ロシア産の原油が、日本の製油所に入った。しかも、ロシアへの制裁が続く中での受け入れである。意外に見える動きの背景には、中東情勢の悪化で原油調達ルートを広げざるを得ない日本の事情がある。
愛媛県今治市にある太陽石油の製油所に、ロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」で生産された原油を積んだタンカーが到着した。経済産業省によると、アメリカとイスラエルによるイランへの軍事作戦が始まって以降、サハリン2から日本に原油が到着するのは初めてだという。
到着した原油は、製油所のタンクに移されたあと、ナフサやガソリンなどの石油製品に精製され、出荷される見通しだ。ナフサはガソリンの原料にもなるが、プラスチックや化学製品の基礎原料としても使われる。原油の調達不安は、燃料価格だけでなく、包装材や日用品、工業材料にも波及し得る。
なぜロシア産なのに受け入れたのか
今回のニュースで引っかかるのは、「ロシア産原油をなぜ今、日本が受け入れるのか」という点だ。日本はG7の一員として、ロシアのウクライナ侵攻を受けた制裁に歩調を合わせてきた。そのため、ロシア由来のエネルギーを調達することには、国際政治上の説明の難しさがある。
ただし、サハリン2は通常のロシア産原油とは少し位置づけが異なる。経済産業省は、今回の原油について、ウクライナ侵攻に関する制裁の対象外になると説明している。サハリン2は日本企業も権益を持つプロジェクトであり、日本のエネルギー安全保障上、例外的な扱いが続いてきた。
サハリン2には、三井物産(8031)と三菱商事(8058)が参画している。ロイターなどによれば、三井物産の権益は12.5%、三菱商事は10%で、両社を合わせると22.5%となる。中心となるのは液化天然ガス、つまりLNGであり、原油は主力というより、ガス生産に伴って生じる副次的な位置づけに近い。
それでも危機時には、この副次的な原油にも意味が出てくる。中東からの供給に不安が出たとき、ホルムズ海峡を通らない調達先をどれだけ確保できるかが、価格や供給の安定に関わるからだ。
何がそこまで日本を急がせているのか
背景にあるのは、ホルムズ海峡をめぐる緊張だ。日本の原油輸入は中東への依存度が高い。ホルムズ海峡は中東産原油の主要な通り道であり、ここが不安定になれば、日本の原油調達全体に影響が及びやすい。
政府は中東以外からの代替調達を進めている。今回、太陽石油がサハリン2産原油を調達したのも、日本政府からの依頼を受けたものとされる。会社は2025年6月にもサハリン2から原油を調達しており、今回は中東情勢の悪化を受けた追加的な対応とみられる。
もちろん、備蓄がすぐに尽きるという話ではない。日本には一定期間を支える石油備蓄がある。ただ、備蓄は非常時のクッションであり、長引く供給不安に対しては、調達先そのものを増やす必要がある。中東、ロシア極東、米国、その他の産油国をどう組み合わせるかが、現実的な課題になる。
制裁と安定供給は簡単に両立しない
今回の調達を「中東依存を下げるための現実対応」と見ることはできる。一方で、「ロシア制裁を続けながらロシア由来のエネルギーを受け入れるのは矛盾ではないか」という見方も成り立つ。
この矛盾は、日本だけの問題ではない。エネルギーは外交方針だけで動かせるものではなく、発電、都市ガス、産業活動、物流、物価に直結する。供給を急に切れば、政治的な姿勢は明確になっても、生活や企業活動に大きな負担が出る可能性がある。
とくにサハリン2は、日本の電力会社やガス会社にとって重要なLNG供給源の一つとされてきた。LNGは発電や都市ガスに使われるため、供給が乱れれば家庭の電気料金や企業のエネルギーコストにもつながる。ロシア産だから単純に避ける、という判断が簡単ではない理由がここにある。
ただし、だからといって問題が消えるわけではない。中東リスクを避けるためにロシア由来の供給を使う構図は、外交上の説明を難しくする。制裁の例外であっても、受け入れが広がれば、国際社会からどう見られるかという論点は残る。
生活にはどこでつながるのか
原油調達のニュースは、遠い外交や資源政策の話に見えやすい。しかし、影響は身近なところに出ることがある。
原油からはガソリン、軽油、灯油、ナフサなどが作られる。ガソリン価格は移動や物流のコストに関わり、ナフサはプラスチック製品や化学品の原料になる。原油価格が上がれば、燃料代だけでなく、商品価格や企業のコストにも波及する可能性がある。
投資の面でも無関係ではない。エネルギー価格が上がれば、運輸、化学、電力、製造業など幅広い業種の利益を圧迫することがある。一方で、資源関連企業には追い風になる場合もある。ニュースを見るときは、「原油が上がったか下がったか」だけでなく、どの企業や家計項目に影響が出やすいかを分けて考える必要がある。
今回のサハリン2原油の到着は、単なる一隻のタンカーの話ではない。中東リスク、ロシア制裁、日本企業の権益、そして国内の燃料・電力供給が同じ線上にあることを浮かび上がらせている。
エネルギー安全保障とは、きれいな選択肢の中から一つを選ぶ作業ではない。制裁、価格、航路、供給量、同盟関係を同時に見ながら、どのリスクをどこまで引き受けるかを決める作業である。今回のニュースから見えるのは、日本がその難しい現実対応のただ中にいるということだ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

