中東での軍事作戦をきっかけにホルムズ海峡が事実上封鎖されて以来、ペルシャ湾内に足止めされていた日本関係船舶がついに動き出した。商船三井(9104)が共同保有するパナマ船籍のLNG(液化天然ガス)運搬船「SOHAR LNG」が、日本時間4月3日までにホルムズ海峡を通過してペルシャ湾外に出たことが確認された。今回の軍事危機後、日本関係の船舶がホルムズ海峡を通過したのは初めてとみられる。ただし、この1隻の通過だけで封鎖解除や正常化を示す材料とは言いにくい。現時点で確認できるのは、厳しく制約された環境のなかで限定的な通航が起きた、という事実である。
ホルムズ海峡が世界市場を揺らす理由
ホルムズ海峡は、イランとオマーンの間に挟まれた狭い水道で、中東の産油国から世界へ石油やガスを運ぶ重要ルートだ。国際エネルギー機関(IEA)によれば、2025年には1日あたり平均2,000万バレルの原油・石油製品がこの海峡を通過し、世界の海上石油取引の約4分の1を占めた。
LNGでも重要性は大きい。IEAによると、2025年にはカタールとアラブ首長国連邦のLNG輸出の大半がホルムズ海峡を通過し、その量は世界のLNG貿易の19%を占めた。代替手段は限られており、海峡の混乱は世界のガス価格を揺らしやすい。
もっとも、日本への影響は原油とLNGで分けて考える必要がある。Reuters系報道では、日本は原油輸入の約9割をホルムズ海峡経由に依存する一方、LNGは約6%とされる。日本のLNG調達が直ちに止まるとまでは言いにくいが、国際価格の上昇やスポット調達の不安定化を通じて、国内の燃料コストに波及する可能性はある。
45隻が足止め、その中の1隻が抜けた
ペルシャ湾内では、日本関係の船舶が長く足止めされてきた。Reuters系報道では、4月3日朝時点で日本関係船舶45隻が湾内に滞留していたとされる。SOHAR LNGの通過後も、なお44隻が湾内に残る計算だ。
今回通過したSOHAR LNGについて、商船三井は船員と船舶の無事を確認したとしている。一方で、通過時刻や目的地、どのような条件で航行できたのかといった詳細は、安全確保の観点から公表していない。
海外報道は、この通過が平時の運航とは異なる条件下で実現した可能性を示している。ブルームバーグは、SOHAR LNGが貨物を積んでいなかった可能性や、オマーン船であることを示すシグナルを発していた点に触れた。ロイターも、AIS(船舶自動識別装置)の信号が航行中に途切れていたと伝えており、異例の条件が重なっていた可能性が高い。
なお残る「選別的通航」の色合い
ロイターによると、イランは軍事作戦開始後、米国やイスラエルと無関係とみなした船舶について通航を認める方針を示したとされる。この見方が正しければ、現在のホルムズ海峡は誰でも自由に通れる状態ではなく、船ごとの選別が残る状態にある。
ブルームバーグはSOHAR LNGの通過を、戦争開始後の象徴的な通過事例のひとつと位置づけた。ただし、それは海峡の安全回復を意味しない。通航できる船とできない船が分かれる状況であれば、海運会社にとってのリスクは依然として高い。
海運リスクの専門誌ロイズ・リストは3月中旬時点で、海峡北側に最大140隻が停泊していたと報じていた。問題は「通れるかどうか」だけではない。湾内にとどまる間も、攻撃や電子妨害などの危険にさらされる環境が続いている。
再開の材料にはなったが、正常化とはまだ言えない
SOHAR LNGが1隻通過できたこと自体は、通航再開を占う材料のひとつになった。ただし、この事例には無積みの可能性、船籍やシグナルの工夫、AISの断続的な停止といった特殊事情が重なっていた可能性がある。ほかの船舶でも同じように再現できるかはまだ見えていない。
残る44隻の日本関係船舶が順次動けるようになるかどうかは、米国とイランをめぐる外交の行方や、現地の軍事情勢に大きく左右される。今回の通過は閉塞のなかで現れた小さな変化ではあるが、それをもってホルムズ海峡が正常化に向かったと判断するのは時期尚早だ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

