消費税減税「年5兆円の穴」をどう埋めるのか

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スーパーのレシートが変わる日は来るのか

食料品の消費税がゼロになれば、家計の負担はどのくらい変わるだろう。毎日の食費が今より少し安くなるのであれば、多くの人が歓迎するだろう。こうした「食料品の消費税ゼロ」(2年間)や、低所得者を中心に税負担を軽くする「給付付き税額控除」を議論する「国民会議」が2026年3月に動き出した。

ただし、望ましい政策を実現するにはカネがいる。「食料品の消費税をゼロにする」とは言い換えれば「国の税収を減らす」ことだ。その減収規模は年間5兆円程度とされる。問題は、この穴を誰がどう埋めるのか、である。

政府は「赤字国債には頼らない」と宣言している。これは「借金で埋めない」という意味だ。では何で埋めるのか――。財源をめぐる議論は、表向きは専門家の話に聞こえるが、実は私たちの生活に直結している。


「財源」とは何か――国の家計簿の話

議論を追う前に、一つ確認しておきたい。「財源」とは何か。

国も家庭と同じく、入ってくるお金(収入)と出ていくお金(支出)のバランスで動いている。収入の大半は税金(所得税、法人税、消費税など)だ。ここで消費税の税率を下げれば、収入が減る。同じ支出を続けるためには、どこかで穴を埋めなければならない。

埋め方は原理的に3つしかない。

  1. 支出を減らす(補助金や交付金をカットする)
  2. 別の収入を増やす(他の税を上げたり、国が持つ財産を活用する)
  3. 借金を増やす(国債を発行する)

政府が今回「赤字国債に頼らない」と明言したことで、3番目の選択肢を封じた形になっている。残る選択肢として挙げているのは、大きく分けて①補助金・交付金の見直し②租税特別措置(租特)の見直し③税外収入の活用の3系統だ。

ここからが本題である。この3つの「財源候補」は、本当に年5兆円という穴を埋められるのだろうか。


箱①「補助金・交付金の見直し」――8兆円はあるが、削れるわけではない

国が企業や自治体に配るお金として「補助金」と「交付金」がある。補助金は国が特定の政策目的のために支出するお金で、農業支援、地方振興、産業政策など様々な目的で設けられている。交付金は、使い道に一定の幅を持たせつつ、政策の方向性に沿って配るお金だ。

2025年度当初時点で、予算額が1億円以上の補助金・交付金は444件、総額は約8兆円にのぼる。この数字を見ると「ここから削れば十分では?」と思いたくなる。

しかし話はそう単純ではない。

補助金・交付金は、それぞれ「何かを実現するため」に作られている。削ろうとすれば、「その政策をやめるのか」「地方や業界に影響が出る」という反発と調整が必ず起きる。数千件に上る制度の中から、どれを削るかの優先順位をつけること自体が難事業だ。

NHKの記事が例として挙げるのが「地域未来交付金」だ。地方の産業集積や地場産業の販路開拓を後押しする目的で設けられたこの交付金は、執行率が低かったことなどを理由に2026年度予算案で400億円削られた。

このような見直しを重ねても、昨年末の予算編成(2026年度予算案)における補助金全体の削減額は、合計でおよそ600億円にとどまったという。年5兆円の目標に対して、1割にも届かない。8兆円という数字は「削れる財源の総額」ではなく、制度の大きさを示しているに過ぎない。


箱②「租税特別措置の見直し」――”見えにくい歳出”の難しさ

「租税特別措置」、通称「租特」は、多くの人には馴染みのない言葉かもしれない。だが、これは政府の財政政策を語るうえで避けられない仕組みだ。

補助金は「お金を配る」ことで政策を実現する。一方で租特は「税を取らない(または軽くする)」ことで企業活動などを後押しする。たとえば、賃上げをした企業の税負担を軽くしたり、新しい設備に投資した企業の税金を減らしたりする制度がこれにあたる。

税収を減らす点では補助金と本質的に同じだが、「予算書に支出として載りにくい」ため”見えにくい歳出”とも呼ばれる。現在、法人税だけで70程度の租特があり、合計で3兆円程度の減税が行われているとされる。

「ならばここを削れば財源になる」と思いたいところだが、租特ならではの難しさがある。

見直しで縮減しても、同時に別の租特が新設・拡充されるケースが多い。記事では、大企業向けの「賃上げ促進税制」を見直して7000億円程度を縮減する一方で、設備投資を促す新たな租特を4000億円程度設けたとある。差し引きすると、全体の縮減額は約2700億円にとどまる計算だ。

縮減すれば、それを上回る新設が生まれる――。これが租特見直しの”差し引きの罠”である。利害関係者が多く、切り込めば切り込むほど調整コストも膨らむ。


箱③「税外収入の活用」――外為特会という”隠れた財布”

補助金・租特の見直しだけでは年5兆円に遠く及ばない現実が見えてきたところで、もう一つの候補が浮上する。「税外収入」だ。

税外収入とは、税金でも国債でもない形で国が得るお金の総称だ。日本銀行からの納付金、国有財産の売却益、特別会計の剰余金などがこれにあたる。

中でも今注目されているのが「外国為替資金特別会計」、通称「外為特会」だ。聞き慣れない言葉かもしれないが、簡単に言えば「国が為替介入を行うための特別な財布」だ。


外為特会とは何か

円とドルの交換レートが急激に動くとき、政府は市場介入を行って急変動を抑えることがある(実務は日本銀行が執行する)。その資金の出し入れを管理するために設けられているのが外為特会だ。

外為特会は、日本が保有する外貨建て資産(外国の国債など)から利子を受け取っている。近年は円安と海外の高金利が重なったことで、この利子収入が膨らみ、2024年度決算の剰余金は5兆3603億円と過去最大規模になった。

これだけの剰余金があれば、消費税減税の財源に使えそうに見える。実際、このうち約3兆2000億円はすでに2025年度の一般会計に繰り入れられ、防衛力強化などの財源として使われている。

しかし、外為特会を「消費税減税の恒久財源」として使うことには慎重論が根強い。理由は三つある。

第一に、為替介入の余力の確保という本来の目的がある。 円が急落したときに政府が介入できるのも、この特会に資金があるからだ。財源として使いすぎれば、いざというときの”弾丸”が減る。

第二に、剰余金の規模は毎年変わる。 今年は多くても、円高・低金利が続く局面では激減する可能性がある。毎年5兆円を安定して期待できる性質ではない。

第三に、繰り入れにはルールがある。 財務省は剰余金の一般会計への繰り入れを「原則として剰余金の7割まで」と定めている。これを超えて活用しようとすれば、ルール自体を変える政治的な決断が必要になる。


「5兆円の壁」が見えてきた

ここまで3つの財源候補を整理してきた。改めて数字を並べてみる。

  • 補助金・交付金の削減:約600億円
  • 租特の縮減(差し引き後):約2700億円
  • 合計:約3300億円(年5兆円の約6.6%)

もちろんこれは一時点の試算であり、今後の議論次第で数字は変わる。しかし「候補はある」と「確実に穴を埋められる」の間には、大きな距離があることが見えてくる。

専門家はどう見るか。かんぽ生命の中空麻奈エグゼクティブ・フェローは、「むだの見直しには意義がある」としつつも、「5兆円も出てくるなら今までの予算は何だったのかとなる。それを納得してもらえるだろうか」と疑問を呈する。歳出改革の”政治的な限界”を端的に示す言葉だ。


問題の核心――「2年のつなぎ」か「恒久制度」か

財源の議論を難しくしているのは、もう一つの問いが絡むからだ。「食料品の消費税ゼロ(2年間)」はあくまで一時的な措置なのか、それとも給付付き税額控除という恒久制度へのステップなのか。

一時的な措置であれば、「2年間だけかき集める」という発想も成り立つかもしれない。外為特会の剰余金や補助金の単発削減を積み上げれば、形だけは作れる可能性がある。

しかし、給付付き税額控除という恒久的な仕組みへつなぐのであれば、毎年継続して穴を埋める財源が不可欠だ。京都大学の諸富徹教授は「消費減税のあとに恒久措置として給付付き税額控除を導入するなら、より大変なのはその財源を探すことだ」と指摘する。

加えて教授は、現在の税収増がインフレによる”見かけ上の増収”であること、今後は国債の利払い増や防衛費・成長分野への予算増加も見込まれることを踏まえ、全体状況を見ながら財源の手当てをすべきだと訴える。


財源の示し方が「円安リスク」につながる理由

財源議論は、市場(国債・為替)とも無縁ではない。

消費税減税が行われること自体は、市場もある程度は織り込んでいるかもしれない。しかし、財源の「示し方」には強い関心があるという。中空エグゼクティブ・フェローは「具体的な財源を示すのか、それともコンセプトだけ提示するのか。財源や考え方が順当でなければ、債券安・円安につながる可能性もある」と指摘する。

なぜか。「財源が曖昧=結局は国債増」という判断が市場に広がれば、日本国債の信頼性が下がり、金利上昇(債券安)につながりかねない。金利が上がれば国の利払い負担は増え、財政の悪化に拍車がかかる。そして円への信頼が揺らげば、円安圧力にもなる。

財源をめぐる国民会議の議論は、家計の食費だけでなく、国債市場や為替レートにまで波及しうる話なのだ。


問われているのは「設計を示せるか」

消費税減税をめぐる議論は、税率の是非だけでは終わらない。本当に問われているのは、年5兆円規模の穴を「どんな組み合わせで、どのくらいの期間、埋め続けるのか」という設計を示せるかどうかだ。

補助金・租特・税外収入のいずれも、単独では限界がある。候補を並べることは議論のスタートに過ぎず、「何を削り、何を残し、どこを一時的なつなぎとし、どこを恒久化するのか」という実装可能な道筋こそが、国民にとっても市場にとっても求められている。

スーパーのレシートが変わる日が来るかどうかは、この財源の設計にかかっている。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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