トランプ関税”第2ラウンド”──日本の自動車が焦点になるこれだけの理由

トランプ政権が、新たな関税攻勢の準備を始めた。2026年3月11日、アメリカの通商代表部(USTR)は「通商法301条」と呼ばれる法律に基づき、16の国と地域の製造業に対する調査を開始すると発表した。対象には日本も含まれており、調査の結果次第では新たな関税が課される可能性がある。

ただし、これは「日本が突然、特別に狙われた」という話ではない。調査対象は中国、EU(ヨーロッパ連合)、韓国、台湾、ベトナム、メキシコなど16の国・地域に及ぶ広域的なものだ。そして日本が気にすべき最大のポイントは、対米黒字が集中している「自動車分野」が照準に入っていることだ。


目次

なぜ今、この動きが出たのか

まず、この動きの背景を理解するために、少し時計を巻き戻す必要がある。

トランプ政権は1期目から積極的に関税を使ってきた。2期目に入ってからも、「IEEPA(国際緊急経済権限法)」という法律を根拠に、広範な国を対象にした相互関税などを打ち出していた。ところが今年2月、アメリカの連邦最高裁がこのIEEPAを根拠にした関税について「大統領権限の範囲を超えている」と判断し、一部の関税措置が法的に無効とされた。

政権はその穴を埋めるように、別の法的手段を探している。その一つが、今回使われた通商法301条だ。1期目に対中追加関税の根拠としても使われた、伝統的でより法的に持続可能な手法だ。海外メディアは今回の動きを「最高裁判断で崩れた関税政策を、301条などで組み直そうとしている」と報じている。


通商法301条とは何か

「通商法301条」とは、外国の不公正な貿易慣行に対してアメリカが調査し、対抗措置を取ることができる仕組みだ。調査対象の国の貿易行為が「不合理」または「差別的」で、米国の貿易を制限していると判断すれば、追加関税などの制裁措置に進むことができる。相手国がWTO(世界貿易機関)のルールに違反していなくても、アメリカが独自に問題ありと認定すれば動ける点が特徴だ。

今回USTRが問題視したのは、製造業における「過剰生産能力」だ。過剰生産能力とは、国内外の需要に比べて生産設備や供給力が過剰になっている状態を指す。アメリカの論理はこうだ——各国が自国で消費しきれないほどの製品を大量生産し、それを輸出に回すことで価格競争を引き起こし、米国内の製造業の雇用や投資が傷ついている、というものだ。

調査の結果として問題ありと認定されれば、関税だけでなく「非関税措置」(数量規制や輸入許可制度など)も視野に入るとされる。


日本はなぜ名指しされたのか

16の対象の中で、日本についてUSTRが具体的に指摘したのは次の点だ。

日本の2024年の対米財貿易黒字は570億ドル(約8兆円以上)にのぼり、自動車・自動車部品、光学・精密機器などで黒字を維持している。中でも対米輸出の3分の1超が自動車分野に集中していると指摘された。

これは「日本全体が一律に問題視されている」というよりも、自動車が交渉の主戦場になりやすいことを示している。

なぜ自動車がこれほど象徴的な標的になるのか。理由は複合的だ。まず、金額の大きさが際立つ。570億ドルの対米黒字のうち、その相当部分が自動車と部品に集中しており、数字として分かりやすい。次に、自動車は雇用と結びつけやすい。「外国からの自動車が入ることで米国の工場が減った」という論理は、有権者に訴えやすく、政治的に使いやすいテーマだ。さらに、完成車だけでなく部品にまで問題が広がると、その裾野はサプライチェーン全体に及ぶため、交渉上の圧力として規模が大きくなる。こうした理由が重なり、日本との通商交渉で自動車は繰り返し「中心議題」になってきた経緯がある。

ただし注意が必要なのは、この段階はあくまで調査開始であり、新たな関税が決まったわけではないという点だ。USTRの官報によると、意見提出の受付は3月17日から、コメントや公聴会申請の締め切りは4月15日、公聴会の開始は5月5日とされている。今後、4〜5月にかけて論点が具体化し、夏前頃に何らかの方向性が見えてくるかが焦点になる。


現在の関税状況はどうなっているのか

現時点でも、日本を含む幅広い国に10%の関税がすでに課されている。ただしこれは、IEEPAとは別の法的根拠に基づく暫定措置で、原則として150日間という期限付きだ。トランプ政権はこの期限を見据えながら、301条に基づく調査と2国間協議を並行して進め、期限後も持続可能な関税体系を整備しようとしているとみられる。

日本政府側は、詳細を精査中としつつ「既存の日米貿易協定の履行を続ける方針」を示している。3月上旬には赤澤経産相が米側に対し、日本が不利にならないよう求めていたとも報じられている。現時点では、対抗よりも協議継続を優先する姿勢だ。


日本への影響をどう見るか

直近で「すぐに関税が増える」という段階ではないが、業種ごとに影響の濃淡がある。

最も影響が大きいのは完成車メーカーだ。トヨタ・ホンダ・日産などは米国での現地生産も行っているが、日本からの輸出も続いており、関税水準の変化は販売価格や収益に直接響く。現地生産比率を高めることで対応できる部分もあるが、すべての車種・工場を即座に移せるわけではない。

次に影響が及ぶのが自動車部品メーカーだ。完成車に対する関税が上がれば、その部品を供給するメーカーにも間接的なコスト圧力がかかる。日本国内の中堅・中小の部品メーカーまでサプライチェーンを通じた影響が波及する可能性がある。

精密機器・光学機器メーカーについても、USTRは対米黒字の分野として名指しているが、自動車ほど集中した黒字構造ではないため、交渉の優先度は相対的に低くなる可能性がある。

なお、追加関税が実際に発動されるかどうか、発動されるとしてどの品目・税率になるかは、今後の調査と2国間協議の結果次第であり、現時点では不明だ。301条の調査は過去にも最終的に協議決着や見送りになったケースがあるため、即時発動と決めつけるのは早計だという見方もある。


まとめ

今回のトランプ政権の動きをひと言で言えば、「最高裁判断で法的基盤が揺らいだ関税政策を、より堅固な法律の上に組み直す試み」だ。日本はその16か国・地域のうちの一つに位置づけられており、焦点は自動車・自動車部品に集中している。

調査から協議、そして関税か決着かへ——その結論が出るまでには、少なくとも数か月の時間軸がある。ただ、日米の通商交渉の場において、自動車問題が再び中心に据えられることはほぼ確実だ。

今後の監視ポイントは3つだ。4月15日のコメント締め切りに向けて日本政府・産業界がどう意見を出すか。5月5日の公聴会で日本の自動車・部品に関する具体的な言及がどの程度出るか。そして、日米2国間協議の中で自動車への個別対応が俎上に載るかどうか——この3点が、今後の展開を見極めるうえでの分岐点になる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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