を隠していない。「安定した輸送を取り戻すためにはホルムズ海峡の開放が極めて重要だ」という言葉は、応急措置の限界を正直に認めたものだ。市場関係者の間でも、物流の回復が伴わなければ価格の乱高下は続きうるとの見方が出ている。

つまり、今回の備蓄放出は「価格急騰を和らげる応急措置」であって、「問題を根本的に解決する策」ではない。


本丸は「ホルムズ海峡の再開」

IEAも国際メディアも、最終的な焦点をホルムズ海峡の通航再開に置いている。

ホルムズ海峡は、イランとアラビア半島の間にある幅約50キロの水路で、世界の石油・ガス供給の約2割がこの海峡を経由すると言われている(ロイター)。ここが封鎖状態のままでは、原油の現物輸送が止まり、保険や船舶の安全確保も問題になる。備蓄から石油を出しても、それを安全に輸送できなければ意味がない。

ホルムズ海峡の再開がいつ、どのような形で実現するかが、今後の原油価格と各国のエネルギー情勢を左右する最大の変数だ。この点については、現時点で見通しが立っていない。


日本の家計への影響

今回の備蓄放出がうまく機能すれば、原油価格の急騰が一定程度抑えられ、ガソリン価格や電気・ガス料金の急激な上昇をある程度緩和できる可能性がある。

ただし、それはホルムズ海峡の混乱が長引かないという前提がある。事態が長期化すれば、備蓄は尽きる。しかも、原油価格はドル建てで決まるため、円安が重なれば、円換算での輸入コストは備蓄放出の効果を打ち消す方向に動くこともある。

IEAの過去最大の協調行動が始まった今週は、ホルムズ海峡の状況がどう推移するかを注視する必要がある。備蓄放出は「時間を稼ぐ政策」であり、根本的な安定回復には地政学的な状況の変化が不可欠だ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

目次