EVやスマートフォン、産業機械に使う高性能磁石の分野で、日本企業の対応が具体化してきた。焦点にあるのは、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった「重希土類」を使わない磁石だ。中国依存の大きい素材を減らすのではなく、そもそも使わない設計を広げる動きが表面化している。
重希土類がなぜ問題になるのか
レアアースは17元素の総称で、EVの駆動モーター、スマートフォン、風力発電設備、半導体製造装置など幅広い製品に使われる。なかでも Dy や Tb などの重希土類は、高温環境でも磁力を保ちやすくする目的で、モーター用磁石に添加されることが多い。
問題は、その供給網で中国の存在感が極めて大きいことだ。採掘だけでなく、分離・精製や磁石材料の供給でも中国のシェアは高い。2026年1月には、中国が日本向けのデュアルユース品輸出禁止を打ち出し、重希土類を含む管理対象品目を巡る調達懸念が強まった。Reutersによると、TDK(6762)は2026年2月の決算説明会で、材料調達が「極めて難しい段階」にあると説明している。
調達先の分散だけでは足りない
日本側は調達先の分散も進めている。Reutersが2026年4月に報じたところでは、フランス南部の精製事業「Caremag」を通じて、日本は将来の Dy・Tb 需要の約20%を確保する計画だ。ただ、代替調達だけで短期的な不安をすべて解消できるとは限らない。
そのため注目されているのが、重希土類の使用量を減らす、あるいは使わない磁石を実用化する取り組みだ。供給網の外側で代替先を探すだけでなく、製品設計そのものを見直す動きといえる。
プロテリアルは高性能材を前進させた

プロテリアルは2025年7月、EV駆動モーター向けにも使える高性能の重希土類フリーネオジム焼結磁石を開発したと発表した。同社リリースによると、一部材質はすでに量産工場での試作サンプル提供を始めており、別の高耐熱材についても2026年4月から量産工場での試作サンプル対応を予定していた。
技術面では、不純物コントロールと組成・プロセス最適化を組み合わせ、重希土類を使わずに高い保磁力と残留磁束密度を両立させたとしている。NHKの2026年4月21日報道でも、同社が今月から試作品供給を始めたと伝えた。耐熱性確保に重希土類添加が必要とされてきた領域で、実用化を一段前へ進めた格好だ。
大同特殊鋼は量産拡大の段階に入った
大同特殊鋼(5471)も重希土類フリー磁石の実用化を進めている。2026年1月の同社公開資料では、ジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類元素を添加せずに一定の耐熱性を持つ異方性 NdFeB 熱間加工磁石を紹介している。
NHKは2026年4月、大同特殊鋼の子会社が重希土類を使わないモーター用磁石の生産を進め、同月から新たな生産ラインを稼働させて今後は生産量を現在のおよそ2倍に増やす計画だと報じた。大同特殊鋼の2026中期経営計画でも、重希土類フリー磁石の製造プロセス開発は重点項目の一つに位置づけられている。研究開発だけでなく、供給能力の拡大も視野に入った段階とみてよさそうだ。
意味が大きいのは「使わない設計」への転換だ
重希土類を巡るリスクへの対策には、調達先の多角化、備蓄、リサイクル、使用量の削減など複数の手段がある。そのなかで重希土類フリー磁石の意義は、素材の入手先を変えるだけでなく、必要な素材そのものを減らせる可能性がある点にある。
自動車産業では、磁石不足が生産に波及することへの警戒が続いている。だからこそ、日本企業が「どこから買うか」だけでなく「何を使わずに済ませるか」に踏み込んでいる意味は小さくない。経済安全保障の議論が、鉱山権益や輸入先の確保だけでなく、材料設計や製造技術の競争力に直結していることを示している。
ただし万能策ではない
もっとも、重希土類フリー磁石が直ちにすべての用途を置き換えるわけではない。高温環境での性能要求、コスト、量産時の歩留まりなど、詰めるべき課題はなお残る。現実には、代替調達、備蓄、リサイクル、使用量削減、フリー技術の普及を組み合わせる対応が必要になる。
今回の動きが重要なのは、日本企業が重希土類リスクへの対応を、調達論だけでなく設計論として具体化し始めた点にある。中国依存の高い素材であっても、技術開発によって脆弱性を下げられる余地があることを示した意味は大きい。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

