ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、海運大手の日本郵船が、中東向け自動車輸送で代替ルートの検討を進めている。
日本郵船(東証プライム:9101)の曽我貴也社長は、2026年5月11日の決算会見で、中東各国の自動車需要は強い一方、ホルムズ海峡を通れない場合に備え、別の物流ルートを開拓する考えを示した。
このニュースの焦点は、ホルムズ海峡の混乱が原油やLNGだけでなく、日本から中東へ向かう完成車輸送にも影響している点にある。需要が消えているのではなく、商品を届けるルートが不安定になっている。
何が起きているのか
日本郵船は、中東向け自動車輸送について、ホルムズ海峡を通らない代替ルートを検討している。
曽我社長は決算会見で、中東各国の購買意欲は盛んで強い要請があると述べた。そのうえで、ホルムズ海峡に入れない場合は、物流上の別ルートを開拓する必要があり、すでに動き出しているとの考えを示した。
想定されるのは、オマーンなど中東に関係する安全な地域で自動車を陸揚げし、そこから陸上輸送で各国へ届ける方法だ。中東湾岸部の港まで船で直接運ぶのではなく、外洋側の港と陸上輸送を組み合わせる形となる。
これは単なる迂回航路の話にとどまらない。海上輸送だけで完結していた物流を、港での荷下ろし、陸送、通関、現地配送まで含めて組み直す動きである。
需要ではなく物流ルートが問題になっている
今回のポイントは、中東向けの自動車需要が弱くなっているわけではないことだ。
日本郵船の説明では、中東各国の購買意欲は強い。つまり、問題は「売れない」ことではなく、「どう届けるか」にある。
日本から中東向けに完成車を輸出する場合、多くは自動車専用船で海上輸送される。中東湾岸部の港へ入るには、通常、ホルムズ海峡を通過する必要がある。その海峡が使いにくくなると、目的地の港まで直接運べない。
そこで浮上するのが、比較的安全な外洋側の港で自動車を降ろし、そこからトラックなどで陸送する方法だ。オマーンが候補として注目されるのは、ホルムズ海峡の外側からインド洋にアクセスできる地理的な強みがあるためである。
ただし、陸上輸送を組み合わせれば、輸送コストは上がりやすい。納期も読みづらくなり、保険料、港湾混雑、通関手続きなどの課題も増える。需要が強くても、物流コストが上がれば、企業収益や販売価格に影響する可能性がある。
ホルムズ海峡リスクは原油だけに限られない
ホルムズ海峡は、イランとオマーンの間にある狭い海峡で、ペルシャ湾とインド洋を結ぶ重要な海上ルートだ。
サウジアラビア、UAE、カタール、クウェート、イラクなど湾岸諸国に関係するエネルギー輸送の大動脈であり、原油やLNGの通り道として知られている。
しかし、日本郵船の対応を見ると、影響はエネルギー分野に限られない。日本から中東へ輸出される完成車や機械類などの物流にも関係する。
自動車輸送が滞れば、海運会社だけでなく、自動車メーカー、販売会社、現地ディーラーにも影響が及ぶ可能性がある。さらに、燃料費や保険料の上昇が続けば、物流費全体を押し上げる要因にもなる。
ホルムズ海峡リスクは、原油価格だけを見るニュースではない。完成車、部品、物流費、企業収益まで含めて考える必要がある。
2027年3月期予想にも中東リスクが表れている
日本郵船の2027年3月期連結業績予想では、売上高は前期比7.5%増の2兆6050億円、親会社株主に帰属する当期純利益は7.9%減の1950億円とされている。
前期にあたる2026年3月期の純利益は2117億円だったため、増収減益の見通しとなる。
同社の決算短信では、自動車事業について、中東情勢の緊迫が一定期間続くことを想定し、輸送台数は当年度比で減少すると見込んでいる。定期船事業でも、スエズ運河迂回に伴う喜望峰ルートの利用継続や、中東情勢による費用増加が利益水準を押し下げる要因として示されている。
業績予想では、ホルムズ海峡が2026年7月に安全に通過できるようになるという前提が置かれている。これは会社の見通し上の前提であり、中東情勢の先行きによっては見直しが必要になる可能性がある。
海上輸送だけで完結しないサプライチェーンへ
日本郵船は、自動車輸送だけでなく、コンテナ船事業でも迂回の影響を見込んでいる。スエズ運河を避けて喜望峰ルートを使う迂回が続けば、航海距離が伸び、燃料費や運航コストに影響する。
今回の中東向け自動車輸送では、ホルムズ海峡を通れない場合に、オマーンなど外洋側の港で陸揚げし、そこから陸送する考え方が出ている。海運会社が海上輸送だけではなく、陸上輸送を含むサプライチェーン全体を調整する局面に入っていることを示す動きだ。
物流ルートの変更は、船の進路を変えるだけでは済まない。港の受け入れ能力、現地の道路輸送、保険、通関、治安、納期管理など、多くの条件をそろえる必要がある。
代替ルートが確保できたとしても、従来と同じコストやスピードで運べるとは限らない。ここが、企業業績や商品価格に影響しやすい部分である。
投資家と生活者が見るべき点
ホルムズ海峡のニュースは、地政学や海運の専門的な話に見える。しかし、物流コストが上がると、その影響は企業の利益に表れやすい。
自動車の場合、輸送費、保険料、燃料費、納期の遅れは、販売価格や在庫管理に影響する可能性がある。中東向けの話であっても、日本企業の輸出採算や海運会社の業績に関わるため、投資家にとっても無視しにくい材料だ。
また、ホルムズ海峡は原油やLNGの輸送ルートでもある。エネルギー価格が上がれば、燃料費や輸送費を通じて、生活コストに波及する可能性もある。ただし、今回の日本郵船の発表で直接確認できるのは、中東向け自動車輸送と業績見通しへの影響である。
日本郵船の動きは、ひとつの企業の物流対応であると同時に、地政学リスクがサプライチェーンをどう変えるかを示す事例でもある。
まとめ
日本郵船が中東向け自動車輸送で代替ルートを検討している背景には、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長引く可能性がある。
中東向けの自動車需要は強いものの、従来の海上ルートが使いにくくなれば、企業はオマーンなどを経由した陸上輸送を含む別ルートを確保しなければならない。
このニュースは、ホルムズ海峡リスクが原油価格だけでなく、日本の自動車輸出、海運業績、物流費に広がり得ることを示している。
遠い地域の地政学リスクは、サプライチェーンを通じて企業収益や生活コストに結びつく。日本郵船の対応は、そのつながりを具体的に見せる動きだといえる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

