所得金額調整控除は、給与所得の金額を計算する途中で使う調整制度だ。2026年6月時点で国税庁のタックスアンサー「No.1411 所得金額調整控除」は、令和7年4月1日現在法令等に基づき、制度を2つの類型に分けて説明している。
関係する主な入口は、1つは給与等の収入金額が850万円を超える子育て・特別障害者関連の世帯、もう1つは給与と公的年金等の両方がある人だ。つまり、「年収850万円を超えれば誰でも対象」「年金受給者なら誰でも対象」という制度ではない。
名前に「控除」とあるため、基礎控除や扶養控除のように課税所得から差し引く制度と混同しやすい。しかし所得金額調整控除は、所得税の計算で給与所得の金額を出す段階に関わる。控除額がそのまま税額の減額になるわけではなく、最終的な所得税額は税率や他の控除との関係で決まる。
所得金額調整控除は「税額を直接減らす控除」ではない
所得金額調整控除とは、一定の給与所得者について、総所得金額を計算する際に給与所得の金額から一定額を控除する制度である。ここで大事なのは、「給与収入」ではなく「給与所得」の計算に関わるという点だ。
給与収入は、勤務先から受け取る額面に近い概念だ。一方、給与所得は、給与収入から給与所得控除などを差し引いた後の金額を指す。所得金額調整控除は、この給与所得の金額を調整する仕組みとして理解すると分かりやすい。
制度は大きく2つに分かれる。
- 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
- 給与所得と公的年金等に係る雑所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
同じ「所得金額調整控除」という名前でも、対象者、見る金額、手続きが異なる。最初にこの2類型を分けておくことが、誤解を避ける近道になる。
年収850万円超の類型は、子どもや特別障害者等の要件も見る
1つ目の類型は、給与等の収入金額が850万円を超える居住者が入口になる。ただし、850万円を超えれば自動的に使える制度ではない。
国税庁の整理では、対象になるのは次のような要件を満たす場合だ。
- 本人が特別障害者に該当する
- 23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる
ここでいう扶養親族、同一生計配偶者、特別障害者は、税法上の要件に基づく用語である。日常的な意味での「子どもがいる」「家族を支えている」「介護をしている」という感覚だけで判断するものではない。とくに「介護世帯」という言葉で広く捉えるのではなく、税法上の特別障害者等の要件に当てはまるかを確認する話になる。
控除額は、給与等の収入金額から850万円を差し引いた金額の10%で計算する。給与等の収入金額が1,000万円を超える場合は、計算上は1,000万円として扱うため、控除額の上限は15万円となる。国税庁の説明では、1円未満の端数があるときは切り上げるとされている。
給与所得控除の見直しと、子育て世帯等への配慮が背景にある
所得金額調整控除は、単独で突然生まれた制度というより、平成30年度改正による所得税の見直しとあわせて理解すると位置づけが見えやすい。
財務省資料では、働き方の多様化を踏まえ、給与所得控除や公的年金等控除から基礎控除への振替を行う流れが示されている。あわせて、給与850万円超の人の給与所得控除を引き下げる一方、子育て世帯等に配慮する考え方も示された。
給与所得控除が小さくなると、給与所得の金額は増えやすくなる。そこで、給与収入が高い人の中でも、23歳未満の扶養親族がいる人や、特別障害者本人・家族を支える人について、一定の調整を行う仕組みが置かれている。
扶養控除とは違い、共働き夫婦の双方が対象になり得る
所得金額調整控除は、扶養控除と混同されやすい。とくに23歳未満の扶養親族がいる場合、「同じ子どもについて夫婦のどちらか一方しか使えないのではないか」と考えやすい。
国税庁は、所得金額調整控除について、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限はないと説明している。たとえば、夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超え、夫婦の間に23歳未満の扶養親族である子がいるような場合、要件を満たせば夫婦双方がこの控除の適用を受けられる。
ここが扶養控除との大きな違いだ。扶養控除は、一定の扶養親族がいる場合に課税所得を計算する段階で差し引く所得控除である。一方、所得金額調整控除は給与所得の金額を計算する段階の調整であり、同じ家族構成を前提にしていても制度上の扱いは同じではない。
また、所得税の扶養控除では16歳未満の年少扶養親族は控除対象扶養親族に当たらないが、所得金額調整控除では「23歳未満の扶養親族」として関係し得る。子どもの年齢、扶養親族に該当するか、夫婦それぞれの給与等の収入金額を分けて確認したい。
給与と年金の両方がある人は、850万円基準とは別に考える
2つ目の類型は、給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある人に関係する。こちらは、給与等の収入金額が850万円を超えるかどうかでは判断しない。
対象になるのは、その年分の給与所得控除後の給与等の金額と、公的年金等に係る雑所得の金額の両方があり、その合計額が10万円を超える居住者だ。
ここで見るのは、給与収入そのものではない。給与所得控除後の給与等の金額を見る。年金についても、年金収入そのものではなく、公的年金等控除などを反映した雑所得を見る。
控除額は、給与側と年金側をそれぞれ10万円を上限として合計し、そこから10万円を差し引く形で計算する。控除額の上限は10万円である。
退職後に再雇用、短時間勤務、パート、アルバイトなどで給与を得ながら、公的年金等も受け取る人は、この類型に当たるかを確定申告時に確認したい。年収850万円超の類型とは別のルートなので、「自分は850万円を超えていないから関係ない」と決めつけると見落としやすい。
年末調整で見る控除と、確定申告で確認する控除を分ける
手続き面でも、2つの類型は分けて考える。
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は、年末調整で適用できる。勤務先で年末調整を受ける給与所得者がこの控除の適用を受けるには、所得金額調整控除申告書の提出が関係する。
一方、給与所得と公的年金等に係る雑所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除は、年末調整では適用されず、確定申告で確認する類型として整理したい。給与と年金の両方をもとに所得を計算するため、勤務先の年末調整だけでは完結しない。
複数の勤務先から給与を受けている人も、勤務先ごとの年末調整だけでは全体の給与や所得を把握しきれないことがある。源泉徴収票、年金関係の書類、扶養親族や特別障害者に関する情報をそろえ、どの類型に当たるかを確認する流れになる。
両方に該当する場合は、適用順序も確認したい
2つの所得金額調整控除は、要件を満たせば両方が関係する場合がある。
この場合、国税庁は、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用があるときは、その適用後の給与所得の金額から、給与所得と公的年金等に係る雑所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除を控除すると説明している。
つまり、単に2つの控除額を別々に考えるだけでは足りない。先に年収850万円超の子ども・特別障害者等の類型を適用し、その後の給与所得金額をもとに、給与・年金併用の類型を確認する順序になる。
この順序は、個別の税額シミュレーションに踏み込む前の基本的な確認点だ。実際の申告では、源泉徴収票や公的年金等の源泉徴収票、申告書作成画面などで金額を確認することになる。
まず確認したいのは、自分がどちらの類型に当たるか
所得金額調整控除を理解するうえで、最初に分けたいのは「850万円超の子ども・特別障害者等の類型」なのか、「給与と公的年金等の両方がある類型」なのかという入口だ。
前者では、給与等の収入金額が850万円を超えるか、本人や家族が税法上の要件を満たすか、年末調整で所得金額調整控除申告書を出すかが確認ポイントになる。後者では、給与所得控除後の給与等の金額と、公的年金等に係る雑所得の両方があるか、合計が10万円を超えるか、確定申告で確認するかが焦点になる。
年収850万円という数字だけで判断すると、対象外なのに対象だと思ったり、逆に給与と年金の両方がある人の控除を見落としたりしやすい。扶養控除との違い、夫婦双方で適用され得る場合、年末調整と確定申告の分かれ目も、制度理解の重要な手がかりになる。
この制度は、税額を直接いくら減らすかを一律に示すものではない。確認すべきなのは、まず自分の所得の種類と家族要件、そしてどの手続きで反映する控除なのかだ。次に年末調整や確定申告を見るときは、「給与所得を計算する途中の調整」という位置づけと、2つの類型の違いを押さえておくと、制度の読み違いを避けやすい。
出典・参考
主な参照資料
- 国税庁「No.1411 所得金額調整控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1411.htm
- 財務省「所得税の見直し〔平成30年度改正〕」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/b08_1.pdf

