トランプ関税で注目の「関税」——誰が払い、何が残り、家計にどう届くのか

「関税は外国の企業が払う税金だ」——そう思っている人は少なくないかもしれない。しかし実態は異なる。関税は原則として輸入国側の企業が税関に納めるものであり、そのコストは企業が吸収する場合もあれば価格に転嫁される場合もあり、最終的に消費者に及ぶことがある。トランプ大統領が進める「トランプ関税」の報道が続くが、制度の仕組みを押さえないと、何がどう変わったのかを正確に理解するのは難しい。関税の基本から日米合意の実態、そして家計や日本経済への波及まで、順を追って整理する。


目次

そもそも関税とは何か——誰が払い、誰が損をするのか

関税とは、国境を越えて輸入された品物に課される税金だ。たとえば日本企業が製品をアメリカに輸出した場合、関税を税関に払うのは原則としてアメリカ側の輸入業者だ。日本の輸出企業が直接払うわけではない。

では「アメリカが関税を上げても、日本企業には関係ない」のかといえば、そうではない。輸入業者がコスト増を売値に転嫁すれば、アメリカの消費者が高い値段で買うことになる。それが重なれば需要が落ち、日本側の輸出量が減る。また競争の中で日本企業が価格を下げて対応すれば、今度は日本企業の収益が圧縮される。

つまり関税は「外国企業への罰金」ではなく、輸入業者・輸出企業・消費者の三者がそれぞれ一部を負担し合う構造になっている。IMFは、高関税は輸入国(アメリカ)の物価を押し上げながら生産も下げる「負の供給ショック」だと整理しており、「関税をかける側も損をする」という面がある。


関税の種類——「基本税率」「WTO協定税率」「EPA税率」の違い

関税にはいくつかの種類がある。ここでは日本の関税率表の区分を基本として整理する。基本税率・暫定税率・WTO協定税率・EPA税率などが区分されており、品目ごとに適用される税率が異なる。

基本税率は、日本の国内法(関税定率法)に基づいて定められた税率だ。最も基本的な位置づけだが、実際には他の税率が優先される場合が多い。

WTO協定税率(MFN税率)は、WTO(世界貿易機関)の枠組みの中で、加盟国間で相互に適用される一般的な税率だ。「MFN」とはMost-Favored-Nationの略で、WTO上の最恵国待遇に基づく税率を指す。特定の国だけを差別しないという原則に基づいており、日常的な貿易でよく使われる。

EPA税率は、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を結んだ相手国との間で使える特恵的な低税率だ。ただし適用には「原産地規則(どの国で実質的に作られたかを証明する要件)」を満たし、必要な書類を整える必要がある。協定があれば自動的に低税率になるわけではない。

相互関税・追加関税は、こうした通常の税率に上乗せされる形で課される。トランプ政権は「貿易赤字の是正」「非関税障壁の是正」などを名目に、通常の枠組みとは別ルートで次々と上乗せ関税を打ち出した。


「トランプ関税」は一つの税ではない——複数制度が重なる仕組み

「トランプ関税」と一括りにされがちだが、実態は複数の法的根拠に基づく制度が並走している。

主なものは次の通りだ。

  • 緊急経済権限法(IEEPA)に基づくベースライン関税・相互関税:全輸入品を対象に、国ごとに差をつけた形で課せられる枠組み。日本は当初24%相当とされていた。
  • 通商拡大法232条に基づく分野別関税:安全保障上の脅威を名目に、鉄鋼・アルミ・自動車・半導体などの特定分野に課すもの。
  • 通商法301条に基づく中国向け追加関税:不公正な貿易慣行への対抗措置として、中国製品に課された高関税。

これらが品目や相手国によって重なり合っている。そのため「日米が関税合意した」からといって、すべての税率が一律に下がるわけではない。


日米合意の実態——「15%になった」は”撤廃”ではなく”上限整理”

2025年7月、日米は関税・投資パッケージで合意し、日本向け輸入品のほぼ全般に15%の基準枠を適用する枠組みが公表された(一部品目については別の分野別扱いが残る)。自動車・自動車部品もMFN税率を含めて15%という形に整理された。

報道では「当初25%から15%に引き下げ」という表現が使われることが多いが、実態はそう単純ではない。

ホワイトハウスの実施文書によれば、日本からの一般輸入品については「既存のMFN税率が15%未満の場合は15%まで上乗せし、15%以上ならそれを使う」という設計になっている。つまり元々の税率が低かった品目は引き上げられる場合があり、合意は「撤廃」ではなく「上限整理」に近い性格を持つ。

また鉄鋼・アルミ(50%)、銅(50%)、木材・製材(対象品目に追加関税)、半導体(性能要件を満たす特定品目に25%)などの分野別関税は、15%合意とは別に存在し続けている。JETROは2026年1月時点でこれらが並走していることを整理しており、「合意で全部下がった」という理解は不正確だ。


【2026年2月の制度変更】相互関税が止まり、新たな関税が始まった

2026年2月、この枠組みに大きな変化が生じた。

経産省の整理によれば、2026年2月20日の米連邦最高裁判断を受け、IEEPAに基づく相互関税は2月24日に徴収停止となった。その代わりとして、同じ2月24日から通商法122条に基づく10%追加関税が新たに適用されている(経産省「米国関税対策ワンストップポータル」)。

232条に基づく鉄鋼・アルミ・自動車などの分野別関税はこれとは別建てのため、引き続き効力を持っている。

つまり2026年3月現在、「2025年7月の15%枠組みがそのまま続いている」という理解は正確ではない。相互関税の部分は停止され、現在は10%の別の関税が適用されている状況だ。今後の司法手続きや通商交渉の動向次第で、さらに変わる可能性がある。


自動車産業への直撃——日本経済の急所

トランプ関税が日本経済に与えた最も大きな打撃の一つが、自動車輸出の落ち込みだ。アメリカは日本にとって最大の自動車輸出相手国であり、関税コストの上昇は企業収益に直撃した。

ロイターの報道によれば、2025年5〜6月の日本の対米自動車輸出は金額ベースで前年同月比25%前後落ち込んだとされる(5月:約-24.7%、6月:約-26.7%)。ただし6月の輸出台数は前年同月比で増加している。つまり、売れなくなったというより、関税コストを企業側が吸収した結果として輸出単価が下がり、輸出額が押し下げられた面がある。

その影響はGDPにも出た。内閣府の2025年7〜9月期GDP2次速報では、実質GDPは年率換算で▲2.3%と6期ぶりのマイナス成長となり、輸出減少が主な要因の一つとされた。


関税は遠い話ではない——家計・物価・景気への波及

関税は企業間の話に聞こえるが、最終的には家庭の生活費にも影響が及ぶ。

まず価格転嫁だ。輸入コストが上がれば、商品の小売価格が上昇しやすい。IMFは2026年1月時点で、小売価格への転嫁はまだ部分的で輸入業者や小売業者が吸収している面もあるとしているが、コスト増が続けばいずれ価格に跳ね返る可能性がある。

次に景気の冷え込みだ。輸出企業の収益が悪化すれば、設備投資や賃金が抑制され、雇用や消費にも波及しうる。IMFは、世界貿易の伸び率予想を関税問題を受けて大幅に引き下げており、「関税の影響は一国にとどまらず世界経済全体を冷やす」とみている。

「関税は政治の話」と思うかもしれないが、それは家計の物価、企業の利益、日本全体の景気という形で、じわじわと生活に届く「見えない税」としての側面を持っている。


まとめ——「何が変わり、何が残ったのか」を整理する

トランプ関税をめぐる報道は複雑に見えるが、押さえるべきポイントは以下の通りだ。

① 関税は外国企業だけが払うのではない。
輸入業者、輸出企業、消費者の三者が分担する構造で、最終的に家計の物価や企業の収益に波及しうる。

② 「15%合意」ですべてが下がったわけではない。
合意は撤廃ではなく上限整理であり、鉄鋼・アルミ・銅など分野別関税は別に並走している。

③ 2026年2月に制度が大きく動いた。
米最高裁の判断でIEEPAベースの相互関税が停止され、現在は通商法122条に基づく10%関税が適用されている。「15%の枠組みが今も続いている」という理解は、最新状況とは異なる。

④ トランプ関税は複数制度の集合体であり、今も動き続けている。
一括りに理解すると、何が変わり、何が残ったのかを見誤りやすい。制度は司法・行政・立法の三方向から常に変化しうる。

関税という言葉は知っているようで、その仕組みは意外と複雑だ。だからこそ、ニュースに流されず「誰が払い、誰に届くのか」「どの制度の話なのか」という視点で読む習慣が、これからの経済情勢を理解する上での一つの武器になる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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