ユーロ・景況感指数(Economic Sentiment Indicator:ESI)は、ユーロ圏における経済の信頼感や先行きに対する期待を総合的に示す月次の経済指標である。欧州委員会(European Commission)の経済・金融総局(DG ECFIN)によって作成・公表されており、製造業、サービス業、小売業、建設業、消費者の5つの部門からのアンケート調査をもとに指数化されている。
この指数は、100を基準値として、100を上回れば平均より景況感が良好、下回れば悲観的とされる。域内の景気の現状と将来見通しの両面を反映することから、マーケットにおける注目度も高い。
指標の意義と使われる場面 #
ユーロ圏全体の景況感を俯瞰できる数少ない指標として、ESIは欧州中央銀行(ECB)や欧州委員会にとって重要な判断材料となる。また、ユーロ圏各国の経済活動が相互に影響しあう構造を持つ中で、加盟国ごとの動向もあわせて公表されることから、地域別の景気のばらつきを把握するうえでも活用されている。
市場参加者にとっては、実体経済データに先行するソフトデータとしての位置づけがあり、ESIが大きく悪化した場合には、実体経済の減速や企業業績の悪化を見越した株価下落につながることもある。
計算方法と構成の特徴 #
ESIは、欧州委員会が毎月実施する業種別アンケートの結果を加重平均して算出される。製造業とサービス業が大きな比重を占めるが、消費者や建設、小売といった需要サイドの期待も反映されている点で、バランスのとれた景況感指標と言える。
また、各部門の詳細指数(例:製造業信頼感指数、サービス業信頼感指数など)も同時に公表されるため、ESIの変動要因を構成要素別に分析することも可能である。
関連指標との比較 #
ESIは、たとえばドイツのIFO業況指数やフランスのINSEE景況感指数といった各国の景気指標と並べて分析されることが多い。これらが主に国内経済の動向に焦点を当てているのに対し、ESIはユーロ圏全体の「総合的な景況感」を対象としている。
また、購買担当者景気指数(PMI)と比較すると、PMIが「業務量や仕入れ価格などの定量的項目」に基づくのに対し、ESIは主観的な「期待・見通し」に基づく点が異なる。両者は補完的な性格を持っている。
読み解き方と注意点 #
ESIは「100」という平均基準が設けられているため、過去の水準との比較がしやすいのが特徴である。ただし、短期的な変動は季節要因や一時的なイベント(選挙・戦争・自然災害など)の影響を受けやすく、冷静なトレンド分析が求められる。
また、ESIの構成には「期待」の要素が多く含まれるため、金融市場のセンチメントと連動するケースもある。そのため、実体経済との乖離が生じることもある点には留意したい。