G7の貿易相会合が2026年5月6日にフランス・パリで開かれ、レアアースなどの重要鉱物をめぐり、供給網の強化と多角化で連携する方針が確認されました。
会合後に公表されたG7貿易相コミュニケでは、恣意的な輸出制限を含む「経済的威圧」への重大な懸念が示されました。特に重要鉱物の供給網については、過度な集中や供給途絶、市場をゆがめる行為が経済安全保障を損なうリスクとして位置づけられています。
今回の動きは、単にG7が中国をけん制したという外交ニュースだけではありません。半導体、電気自動車、再生可能エネルギー、防衛関連産業を支える素材を、どの国が、どの工程で、どれだけ担っているのかという問題が、経済安全保障の中心に移ってきたことを示しています。
何が焦点になったのか
焦点になったのは、レアアースを含む重要鉱物の供給網です。
重要鉱物は、現代の産業に欠かせない素材です。一方で、採掘、精製、加工、部品化といった工程が特定の国や地域に偏りやすいという弱点があります。鉱石を複数の国から調達できても、精製や加工の工程が一部の国に集中していれば、供給網全体のリスクは残ります。
G7コミュニケは、この問題を市場任せにしない姿勢を示しました。供給網の透明性やトレーサビリティ、共同調達、価格差補助、価格下限、割当なども、今後検討し得る政策手段として挙げられています。
ただし、これらはすべて実施が決まった政策ではありません。G7が確認したのは、重要鉱物の供給網を強くするには、各国が連携して政策や仕組みを検討する必要があるという方向性です。
なぜレアアースが重要なのか
レアアースは「希土類」とも呼ばれ、電気自動車のモーター、風力発電のタービン、スマートフォン、半導体製造装置、防衛関連機器などに使われます。
特に高性能磁石に必要なレアアースは、電動化や再生可能エネルギーの普及と深く関係しています。次世代産業が伸びるほど、こうした素材への需要も増えやすくなります。
問題は、採掘だけではありません。鉱石を掘り出したあと、実際に使える素材にするまでには精製や加工の工程があります。この中間工程で特定国への依存が大きい場合、別の国から鉱石を調達しても、供給網全体の弱点は十分に下がりません。
そのため、今回のG7の議論は「供給源を増やす」だけでなく、「供給網を多角化する」という表現になっています。採掘国、精製拠点、加工拠点、物流ルートを含めて、どこに依存しているのかを見る必要があります。
経済的威圧とは何か
コミュニケで使われた「経済的威圧」とは、貿易や投資、資源供給などの経済的な依存関係を使って、相手国に圧力をかける行為を指します。
たとえば、特定の国に対して輸出規制を強める、重要な資源の供給を絞る、通関手続きを遅らせるといった対応があれば、対象国の企業活動や物価、雇用にも影響が及びます。
重要鉱物の場合、その影響は自動車や半導体に限られません。エネルギー、防衛、通信機器などにも関わるため、資源の供給が滞ると、幅広い分野に波及する可能性があります。
G7が今回、経済的威圧に対して必要に応じて行動する用意があるとしたのは、重要鉱物が外交や安全保障のカードとして使われることへの警戒が強まっているためです。
日本にも関係が深い
日本にとっても、重要鉱物の供給網は身近な問題です。
日本は、自動車、電子機器、半導体製造装置、蓄電池、精密機械など、重要鉱物を多く使う産業を抱えています。レアアースやガリウム、ニッケルなどの供給が滞れば、企業の生産活動や輸出競争力に影響が出る可能性があります。
日本は近年、重要鉱物やエネルギーの供給網を強化するため、オーストラリアなど資源国との協力も進めています。中国依存を下げるうえでは、信頼できる供給国との関係を深めることが欠かせません。
今回のG7会合も、そうした流れの中で見ると分かりやすくなります。G7全体では中国による輸出規制を念頭に置いた警戒があり、日本にとっては資源国との協力やエネルギー安全保障ともつながる話になります。
市場任せでは安定しにくくなっている
重要鉱物の供給網は、コストだけを基準にすれば、効率のよい国や企業に集中しやすくなります。平時には、その方が安く、早く、便利に見えます。
しかし、国際関係が揺れると、その集中が弱点になります。ある国への依存度が高すぎると、輸出規制や物流混乱が起きたときに、代替先をすぐに見つけることが難しくなるためです。
G7が供給網の多角化を確認した背景には、この認識があります。重要鉱物は、安定供給のために一定のコストをかけてでも、調達先や加工拠点を分散させる必要があるという考え方です。
これは企業だけで解決できる問題ではありません。資源開発、精製、加工、物流、価格支援、国際協力を含め、政府と民間が一体で取り組むテーマになっています。
次に見るべき点
今後の焦点は、G7が声明で示した連携をどこまで具体化できるかです。
供給網の多角化には時間がかかります。鉱山を開発するにも、精製施設を整備するにも、環境規制や採算性、技術、人材の問題があります。中国依存を下げる必要性では一致しても、費用を誰が負担するのか、どの国がどの工程を担うのかは簡単には決まりません。
一方で、重要鉱物の供給網を見直す流れは止まりにくくなっています。EV、半導体、再生可能エネルギー、防衛産業はいずれも、各国の成長戦略や安全保障に直結する分野だからです。
今回のG7貿易相会合は、重要鉱物が単なる資源調達の問題ではなく、経済安全保障そのものの課題になったことを改めて示しました。レアアースの価格や輸出規制だけを見るのではなく、どの素材が、どの工程で、どの国に依存しているのかを見ることが、今後の産業ニュースを理解する手がかりになります。
本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事執筆時点の情報です。

