スマートフォン料金の競争軸が変わり始めている。ソフトバンク株式会社(東証プライム:9434)は2026年4月10日、一部の既存料金プランを同年7月1日から110円〜550円(税込み)引き上げると発表した。これでNTTドコモ、KDDIに続き、大手3社が2025年以降に付加価値を伴う料金改定を進める構図がより鮮明になった。
かつてのような「とにかく安くする」競争は、いったん転機を迎えつつある。いま起きているのは単なる値上げではなく、通信会社がネットワーク維持費と新機能のコストを織り込んで、料金体系そのものを組み直す「再価格化」だ。
ソフトバンクは7月1日から月額110円〜550円引き上げる
ソフトバンクが今回改定するのは、既存の一部料金プランだ。発表では、基地局を動かすための電気代、人件費、増え続けるデータ通信量に対応するネットワーク投資負担の増加を理由に挙げた。寺尾洋幸専務は記者会見で、通信ネットワーク維持のために必要な判断だったと説明している。
同時に同社は、衛星直接通信サービス「SoftBank Starlink Direct」や海外利用関連の特典、混雑時の通信品質向上につながる機能などを組み合わせて打ち出した。ポイントは、単純に値段だけを上げるのではなく、「高くなる代わりに、つながりやすさや使い勝手も拡充する」と見せていることだ。
なお、今回の料金改定を決めたのは通信事業会社のソフトバンク株式会社(9434)であり、孫正義氏が率いる持株会社のソフトバンクグループ(9984)とは別会社である。この点は報道上も混同されやすいため、切り分けて理解したい。
ドコモとKDDIはすでに「付加価値込み」の改定へ動いていた
ソフトバンクの発表が注目されるのは、これが単独の動きではないからだ。大手3社はすでに、低価格競争一辺倒だった局面から少しずつ距離を取り始めている。
NTTドコモは2025年6月5日に「ドコモ MAX」「ドコモ ポイ活 MAX」の提供を始め、DAZN for docomo見放題を前面に打ち出した。加えて、Amazonプライム特典や海外データ通信最大30GB・15日無料なども盛り込み、通信容量だけでなく周辺サービスを束ねて価値を訴求する設計に寄せている。
KDDIも2025年8月1日の料金改定で、au Starlink Direct、au海外放題無料(15日分/月)、au 5G Fast Laneなどを特典として拡充した。こちらも値上げを単なるコスト転嫁としてではなく、「新しい体験価値を加えた改定」として見せている点が特徴だ。
一方で楽天モバイルは、2026年4月時点の公式料金ページでは「Rakuten最強プラン」の低価格訴求を維持している。3GBまで968円、無制限3,168円という分かりやすい価格設計は、大手3社とは異なる対抗軸になっている。ただし、競争環境や設備投資負担が変われば、将来も同じ路線が続くとは限らない。
なぜ今、再び料金が上がるのか
背景を理解するには、2020〜2021年の携帯料金引き下げ局面を振り返る必要がある。総務省の競争促進策や菅政権の値下げ要請を受け、各社は値下げや新ブランド投入を相次いで進めた。その結果、日本では「携帯料金は下がって当然」という空気が強まった。
しかし通信会社のコスト構造は、その後逆方向に動いた。5G投資、基地局の増強、災害対策、サイバーセキュリティー対応、衛星通信との連携など、利用者には見えにくい固定費が増えている。そこに電力価格の上昇と人件費増が重なり、通信量も増加基調だ。
MM総研の調査でも、スマートフォン利用者の月額利用料金は、端末代の分割支払い分を含まない実支払総額ベースで平均4,476円だった。利用者にとってはなお負担感が強い一方、事業者側は安さを維持しにくくなっている。ここに、いまの料金改定ラッシュの本質がある。
MM総研の横田英明所長は、携帯会社がネットワークだけでなく付加価値サービスをつけることで利用者満足度を上げ、値上げにつなげる転換期に入っていると指摘している。つまり、各社が売っているのは、もはや「ギガ」だけではない。
競争の軸は「最安」から「何が付くか」へ移る
今回の動きで見えてくるのは、通信料金が「データ容量の対価」から「通信と周辺サービスのパッケージ」へ再定義されていることだ。
衛星接続、海外利用、動画配信、スポーツ配信、混雑時の優先通信。各社が公式には「値上げ」より「特典拡充」「サービス内容改定」として見せているのは、こうした機能を前面に出すことで、単純な月額比較から競争の土俵をずらしたいからだ。
この変化は、利用者によって受け止め方が大きく変わる。山間部や災害時の通信確保を重視する人には衛星連携の価値がある。海外出張や旅行が多い人には海外データ特典が効く。スポーツ視聴を日常的に使う人ならDAZN見放題は実利がある。逆に、普段ほとんどデータを使わず、付帯サービスも利用しない人にとっては、使わない機能込みで負担だけが増える形になりやすい。
重要なのは、「自分が使わない機能込みの値上げ」なのか、「自分が本当に使う機能が増えた結果の値上げ」なのかを切り分けることだ。
家計として今やるべきこと
まず確認したいのは、自分の契約が改定対象かどうかだ。ソフトバンクの今回の値上げは一律ではなく、既存の一部プランが対象である。7月1日を迎える前に、マイページや料金通知で自分の契約内容を確認しておきたい。
次に、付帯サービスを実際に使う見込みがあるかを見極める必要がある。衛星通信、海外データ、動画配信、優先通信といった特典が生活実態に合わないなら、ワイモバイルやUQ mobile、楽天モバイルなどを含めて比較する余地は大きい。
最後に、乗り換えコストは月額差だけで見ないほうがいい。最近は昔ながらの解約違約金よりも、端末残債、返却プログラムの条件、光回線やクレジットカードとのセット特典が外れるコストのほうが重くなりやすい。短期の料金差だけでなく、1年単位で総額を見たほうが判断を誤りにくい。
総務省や公正取引委員会が過去に問題視してきたのは、利用者が実際の使用量に見合わない大きなプランを契約しがちな構造だった。今回の料金改定局面は、その契約を見直す良い機会でもある。
まとめ
ソフトバンクの2026年7月改定は、大手3社の料金戦略が「安さ一辺倒」から「付加価値込みの再価格化」へ移りつつあることをはっきり示した。背景には、電気代や人件費、5Gや衛星通信を含むインフラ投資負担の増加がある。
今後の通信料金は、単純に最安を探すだけでは選びにくくなる。どの機能にお金を払うのか、逆に何には払わないのか。家計にとって問われるのは、その見極めだ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

