春闘3年連続5%台でも「賃上げの実感」が薄い理由——中小と非正規にはまだ届いていない

「今年も高い賃上げが続いた」——数字だけ見れば、その通りだ。ことしの春闘で連合が集計した賃上げ率は5.26%。3年連続で5%台を維持し、歴史的に見ても異例の高水準が続いている。

しかし、給料が上がったという実感がなかなか湧かないという人も多いのではないか。そう感じる人がいても不思議ではない。数字の裏に、まだ解決されていない問題が残っているからだ。


目次

春闘とは何か

そもそも春闘とは、毎年春に労働組合と企業が賃金やボーナスについて交渉する、日本独特の慣行だ。法律で一律に賃金が決まるわけではなく、大手企業の回答が「相場」を作り、その後に中小企業へと波及していく流れを持つ。

3月18日が今年の「集中回答日」で、大手を中心とした1100組合分の結果が3月23日時点でまとまった。これが今回の集計の対象だ。中小企業の交渉はこれから本格化するため、この第1回集計はゴールではなく、あくまで今年の賃上げ相場の「基準線」に当たる。


全体5.26%は高い——でも何かが足りない

連合によると、定期昇給分とベースアップ相当分を合わせた平均賃上げ率は5.26%、月額にして1万7687円だった。前年の同時期(5.46%)をわずかに下回ったが、5%台は3年連続だ。

ここで「定期昇給」と「ベースアップ」の違いを押さえておきたい。定期昇給は、勤続年数や社内の昇給ルールに基づく昇給のことで、毎年ある程度は自動的に上がる部分だ。一方、ベースアップは賃金の「土台」そのものを引き上げること。この2つが合わさって5.26%という数字が出ているため、5.26%のすべてが賃金表そのものの底上げではない、という点は知っておく価値がある。


大企業は好調でも、中小は「目標未達」

問題はここからだ。従業員300人未満の中小企業に限ると、賃上げ率は5.05%にとどまった。連合が今年掲げた中小の目標は「6%以上」。0.95ポイント届かなかった。

中小企業が賃上げに苦しむ背景には、構造的な問題がある。原材料費やエネルギーコストが上がっても、その分を販売価格に転嫁しきれていないのだ。中小企業庁が2025年9月に実施した調査では、価格転嫁率は約53.5%、労務費の転嫁率は約50.0%にとどまった。賃上げ原資を確保しにくい状況が続いており、払いたくても払う余力が作りにくいという壁がある。


非正規の賃上げは高水準だが目標に届かず

パートタイマーなど非正規雇用で働く人の賃上げは、時給で84円余りの引き上げとなった。率にすると6.89%と高水準で、前年同時期を0.39ポイント上回った。

とはいえ、連合が目標とする「7%」にはわずかに届かなかった。時給ベースでは元の賃金水準が低いほど上昇率は高く見えやすく、率の高さだけで格差縮小を言い切るのは早い。雇用形態による格差是正は、まだ道半ばの状況だ。


「5%上がった」のに、なぜ生活は楽にならないのか

ここで重要な視点が「名目賃金」と「実質賃金」の違いだ。名目賃金は額面の給与が何%上がったかを示す。実質賃金は、その上昇分から物価の上昇分を差し引いたもので、実際の生活水準の変化に近い。

たとえば給料が5%上がっても、食料品や光熱費などの物価がそれ以上に上がれば、買えるものは増えない。連合の芳野会長は今回の会見で「中東情勢については切り離して交渉してきたが、今後の影響は注視していきたい」と述べた。この発言の背景には、原油高が家計に与える影響への警戒もうかがえる。原油高が長引けば、せっかく勝ち取った賃上げが物価に食われ、実質賃金のプラス定着が再び揺らぐ可能性がある。


本当の問いは「広がり」にある

3年連続5%台という数字は、確かに日本の賃上げの歴史では異例の水準だ。しかし、連合自身が目指しているのは、単年度の高い数字ではなく、「物価を上回る賃上げが当たり前になる状態」の定着だ。

大企業が先行し、中小企業や非正規雇用への波及がついてくる——そのプロセスが今まさに問われている。全体の5.26%という数字が「強い春闘」に見える一方で、中小の5.05%という数字が「まだ届いていない現実」を映している。

連合は「好スタートが切れた」と評価しながらも、中小支援の継続を掲げている。これから本格化する中小企業の交渉の行方が、今年の春闘の本当の結果を決める。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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