「日本車の関税がなくなる」――砂漠の国との新しい約束が意味するもの

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外相会談で何が決まったのか

2026年3月5日、茂木外務大臣はUAE(アラブ首長国連邦)のジャーベル産業・先端技術相と会談し、一つの協定が大筋で合意したことを確認した。

日本とUAEの間で結ばれた「経済連携協定(EPA)」だ。

2024年9月に交渉が始まってから約1年半。「大筋合意」という言葉だけ聞いても、何がどう変わるのかピンとこない人も多いだろう。この記事では、協定の中身と、その背景にある事情を丁寧に解きほぐしていく。


まず「EPA」とは何か

「EPA」とは「経済連携協定」の略だ。もともと「FTA(自由貿易協定)」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれないが、EPAはFTAをさらに発展させたものと考えていい。

関税の引き下げだけでなく、投資のルール、知的財産、デジタル取引のルールなど、貿易に関わる幅広い分野を一括してカバーする。今回、政府が使っている「CEPA(包括的経済連携協定)」という表現はその意味で、単純な「安売り競争」ではなく、両国がビジネスをしやすくするための制度づくりと理解すると近い。

また、今回の「大筋合意」は、まだ終着点ではない。協定の最終文書を確定させ、両国が署名し、それぞれの国内手続きを経て「発効」してはじめて、企業や消費者に実際の変化が届く。「合意=即日関税ゼロ」ではないのだ。


「日本車」が主役になる理由

協定の中身で最も注目されているのが、自動車と自動車部品の関税撤廃だ。

現在UAEは、日本から輸入する多くの品目に5%の関税をかけている。今回の協定では、

  • 主な乗用車・バス・トラック → 7年以内に関税ゼロへ
  • タイヤやエンジンなどの自動車部品 → 10年以内に関税ゼロへ

という方向性が盛り込まれた。

なぜ「自動車」がこれほど前面に出るのか。それは、日本がUAEに輸出している品目の構造を見れば明らかだ。外務省の資料などによれば、日本のUAE向け輸出に占める自動車・自動車部品の割合は大きく、UAE向け自動車輸出台数も年間約39万台(2025年ベース)に上ると伝えられている。関税が撤廃されれば、価格競争力が高まり、輸出拡大の余地が生まれる。

食品分野でも変化がある。日本食への関心が世界的に高まる中、

  • 緑茶などの清涼飲料水 → 3〜10年以内
  • みそやしょうゆ → 5〜7年以内

それぞれ関税が撤廃される見通しだ。


日本が「守った」もの

一方、日本側がUAEからの輸入品にかけている関税については、国内農業を守るため、コメ・乳製品・牛肉をはじめとする重要品目は関税撤廃の対象外となった。

外国との経済連携協定において、日本は常にこの「農業防衛」が難題になる。自由化を進めれば輸出産業は潤うが、国内農家への打撃が生まれる。今回は重要品目を除外することで、国内への影響を最小限に抑えるというバランスが取られた形だ。


「貿易」だけでは終わらない、この協定の本当の意味

ここからが、この協定のもう一つの顔だ。

UAEはドバイやアブダビで知られる国際都市を抱えるが、日本との関係は「観光地」や「高級なビル」という印象だけには収まらない。実は、日本の原油輸入のおよそ4割をUAEが担っているとされている(2025年のデータに基づく推計)。日本の原油は中東依存度が非常に高く、その中でもUAEは最大規模の供給国なのだ。

今回の外相会談では、通商交渉の妥結確認にとどまらず、イラン情勢の緊迫化を踏まえたホルムズ海峡周辺の安全航行石油の安定供給についても議題に上ったとされている。

ちょうど同じ時期、日本の海運大手が共同出資するコンテナ船会社「オーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)」が、ペルシャ湾発着の新規貨物予約を停止したというニュースも出ている。中東情勢の緊張は、すでに物流の実務レベルに波及し始めている。そのような状況下でUAEとの関係を制度的に深めることは、単なる「商売の話」を超えた意味を持つ。


「砂漠の国」が急ぐ理由

UAEがなぜこれほど多くの国と経済連携協定を結ぼうとしているのか、も理解しておくと背景がつかみやすい。

ロイター通信によれば、UAEは2021年以降、世界各国との間でCEPAを積極的に締結してきた。その狙いは、石油依存から脱却し、非石油分野の貿易・物流を経済の柱に育てることだ。中東の地理的な要衝に位置するUAEは、アジア・ヨーロッパ・アフリカをつなぐ物流ハブとしての地位を高めようとしており、日本との連携強化もその文脈で位置づけられる。

日本にとってUAEはエネルギー安全保障の核心、UAEにとって日本は技術・自動車・食品の重要な供給源。この「相互依存」の構造が、今回の合意を可能にした土台でもある。


「大筋合意」から先に何があるか

繰り返しになるが、今回の「大筋合意」は終点ではなくスタートラインの一つだ。

協定の最終文書の確定、両国による署名、そして国会承認などの国内手続きを経て、はじめて効力を持つ。乗用車の関税が実際にゼロになるのは「7年以内」という猶予期間つきであり、企業が具体的な恩恵を受けるのは今すぐではない。

しかし、「将来的に関税がなくなることが確定した」という事実は、企業の投資判断や輸出戦略に影響を与える。自動車メーカー、食品企業、部品メーカーなど、UAE市場を見据えていた企業にとっては、今後の動きを検討する材料が一つ増えたといえる。


3つの柱で読み解く

今回の協定は、大きく3つの観点から読み解くことができる。

① 日本車の中東販路拡大
自動車・部品の関税撤廃により、UAE市場での競争力向上が期待される。

② 日本の農業防衛
コメや乳製品など重要品目を除外し、国内農家への影響を抑えた。

③ 中東のエネルギー安保
イラン情勢が緊迫する中、原油の最大供給国との関係を制度的に強化した。

三つのことが同時に動いているのが、この協定の特徴だ。「貿易の話」「農業の話」「安全保障の話」が一つのテーブルに乗っている。そのことが、今回の合意を単純な通商ニュースを超えた意味を持たせている。


本記事は2026年3月5日付の政府発表およびNHK報道、外務省概要資料、ロイター通信などの報道をもとに構成しています。UAEの原油輸入比率などの数値は公表されている統計・報道に基づくものです。協定の詳細内容は今後確定する最終文書によります。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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