ホルムズ海峡と日本の法的限界——高市首相が米側に説明した「できること・できないこと」の境界線

高市早苗首相は3月30日の衆議院予算委員会で、先の日米首脳会談においてホルムズ海峡への艦船派遣問題をめぐり、「憲法も自衛隊法も含め、法律の範囲内でできることとできないことがある旨を詳細に説明した」と明らかにした。

一見すると「憲法に言及した」という一言ニュースに見えるが、本質はそこではない。今回の発言が示すのは、同盟国・米国からの協力要請に対して、日本が法的に応答できる範囲はどこまでなのか——その法的限界を米側に説明したと表明したという点だ。

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ホルムズ海峡をめぐり、何が問われているのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾からインド洋に抜ける幅およそ50キロの水路だ。世界の原油海上輸送量の約2割が通過するとされ、日本にとっては特別な意味を持つ。日本が輸入する原油の9割以上は中東産で、その多くがこの海峡を経由して運ばれる。ホルムズの航行が脅かされれば、原油だけでなくLNG(液化天然ガス)やナフサなど、エネルギー全般の供給不安に直結する。

イランを取り巻く緊張が再び高まるなか、米国は同盟国に対して海上での協力を求める圧力を強めている。ロイターは3月16日、高市首相が「ホルムズ護衛任務のための艦船派遣は計画していない」と述べたと報じており、今回の国会答弁はその方針を改めて国内向けに説明したものとも読める。

日本は「何もしない」わけではない

誤解を避けるために整理しておきたいのは、日本がすでに中東で一定の活動を行っているという事実だ。

2019年末の閣議決定に基づき、日本政府は「日本関係船舶の安全確保」を目的とした独自の取り組みを続けている。その柱は三つ——外交努力、航行安全対策の徹底、そして自衛隊による情報収集活動だ。

自衛隊の情報収集活動の対象海域は、オマーン湾、アラビア海北部、バブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾に定められている。ホルムズ海峡そのものは常時活動海域に含まれておらず、より強い対応が必要になる場合には、海上警備行動のような別の法的枠組みを検討する論点が生じる。

「海上警備行動」とは何か——護衛任務との違い

ここで重要なのが、「海上警備行動」という法的概念だ。

自衛隊法82条に基づくこの権限は、海上における人命・財産の保護や治安維持のため「特別の必要がある場合」に、防衛大臣が総理大臣の承認を得て命じるものだ。性格としては警察的措置に近く、海上保安庁法や警察官職務執行法に準じた権限構造を持つ。

これは、戦争当事国との交戦を前提とした軍事護衛や、米国が求めるような有志連合型の艦船護衛とは法的にも性格が大きく異なる。簡単に言えば、「自国船が危険にさらされた際に自衛隊が対応する警察的な枠組み」と「同盟国と共同で武力を行使する軍事的性格の強い任務」は、その根拠と権限において明確に区別されている。

日本国憲法9条のもとで、他国との集団的な軍事行動に参加することは政治的にも法的にも非常に高いハードルがある。高市首相が「憲法も含めて説明した」と述べたのは、こうした構造を米側に丁寧に伝えたという意味だとみられる。

「断った」のではなく「可能な範囲を説明した」

外務省が公表した日米首脳会談の概要を見ると、両首脳はイラン情勢への深刻な懸念を共有し、中東の平和と安定、国際的なエネルギー安定供給の重要性でも一致している。また、米国産エネルギーの生産拡大や共同備蓄を含む協力を進めることでも合意した。

注目すべきは、この公式文書に「日本が艦船派遣を約束した」という記述が一切ないことだ。つまり、首相が「できないことがある」と説明した内容は、今回初めて明らかになった方針転換ではなく、日本がこれまで維持してきた独自対応の路線——情報収集・外交・航行安全対策の組み合わせ——を米側に改めて整理し直したものと見るべきだろう。

日本が持つカードは「軍事護衛」ではなく「外交と情報」

高市首相は同日、日本がアメリカとイランの仲介にあたる可能性についても問われ、「イランとの間では首脳を含むさまざまなレベルで対話や交流が積み重ねられてきており、これを大切にしたい」と述べた。首脳間の直接対話については「国益も踏まえながら総合的に判断する」として慎重な姿勢を維持した。

日本はイランとの間で歴史的に比較的良好な外交関係を保ってきた。この点は、中東緊張の緩和に向けた外交仲介という役割において、日本ならではの仲介余地として語られやすい一定の独自性を持つ。

軍事的な護衛任務への参加が法的に極めて難しい日本が、この局面でどのような形で国際的な責任を果たすのか。その問いへの答えの一つが、情報収集・共同備蓄・外交仲介を組み合わせた「軍事によらない貢献」の深化にあると、今回の答弁はそうした方向をにじませている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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