3月23日、高市首相は自民党の役員会で、中東情勢に関する新たな関係閣僚会議を翌24日に立ち上げると表明した。
「原油、天然ガスのみならず、ナフサをはじめとする石油関連製品も含めて、国民の命と暮らしを守るという観点からきめ細かく対応していく」
この発言の中で、多くの人が聞き慣れない「ナフサ」という言葉が飛び出した。政府がわざわざナフサを名指しした意味は何か。それを読み解くと、中東危機が日本にとってどれほど広い問題になっているかが見えてくる。
ナフサとは何か
ナフサは原油を精製して得られる液体の石油製品だ。ガソリンや灯油と同じように原油から作られるが、燃料として使われるわけではない。その主な用途は「石油化学の原料」である。
ナフサを高温で分解すると、エチレンやプロピレンといった基礎化学品が生まれる。そしてそこから、プラスチック、合成繊維、包装材、電子材料、医薬品の原料など、現代の産業を支える多くの素材が作られていく。
わかりやすく言えば、ナフサはプラスチックや化学製品の「出発点」だ。ガソリンが止まれば車が動かなくなるように、ナフサの供給が滞れば化学工場の稼働やコストに大きな影響が出る。
資源エネルギー庁のデータによると、日本の石油製品需要に占めるナフサの比率は2023年度で25.0%。ガソリンに次いで大きく、軽油をも上回る規模である。
なぜ日本はナフサでも中東に依存するのか
日本の石油化学はナフサを主原料としている。米国や中東産油国ではエタン(天然ガスの副産物)が使われることが多いが、日本や欧州はナフサへの依存度が高い構造になっている。
そして、そのナフサはどこから来るか。石油化学工業協会の統計では、2024年の日本のナフサ輸入で、UAEが30.4%を占めている。中東産ナフサにも、ホルムズ海峡の情勢が安定しなければ物流上の影響が及ぶ。
つまり、ホルムズ海峡の問題は、原油・LNGの輸送だけでなく、ナフサの調達にも波及しうる。政府がナフサを名指しした背景には、この構造があると読める。
危機の射程が「燃料」から「原料」へ広がった
今回の閣僚会議の設置は、政府が中東危機への対応を一段深いところまで広げたシグナルとみられる。
これまでの危機対応の焦点は、主にガソリン価格の抑制や電力・ガスの料金対策だった。家庭の光熱費や交通コストに直結するため、国民に見えやすい問題だ。しかしナフサの安定確保は、もう一歩奥にある。
ナフサの供給が滞ると何が起きるか。石油化学工場の稼働率が下がり、プラスチックや合成素材の生産コストが上がる。それは製品の包装材や部品に使われる素材のコストに波及し、家電、自動車、食品包装など幅広い製品の価格に影響する可能性がある。実際、Reutersなどの業界報道は、アジアの製油所や石化企業がナフサの原料不足に直面し、稼働率を引き下げていると伝えている。
つまり政府は今回、「生活コスト」だけでなく「産業コスト」という次の問題を見越して、対応の幅を広げていると読むことができる。
関係閣僚会議とはどんな仕組みか
一般に、「関係閣僚会議」は、複数の省庁にまたがる危機に対し、官邸主導で情報共有と政策調整を行う会議体だ。エネルギー問題であれば、経済産業省だけでなく、外務省、国土交通省、財務省なども関わることになる。
今回の新会議設置は、政府がこの問題を省庁横断で対処すべき課題として位置づけていることを示唆している。
高市首相は今回、日米首脳会談の文脈でも「ホルムズ海峡における航行の安全とエネルギーの安定供給の重要性を確認した」と述べており、今回の新会議はその外交的な判断と連動した国内対応とも言える。
会議の具体的な内容はこれから
ただし現時点では、新会議の参加閣僚の確定や議事の詳細はまだ公開されていない。何をどこまで議論するかは、24日以降に明らかになっていく。
政府が対応の幅を広げる方向にあることはうかがえるが、具体的にどんな対策が打たれるかはこれから見極める必要がある。原油・ガスの備蓄放出と同様の仕組みがナフサに適用されるのか、あるいは調達先の多角化を促す支援策が検討されるのかは、現段階では断定できない。
「ナフサ」という一言が示したもの
首相がわざわざ「ナフサ」という言葉を使ったのは偶然ではないとみられる。ガソリンや天然ガスと並べてナフサを名指すことで、政府は「燃料の問題だけではない」というメッセージを産業界に向けて発したと読める。
中東危機が日本の製造業の原料調達にまで波及しているとすれば、今後の経済への影響は、エネルギー価格の高止まりという範囲を超える可能性がある。今回の新会議の動きは、その広がりを政府自身が認識していることを示唆している。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

