2026年4月の財務省貿易統計をもとにしたJETRO(日本貿易振興機構)の整理で、日本の中東からの輸入額と中東向け輸出額がともに大きく落ち込んだ。速報値ベースで、中東からの輸入額は前年同月比56.8%減の4,692億円、中東向け輸出額は55.5%減の1,395億円だった。
背景にあるのは、ホルムズ海峡で海上輸送が大きく制約され、事実上の封鎖と報じられる状況だ。ただし、「封鎖」がどの範囲の航行停止や運航判断を指すのかは、公式発表や統計だけで一律には断定しにくい。重要なのは、4月の貿易統計に中東ルートの混乱がはっきり表れたこと、そして影響が原油だけにとどまらないことだ。
日本にとって中東は、原油調達の重要な地域である。同時に、LNG(液化天然ガス)、ナフサを含む石油製品、石油化学原料、中東向けの自動車輸出にも関係する。遠い海峡の地政学リスクは、電気・ガス料金、燃料価格、包装材や合成樹脂、企業の物流計画にもつながる。
なぜホルムズ海峡の制約が日本の輸入に直結するのか
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾・アラビア海をつなぐ海上交通路だ。IEA(国際エネルギー機関)によれば、2025年には原油・石油製品で日量約2,000万バレルが通過し、世界の海上石油貿易の約25%を占めたとされる。
ただし、中東の産油国がすべて同じ条件に置かれているわけではない。サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)には、ホルムズ海峡を通らない一部の輸出ルートがある。一方、クウェートやカタールなど海峡の内側に位置する国は、輸出経路の制約を受けやすい。
4月の統計でも、国別の落ち込みには差が出た。JETROの整理では、カタールからの輸入額は94.5%減、クウェートからは98.9%減だった。サウジアラビアからは36.4%減、UAEからは56.7%減とされる。迂回ルートの有無は数字を読むうえで重要な要素だが、減少率との関係は単純には決められない。輸送能力、港湾、パイプライン、船舶手配、契約条件も絡むためだ。
原油は数量に大きく表れた、LNGは「中東分」と「日本全体」を分けて読む
4月の統計で目立つのは原油だ。JETROによると、中東からの原油および粗油の輸入量は384万キロリットルで、前年同月比67.2%減だった。輸入額も3,832億円と、55.5%減少した。
原油は、ガソリンや軽油だけでなく、発電、物流、製造業、石油化学、貿易収支に関わる。輸入数量の急減は、価格や調達コストを通じて企業活動や物価に影響しうる。家計に届くまでには政府支援や在庫、契約条件による時間差があるが、エネルギーを輸入に頼る日本にとって見過ごしにくい変化だ。
一方、LNGは「影響が小さい」と単純には言えない。JETROでは中東からのLNGが71.5%減、FNNプライムオンラインではLNGが76.1%減と報じられており、中東分だけを見れば原油と同じく大きく落ち込んでいる。
それでも、原油とLNGは読み方が違う。LNGは発電、都市ガス、産業用燃料に使われるが、調達先、契約形態、輸送設備が原油とは異なる。日本全体のLNG供給への影響を判断するには、中東からの輸入減だけでなく、他地域からの調達、長期契約、スポット市場の価格、船舶手配を分けて確認したい。IEAは、カタールとUAEのLNG輸出が世界LNG貿易で大きな位置を占めることも示しており、日本への直接影響と世界市場経由の価格影響は別の論点になる。
ナフサ関連品目の輸入減は、包装材や樹脂の供給網に波及しうる
今回のニュースで見落としやすいのがナフサだ。ナフサは原油を精製して得られる軽質油の一種で、石油化学製品の原料になる。プラスチック、合成繊維、ゴム、包装材、洗剤、化学品など、生活用品や製造業の広い範囲につながる。
統計上は、ナフサ単体ではなく「ナフサを含む揮発油」として報じられている部分がある。JETROでは、中東からの石油製品、おもに揮発油が72.4%減。FNNプライムオンラインは、ナフサを含む揮発油が79.4%減だったと伝えている。
同時に、米国からの代替調達も動いている。FNNプライムオンラインでは、米国からのナフサを含む揮発油の輸入数量が206倍になったと報じられた。これは調達先を切り替える動きの材料になる。
ただし、輸入数量が増えても、中東から減った分を完全に補えたとは限らない。価格、品質、輸送距離、契約条件、国内配送の制約が残る。政府もナフサ由来製品について、中東以外からの代替調達が従来の8割超まで回復しているとの見通しを示す一方、供給見通しの共有不足や過剰発注による目詰まりに触れている。
ここでいう目詰まりは、必要な原料や製品が必要な場所に届きにくい状態を指す。マクロで供給量を確保できることと、工場や流通現場で必要なタイミングに届くことは同じではない。ナフサ関連の混乱は、店頭の燃料不足よりも、包装材、樹脂部品、化学品の納期や価格を通じて表れやすい。
輸入だけではない、中東向け自動車輸出も大きく減った
ホルムズ海峡の混乱は、日本がエネルギーを買う側の問題として語られやすい。しかし4月の統計では、日本から中東への輸出も大きく減った。JETROの整理では、中東向け輸出額は前年同月比55.5%減。中東向け自動車輸出は159億円で、90.8%減だった。
この落ち込みは、海上輸送路の混乱が輸入だけでなく輸出にも及びうることを示す材料になる。原油やナフサの調達だけでなく、日本企業が中東市場に製品を届ける物流、保険、決済、現地需要にも関係するためだ。
もっとも、自動車輸出減の主因を統計だけで一つに絞ることはできない。物流制約なのか、現地需要の変化なのか、安全上の判断なのか、保険や決済の問題なのかは、追加の確認が求められる。それでも、中東リスクは資源輸入だけの話ではない。自動車、機械、部品を売る企業にとっても、販売計画や在庫計画に響く論点になる。
政府支援は家計負担を和らげるが、調達ルートの問題は残る
政府は中東情勢を受け、電気・ガス料金支援、原油の代替調達、備蓄放出、ナフサ由来製品の供給見通しを説明している。首相官邸の2026年5月25日の会見では、7月から9月の家庭用電気料金支援として、7月は1キロワット時あたり3.5円、8月は4.5円、9月は3.5円の支援単価が示された。標準家庭では3カ月で5,000円程度の負担軽減効果があるとの政府説明だ。
これは、家計への短期的な緩和策になる。電気・ガス料金や燃料価格の上昇が生活費に及ぶ局面では、支援策が負担を抑える役割を持つ。
ただし、料金支援は家計負担を抑える政策であり、調達先や輸送ルートの強化とは別の論点だ。原油について、政府はホルムズ海峡を経由しない代替調達や備蓄放出を含め、必要量を確保できるとの見通しを示している。これは政府説明であり、月次輸入実績や企業ごとの調達状況そのものではない。
ナフサについても同じだ。代替調達が進んでも、必要な原料が必要な工場へ届くまでには、契約、物流、品質調整、国内在庫の問題が残る。価格や企業コストに影響しうる論点としては、原油価格、LNGスポット価格、ナフサ関連品目、海運・保険料、為替、貿易収支がある。
今後は輸入量、代替調達、現場の目詰まりを分けて確認したい
今後の確認点は、中東からの輸入がどこまで戻るかだけではない。原油、LNG、ナフサでは、統計の対象、契約、代替先、国内での使われ方が異なる。原油は中東からの輸入数量、LNGは日本全体の調達構造と世界市場、ナフサは素材供給網と国内流通を分けて読む必要がある。
米国などからの代替調達が一時的な対応にとどまるのか、調達先の多角化につながるのかも確認材料になる。数量を確保できても、価格や契約、物流条件が変われば、企業コストや製品価格に反映される。中東向け輸出の回復も、日本企業の販売面を見るうえで欠かせない。
ホルムズ海峡の混乱は、エネルギー安全保障という大きな言葉だけでは捉えきれない。電気・ガス料金、燃料価格、包装材や化学品、中東向け輸出に、それぞれ違う経路で届く。4月統計は、日本の中東依存がどこに強く表れ、どこに代替余地があり、どこで現場の詰まりが起きやすいのかを確認する材料になる。
出典・参考
主な参照資料
- 首相官邸「中東情勢を踏まえた対応に関する首相会見」 https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0525kaiken.html
- IEA「Oil security and emergency reserve: Strait of Hormuz」 https://www.iea.org/about/oil-security-and-emergency-reserve/strait-of-hormuz
- JETRO ビジネス短信「2026年4月の日本の中東貿易に関する整理」 https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/05/4d168417d2de6053.html
- FNNプライムオンライン「財務省の4月貿易統計をもとにした中東からの原油・LNG・ナフサ関連輸入減報道」 https://www.fnn.jp/articles/-/1047893

