南米ペルーで2026年4月12日、大統領選挙の第1回投票が行われた。出口調査では日系人元大統領アルベルト・フジモリ氏の長女、ケイコ・フジモリ氏が16%台で首位に立った。一方で、ロイターが伝えた序盤の公式集計ではラファエル・ロペス・アリアガ氏が上位に出る場面もあり、順位はなお流動的だ。候補者は35人に上り、過半数獲得は難しいとの見方が強い。6月7日の決選投票をにらみながら、ペルーは再び不安定な政治の出口を探る局面に入った。
出口調査と公式集計は別物として読むべきだ
今回の選挙は、開票の読み方そのものが難しい。出口調査ではケイコ・フジモリ氏が首位だったが、これは投票所での聞き取りをもとにした速報値だ。これに対し、序盤の公式集計は開票率がまだ低い段階の数字で、候補者の順位が大きく揺れやすい。
そのため、現時点で確かなのは「誰か1人が抜け出した」ということではなく、「票が広く分散し、決選投票公算が高まっている」という構図だ。ペルーの大統領選は第1回投票で有効票の過半数を得た候補が当選し、届かなければ上位2人が決選投票に進む。35人乱立の時点で、最初から接戦が想定されていた。
さらに今回は投票手続きそのものにも混乱があった。選管当局は、首都リマの一部投票所と米国の一部在外投票区で選挙資材の配送が遅れたため、投票を4月13日まで延長した。有権者が投票できなかった投票所が出たことで、正式結果の確定にはなお時間がかかる見通しだ。
ケイコ・フジモリ氏の復権は何を意味するのか
ケイコ氏は今回が4回目の大統領選挑戦となる。過去3回はいずれも決選投票まで進みながら敗れており、今回は治安対策の強化と政治の安定回復を前面に掲げてきた。犯罪や恐喝の増加に疲れた有権者にとって、秩序回復を打ち出すメッセージは依然として強い訴求力を持つ。
ただし、同氏の存在は今も強く割れている。父のアルベルト・フジモリ元大統領は1990年代の強権統治でテロ対策を進めた一方、人権侵害や汚職でも厳しい批判を浴びた人物だ。2024年9月に死去したが、その政治的記憶はなおペルー社会に深く残る。ケイコ氏への支持は、治安回復への期待と、権威主義への警戒の両方を同時に呼び起こしている。
2018年以降だけでも8人の大統領を経験した国だ
今回の選挙が重く見られる理由は、単なる政権交代ではない。ロイターが指摘する通り、ペルーは2018年以降だけでも8人の大統領を経験してきた。弾劾、辞任、汚職疑惑、議会との対立が連鎖し、どの政権も長く続かなかったためだ。
ペドロ・カスティジョ氏の失職後も混乱は収まらず、行政と議会の対立構造はむしろ深まった。政党の基盤が弱く、連立や妥協が続かないことも不安定化を招いてきた。今回の選挙で新大統領が選ばれても、それだけで統治の土台が整うわけではない。
しかも今回の総選挙では、上院を含む二院制議会が復活する。ONPEによれば、新議会は下院130議席と上院60議席で構成される。議会運営はこれまで以上に複雑になり、次の大統領には選挙勝利以上に議会と向き合う持久力が問われる。
有権者が怒っているのは治安だけではない
選挙戦で前面に出た最大争点は治安だ。ロイターは、近年の殺人や恐喝の増加が有権者の不安を強め、主要候補の多くが軍や治安機関の権限強化を訴えたと伝えている。ガーディアンも、腐敗と犯罪、政治エリートへの嫌悪感が今回の選挙の底流にあると報じた。
ただ、表の争点だけでは見えにくい問題もある。AP通信は、違法金採掘がアマゾン流域で拡大し、環境破壊だけでなく先住民コミュニティへの暴力や組織犯罪の温床になっていると報じた。治安強化だけでは処理できない構造問題が、選挙戦では十分に議論されていない。
言い換えれば、有権者が求めているのは単純な「強いリーダー」ではない。治安、汚職、違法経済、議会対立といった複数の危機を同時に扱える統治能力が問われている。
米中の影響力争いも次期政権の重荷になる
今回の選挙は国内政治だけの話では終わらない。ロイターは、ペルーが米中の影響力争いの前線の一つになっていると伝えている。焦点の一つが、中国資本が関与するチャンカイ港だ。次期政権の対中・対米姿勢は、通商政策だけでなく外交と投資の方向にも影響する。
ペルーは世界有数の銅生産国でもある。銅価格や資源投資の行方を考えても、大統領選の結果は国内政治を超えて注目されやすい。だが、外から見た重要性が高いほど、内政の弱さがそのまま国際リスクにもなりやすい。
決選投票の焦点は「誰が勝つか」だけではない
第1回投票で見えてきたのは、ペルー社会の分断と政治不信の深さだ。ケイコ・フジモリ氏が再び決選投票に近づいているとしても、対抗馬はなお確定しておらず、2位争いは接戦が続く可能性が高い。
6月7日の決選投票に向けて本当に問われるのは、誰が勝つかだけではない。次の大統領が、細分化した議会とどう折り合いをつけ、治安悪化と制度不信にどう向き合うかだ。ペルーは今回、10年で9人目の大統領を選ぶ局面にある。その重さは、投票日が終わった後にむしろ増していく。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

