韓国・尹錫悦大統領、史上2人目の罷免 非常戒厳が引き起こした政治危機とは?

2025年4月4日、韓国の憲法裁判所は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の罷免を決定しました。この決定により、尹大統領は即時失職し、今後60日以内に新たな大統領選挙が実施されることになります。韓国で大統領が罷免されるのは、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続き2例目であり、尹氏の在任期間は約2年10カ月と、民主化後の大統領としては最も短いものとなりました。以下に、この出来事の経緯や背景、影響についてわかりやすくまとめます。


1. 罷免に至った経緯

尹大統領の罷免は、2024年12月3日に彼が宣言した「非常戒厳」をきっかけに始まりました。この宣言は、野党が多数を占める国会が行政を機能不全に陥らせているとして発令されましたが、わずか数時間後の12月4日未明に解除されました。韓国では1987年の民主化以降、初めての戒厳令発令であり、国民や政治家の間に大きな衝撃を与えました。

  • 国会での弾劾訴追
    野党は、この非常戒厳宣言が憲法に違反するとして、12月14日に弾劾訴追案を提出。与党の一部議員も賛成に回り、賛成204票で可決されました。これにより、尹大統領の職務は停止され、韓悳洙(ハン・ドクス)首相が大統領権限代行を務める体制に移行しました。
  • 憲法裁判所の審理
    弾劾訴追後、憲法裁判所で罷免の是非を判断する審理が開始。1月に弁論が始まり、2月25日に結審しました。審理では、非常戒厳の合法性や、尹大統領が国会に軍や警察を投入して議員の活動を妨害したかどうかが主な争点となりました。尹氏側は「戒厳令は正当だった」と主張しましたが、訴追側は「憲政秩序への攻撃」と反論しました。
  • 最終判断
    4月4日、憲法裁判所は8人の裁判官全員一致で罷免を決定。裁判所は、「非常戒厳は国家非常事態という要件を満たしておらず違憲」「国会への軍投入は三権分立を侵害する重大な違法行為」と判断しました。これにより、尹氏は失職しました。

2. なぜ罷免されたのか?

尹大統領の罷免理由を簡単にまとめると、次の3点が挙げられます。

  1. 非常戒厳の違憲性
    韓国憲法では、戦時や国家危機時にのみ戒厳令を宣言できます。しかし、裁判所は、当時の状況がその基準を満たしていないと判断しました。
  2. 権力の乱用
    尹大統領が軍や警察を使って国会を封鎖しようとした行為は、民主主義の基本である三権分立を脅かすもので、「国民の信任を裏切った」とされました。
  3. 国民と政治の混乱
    戒厳令宣言は社会・経済・外交に大きな混乱をもたらし、国民の間に不安を広げました。これが「重大な違法行為」と見なされました。

3. 国民や政治家の反応

  • 支持者の反発
    罷免決定後、大統領公邸近くに集まった尹氏支持者はショックと怒りを露わにしました。一部は涙を流し、警察車両の窓を割るなど過激な行動に出た人も。聯合ニュースによると、1人が拘束されています。
  • 野党と市民の歓迎
    一方、野党や多くの市民は「民主主義の勝利」と歓喜。ソウル中心部では喜ぶ人々が集まりました。
  • 与党の対応
    与党「国民の力」は決定に「遺憾」を表明しつつも、支持者の暴動化を防ぐため冷静さを呼びかける立場です。

4. 今後の展開

  • 大統領選挙
    憲法の規定により、罷免から60日以内(6月3日頃が有力)に新たな大統領選挙が行われます。最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が世論調査でリードしていますが、選挙戦は混戦が予想されます。
  • 日韓関係への影響
    尹政権下で改善が進んでいた日韓関係にも懸念が広がっています。日本の石破茂首相は「日韓連携は最重要」とコメントしつつ、新政権の動向を見守る姿勢です。
  • 尹氏の処遇
    罷免後、尹氏は私邸に移る見込み。また、内乱罪での捜査が進行中で、1月15日に一度拘束されましたが、3月7日に地裁が拘束を取り消しています。今後の刑事責任が注目されます。

5. 韓国の政治的分断

今回の事件は、韓国の保守と革新勢力の深い対立を浮き彫りにしました。尹氏支持者は「弾劾は不当」と主張し、デモを続ける可能性があり、警察はソウルに約2万人の機動隊を配備して混乱に備えています。過去の朴槿恵罷免時(2017年)には衝突で死傷者が出た例もあり、警戒が強まっています。


まとめ

尹錫悦大統領の罷免は、非常戒厳宣言という異例の行動が引き起こした政治危機の結末です。憲法裁判所の全員一致の決定は、韓国民主主義の強さを示す一方、分断の深刻さも露呈しました。今後60日間の選挙戦が韓国の未来をどう形作るのか、そして尹氏自身の運命がどうなるのか、世界が注目しています。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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