3月23日の夜(日本時間20時頃)、ドナルド・トランプ大統領がSNSに短い声明を投稿した。内容は、イランのエネルギーインフラへの軍事攻撃を「5日間延期する」というものだ。これを受けて、世界の金融市場は数分以内に大きく動いた。
「完全停戦」ではなく「条件付き攻撃延期」

まず声明の内容を正確に押さえておきたい。声明の要旨は、米国とイランがこの2日間、敵対行為の終結に向けて前向きな協議を続けてきたというものだ。その流れを踏まえ、トランプ大統領は国防総省に対し、イランの発電施設・エネルギー関連インフラへの攻撃を、協議が順調に進むことを条件に5日間延期するよう指示したとした。
この声明のポイントは、「完全停戦が決まった」ということではない。あくまで「協議が進んでいるので、今すぐには攻撃しない」という条件付きの猶予だ。ロイターやブルームバーグなど主要メディアも「攻撃延期」という表現で報じており、停戦合意とは区別している。
それでも市場は、この投稿を「最悪シナリオの一時後退」として受け止めた。その反応の速さと大きさは、いかに市場がエスカレーションのリスクを警戒していたかを示している。
株先物が急騰——ナスダック+2%超、日経先物も大きく上昇


投稿直後の時間外取引では、米株先物が急騰した。ロイターの報道では、ダウ先物が+1,246ポイント(+2.72%)、S&P500先物が+156.75ポイント(+2.39%)、ナスダック100先物が+489ポイント(+2.03%)と、軒並み2%超の上昇を記録した。
TradingViewのチャートでも確認できるように、ナスダック100ミニ先物は声明前の23,800〜24,100台から、声明後に一時24,760台まで急伸した。日経先物(CME)も同じタイミングで51,000円前後から54,000円台まで跳ね上がった。
なぜ株が上がったのか。エスカレーションの懸念が和らいだことで、「リスクオン」の雰囲気が戻ったためだ。戦争が激化するフェーズでは、企業の業績見通しや景気への影響が不確実になり、投資家はリスク資産(株式など)を売る傾向がある。逆に緊張が一時でも緩和されると、その売りが急速に巻き戻される。今回はまさにその典型的な動きだった。
原油が急落——ブレントは113ドル台から96ドル台へ

最も激しい動きを見せたのが原油だ。声明前、ブレント原油は111〜114ドル台で推移していたが、声明後に急落し、一時96ドル台まで下落した。下落幅は10〜15%に達する場面があった。
WTI原油も同様の動きで、WSJは「oil skids(原油急落)」と表現している。
なぜ原油が下がったのか。イランはOPEC加盟国であり、世界有数の原油輸出国だ。また、中東の石油輸送の要衝であるホルムズ海峡はイラン沿岸に位置しており、軍事衝突が激化すればタンカーの通行が困難になるリスクがある。今回の戦争を受けて原油価格は短期間で50%以上急騰していたが、「エネルギーインフラへの攻撃が差し当たり回避される」という見方が広がったことで、供給途絶リスクの織り込みが一気に縮小した形だ。
ビットコインが7万ドルを回復

ビットコインも大きく動いた。TradingViewのチャートでは、声明前は67,000〜69,000ドル台で推移していたが、声明後に急騰して一時71,400ドル台を付け、その後70,700〜70,900ドル台で推移している。
ビットコインは近年、地政学リスクの高まり時に「安全資産」と見る向きと「リスク資産」と見る向きが交錯する。今回の一連の動きでは、戦争開始後の緊張局面で売られ、緊張緩和期待で株式と同じく買い戻されるという、「リスク資産」としての動きが目立った。
金も乱高下——リスクオンへの切り替わりを映す

金(ゴールド)も声明前後で急激な乱高下を見せた。地政学リスクが高まった局面では「安全資産」として買われていた金だが、声明後に市場全体がリスクオンに傾くと一時的に売り圧力が強まった。株・ビットコインとは逆方向に動く場面も見られ、安全資産から投資資金が流出する形となった。ただし原油急落や協議の不確実性を受けて、その後は値を戻す動きも出ており、金市場は様子見ムードと短期売買が混在している。
ドル円は一時円高方向へ——複合的な要因が重なった動き

為替は株・原油とはやや異なる動きをした。声明前、APの報道によると緊張が高まった局面でドル円は1ドル=159.53円まで上昇していた。この上昇には、地政学リスク時に安全資産としてドルが買われる「有事のドル買い」に加え、原油高が輸入国である日本に不利に働くとして円が売られやすくなる側面も重なっていた可能性がある。
声明後は、ロイターが「ドルは上昇分を吐き出して下落に転じた」と伝えており、TradingViewのチャートでも159円台後半から158円台前半に急落するタイミングが確認できる。「攻撃延期」によってリスク回避ムードが後退したことに加え、原油の急落に伴う円売り圧力の巻き戻しも重なったとみられ、複合的な要因でドルが押し下げられた形だ。
今後の焦点——5日間の協議でどこまで進展するか
今回の声明は市場に大きなインパクトをもたらしたが、状況が根本的に解決したわけではない。トランプ大統領が示した「5日間」という猶予が終わるまでに、協議が具体的にどこまで進展するかが次の焦点だ。
協議が決裂すれば攻撃再開の可能性があり、市場は再び緊張局面に戻る。逆に合意の枠組みが見えてくれば、リスクオンの動きが続く可能性がある。原油・株・ビットコイン・為替のすべてが、この数日間の外交の行方に引き続き敏感に反応することになりそうだ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

