入院、手術、出産、通院などで1年分の医療費が増えた人は、確定申告で医療費控除を確認できる場合がある。ただし、判断の入口を「医療費が10万円を超えたか」だけに置くと、制度の仕組みを見誤りやすい。
国税庁のタックスアンサー No.1120では、医療費控除は所得税の計算で使う所得控除として整理されている。対象になるかどうかは、領収書の合計額ではなく、保険金などで補てんされる金額を差し引いた後の自己負担額と、所得に応じた基準で決まる。
2026年6月時点で医療費を整理するなら、2026年分の支払いを年内にどう記録しておくか、または過去年分の還付申告を確認できるかという実務の話になる。会社員でも年末調整では処理されないため、使う場合は確定申告の手続きまで含めて考えたい。
「10万円を超えたか」だけでは判断できない
医療費控除の計算は、まずその年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費を集計するところから始まる。治療を受けた年であっても、まだ支払っていない医療費はその年の対象にはならない。支払った年の医療費として扱う点が基本になる。
次に、保険金などで補てんされる金額を差し引く。ここには、民間医療保険の入院給付金や手術給付金、高額療養費、家族療養費、出産育児一時金などが含まれ得る。病院や薬局に支払った金額が10万円を超えていても、給付金などを差し引いた後に控除額が出ない場合がある。
そのうえで差し引くのが、10万円と総所得金額等の5%のいずれか低い方だ。一般には「10万円を超えたら」と説明されやすいが、総所得金額等が200万円未満の人は、10万円ではなく5%基準で考えることになる。医療費が10万円に届かなくても、所得によっては確認する余地がある。
医療費控除は「医療費が戻る制度」ではない
医療費控除は、税額控除ではなく所得控除だ。所得控除とは、税率をかける前の所得から一定額を差し引く仕組みを指す。計算された税額から直接差し引く税額控除とは違う。
たとえば医療費控除額が5万円になっても、5万円がそのまま還付されるわけではない。実際の還付や税負担の軽減額は、その人の所得税率、すでに納めた税額、ほかの控除の状況によって変わる。税額が少ない場合、効果も限定的になる。
この点を押さえると、医療費控除を「医療費の払い戻し」と誤解しにくい。家計にとっての意味は、医療費が多かった年に、所得税の計算上で負担を調整できる場合があることにある。
計算は支払額から補てん額を引き、最後に基準額を引く
国税庁資料に沿って整理すると、医療費控除額は次の順番で考える。
- その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費を集計する
- 保険金などで補てんされる金額を差し引く
- 10万円と総所得金額等の5%のいずれか低い方を差し引く
- 医療費控除額は最高200万円までとなる
対象になるのは、納税者本人の医療費だけではない。自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費も、対象に含まれる場合がある。同居か別居かだけで機械的に決めるのではなく、生活費や療養費をどう負担しているかが関係する。
一方で、対象範囲を広げて考えるほど、支払日、支払った人、補てん額との対応関係を整理することが重要になる。家族分をまとめる場合も、まずは領収書や医療費通知を年分ごとに分けるところから始めたい。
総所得金額等200万円未満なら、10万円未満でも確認余地がある
医療費控除で見落とされやすいのが、総所得金額等200万円未満の場合の5%基準だ。この場合、差し引く金額は10万円ではなく、総所得金額等の5%になる。
ここでいう総所得金額等は、給与収入そのものではない。会社員の場合、給与収入から給与所得控除などを差し引いた後の所得を基に考えるため、「年収200万円未満かどうか」と単純に置き換えると誤解が生じやすい。
年金収入が中心の人、退職した年の人、パート収入が中心の人などは、この基準が関係する場面がある。医療費の合計が10万円未満だから対象外、と早めに決めつけるより、所得側の基準もあわせて確認する方が正確だ。
保険金や給付金は、対象の医療費から差し引く
医療費控除では、支払った医療費の総額だけでなく、補てん額との対応が重要になる。国税庁 No.1120では、保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引く扱いになっている。
たとえば、ある入院費に対して入院給付金を受け取った場合、その給付金は基本的にその入院費から差し引いて考える。給付金がその医療費を上回ったとしても、引ききれない分をほかの医療費から差し引く扱いにはならない。
ここは実務上つまずきやすい。医療費全体から給付金を機械的に引くのではなく、どの支払いに対する給付なのかを対応させて整理する必要がある。入院、手術、出産のように支払いと給付が同じ年に重なる場合は、領収書と給付金の通知を並べて確認したい。
会社員でも年末調整ではなく確定申告で申告する
医療費控除を受けるには、確定申告書を提出する必要がある。会社員の場合、生命保険料控除などは年末調整で処理されることが多いが、医療費控除は年末調整では完結しない。
手続きでは、確定申告書に「医療費控除の明細書」を添付する。医療費通知を添付することで、明細書の記載を簡略化できる場合もある。医療費通知とは、健康保険組合などの医療保険者が発行する医療費の通知で、申告時の整理に使えることがある。
ただし、医療費通知だけで必ず完結するとは限らない。通知に載らない医療費や、実際の負担額と確認が必要な支払いは、別に整理することになる。通知に係る医療費については領収書保存が不要となる場合がある一方、通知に含まれない医療費は、明細書の内容確認のために領収書の提示や提出を求められる場合がある。保存期間は原則として5年間とされている。
通常の医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方
医療費に関する税制には、通常の医療費控除とは別にセルフメディケーション税制がある。これは、一定の健康診査や予防接種などの取組を行った人が、特定一般用医薬品等の購入費について選択できる医療費控除の特例だ。
国税庁資料では、セルフメディケーション税制は平成29年1月1日から令和8年12月31日までの制度として案内されている。対象となる購入費が12,000円を超える部分について適用され、控除額の上限は88,000円とされる。
ただし、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用であり、同じ年に両方を併用することはできない。病院や薬局への支払いが多い年なのか、対象医薬品の購入が中心の年なのかを分けて考える必要がある。この記事の主軸は通常の医療費控除の計算方法であり、セルフメディケーション税制は別制度として切り分けて確認したい。
確認したいのは、領収書の合計より申告できる自己負担額
医療費控除は、「10万円を超えたか」ではなく、「制度上の計算をした結果、控除額が出るか」で判断する制度だ。支払った医療費、補てん額、所得基準、確定申告の手続きがつながっている。
整理する順番はシンプルだ。まず1年分の支払日と金額を集める。次に、入院給付金や高額療養費などがどの医療費に対応するのかを確認する。そのうえで、10万円と総所得金額等の5%のいずれか低い方を差し引き、控除額が出るかを見る。
医療費が多かった年ほど、領収書の合計額だけに目が向きやすい。だが、申告で重要なのは、補てん額を反映した後の自己負担と、所得に応じた基準だ。医療費通知、領収書、給付金の通知を早めに分けておけば、確定申告の時期に「使えると思っていたのに計算が違った」という混乱を減らせる。
出典・参考
主な参照資料
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 国税庁「No.1119 医療費控除に関する手続について」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1119.htm
- 国税庁「No.1131 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1131.htm

