2026年3月、中国から日本に輸出されたレアアース磁石は184トン余りとなり、前年同月比で27.2%減った。中国全体の輸出量が5238トン余りで1.6%減にとどまるなか、日本向けだけ落ち込みが目立った形だ。数字だけ見れば単月の減少にすぎないが、中国が年初から日本向けデュアルユース品の輸出規制を強めてきた流れと重なるため、日本の製造業にとっては見過ごしにくいサインになっている。
ただし、この数字だけで「供給危機が本格化した」と断定するのは早い。3月の減少が一時的なぶれなのか、規制強化に伴う構造的な変化の始まりなのかは、4月以降の数量や輸出許可の運用を見ないと判断しにくい。現時点で言えるのは、中国依存が残る素材で日本向けの落ち込みが目立ったという事実と、その背景を点検する必要があるということだ。
レアアース磁石はなぜ重要なのか
レアアース磁石は、ネオジムやジスプロシウムなどを使った高性能磁石で、EVのモーター、風力発電設備、産業ロボット、工作機械、スマートフォン、各種家電まで幅広く使われる。小型でも強い磁力を持ち、高温でも性能を保ちやすいため、電動化と省エネ化が進む産業では代替しにくい部材のひとつだ。
重要なのは、中国の強みが採掘だけにとどまらない点である。採掘した鉱石を分離し、精製し、合金化し、最終的に磁石に加工する工程まで大きなシェアを握っている。そのため、中国の輸出管理は原料価格の変動だけではなく、日本企業が実際に必要とする磁石そのものの調達に影響しやすい。
日本の依存は下がったが、まだ十分には離れられていない
日本は2010年の供給不安以降、調達先の多様化を進め、中国への依存を大きく下げてきた。それでも、レアアース全体でみた対中依存はなお6割前後とされる。特に磁石に使う重希土類では中国依存が残っており、「以前よりはましだが、十分に代替できたわけではない」というのが実態に近い。
企業レベルでも影響は表れ始めている。電子部品大手のTDK(6762)は、ロイターに対して中国のレアアース規制の影響を受けており、調達先の多様化を進めていると説明した。個別企業が実務上の影響を認めていることは、今回の問題が抽象的な地政学リスクではなく、現場の調達課題として動き始めていることを示す。
問われるのは価格よりも数量と納期だ
この種のニュースでは価格上昇が先に注目されやすいが、日本の製造業にとってより重いのは、必要な時に必要な量が入るかどうかだ。磁石そのものが不足すれば、モーターや精密部品の生産計画は組みにくくなる。すぐに全面停止へ直結するとは限らないものの、在庫の積み増しや代替調達のコストが増えれば、収益や納期にじわじわ響く。
特に自動車、電機、精密機器の比重が大きい日本では、部材不足が一業種にとどまらず、関連メーカーや設備投資にも波及しやすい。今回の数字が重く見られるのは、単に27%減ったからではなく、数量と納期の不確実性を改めて意識させたからだ。
代替調達と国内開発は進むが、即効薬ではない
日本政府と企業は、代替調達、リサイクル、国内資源開発の三本柱で対応を急いでいる。南鳥島沖のレアアース泥を巡っては、2026年初めに採鉱システムの試験と回収が進み、供給網の多角化に向けた一歩として注目された。ただし、これはなお技術実証の段階であり、すぐ商業ベースの代替供給になるわけではない。
国際エネルギー機関(IEA)は2026年4月の公表資料で、磁石向けレアアース需要が2015年以降で倍増し、2030年までに3割超増えると見込む一方、中国以外で計画されている鉱山・精錬・磁石プロジェクトだけでは需要を十分に満たせない可能性があると指摘した。世界が中国依存を減らそうとしても、短期的に置き換えるのは簡単ではない。
4月以降の数字が次の焦点になる
現時点で最も重要なのは、3月の対日輸出減少が単月で終わるのか、それとも今後も続くのかを見極めることだ。4月以降も日本向け輸出が低水準で続けば、規制や審査の影響が実務に及んでいる可能性は強まる。逆に持ち直すなら、単月の変動だったとみる余地も残る。
今回のニュースは、ただちに日本の工場が止まるという話ではない。だが、レアアース磁石のような目立ちにくい部材が、日本の製造業の広い範囲を支えていることを改めて示した点は重い。中国依存を減らす努力が続いていても、供給網の弱点が完全には解消していない現実は、今回の184トンという数字から十分に読み取れる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

