イランはなぜホルムズ海峡を封鎖したのか——中東戦争の戦況と「非対称の戦略」

アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃が激しさを増している。イラン側は徹底抗戦の構えを崩さず、ペルシャ湾の出口にあたるホルムズ海峡の封鎖を宣言した。世界の原油・天然ガス供給に直結するこの海峡が「武器」となった今、戦争は単なる地域紛争の枠を超えようとしている。


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何が起きているのか

2月末、アメリカとイスラエルの攻撃によって、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師と軍事幹部らが殺害された。その後も全土にわたる攻撃が続き、多数の市民が犠牲となっている。

これを受けてイランは、イスラム体制の「存亡の危機」と捉え、反撃に打って出た。攻撃の対象はイスラエルにとどまらず、アメリカ軍が拠点を置く湾岸アラブ諸国や周辺各地へと拡大した。軍事施設だけでなく空港、大使館、淡水化施設、商業施設なども標的にされたと伝えられている。

そしてイランは、この戦争の「核心的な一手」としてホルムズ海峡の封鎖を宣言した。海峡を通るタンカーや湾岸産油国の製油施設を攻撃し、エネルギー供給を絞ることで、軍事力ではなく経済的打撃によって相手国への圧力をかける戦略に出たのだ。


「非対称の戦略」とは何か

軍事力ではアメリカ・イスラエルに遠く及ばないイランが選んだのは、真正面からの戦闘ではなかった。専門家が「非対称の戦略」と呼ぶ戦い方だ。

非対称の戦略とは、軍事力で劣る側が、正面衝突を避けて相手の弱点やコストに効く場所を集中的に狙う手法を指す。圧倒的な戦力を持つ敵に対しても、持久戦や経済的打撃を通じて圧力をかけることができる。

イランが特に力を入れているのが、エネルギー価格の高騰だ。ホルムズ海峡を封鎖し、湾岸産油国の製油施設やタンカーを攻撃することで、原油・ガス価格を引き上げる。11月に中間選挙を控えるアメリカのトランプ大統領にとって、ガソリン価格の上昇は有権者の不満に直結する。また、湾岸アラブ諸国の天然ガスに依存するヨーロッパも停戦を求める国際世論を形成するであろう——その狙いがあるとみられる。

ロイター通信は今回のホルムズ海峡封鎖を「史上最大級の石油供給混乱」と位置づけており、世界のエネルギー供給に大きな混乱をもたらしていると報じている。湾岸産油国は代替パイプラインでの迂回輸送を急いでいるとも伝えられているが、全量をカバーできるわけではない。


アメリカとイスラエルは決定打を欠いているのか

では、攻撃を続けるアメリカとイスラエルの側は、どういう状況にあるのか。

トランプ大統領は連日、軍事作戦の「戦果」を強調しているが、ホルムズ海峡封鎖による原油高への警戒もにじむ。タンカー護衛をアメリカ海軍が担うと述べたかと思えば、日本・中国・韓国など原油輸入国に艦船派遣を求める発言をするなど、対応方針が揺れており、各国を困惑させている。イランへの攻撃をいつ収束させるかについても、発言が二転三転していると報じられている。

イスラエルのネタニヤフ首相は、長年「最大の脅威」と位置づけてきたイランのイスラム体制を弱体化させる「絶好のチャンス」と捉えており、国内世論もこれを支持しているという。ロイター通信は、イスラエル外相が「戦争には勝った」と語りながらも目標が未達であることを認め、作戦を継続する必要があると述べたと伝えている。攻撃継続を望みながら、決定的な勝利条件が描けていないのが現状とみられる。


戦争はいつ終わるのか

専門家の見方を総合すると、戦争は数か月単位で長期化するおそれがあり、現時点で収束の見通しは立っていないとされる。

イランのイスラム体制が、外国からの攻撃を受けても簡単には崩れそうにない点が主な理由の一つとして挙げられている。クルド人などの少数民族が独立を求めて蜂起する動きも今のところ見られないとされ、革命防衛隊を中心とする治安機関が、これまでどおりの弾圧能力を維持していると見られる。

一方、イスラエルとアメリカには迎撃ミサイルの不足という情報もある。イランは安価に大量生産できるドローンなどで持久戦を続けられる可能性があり、タンカーや石油施設への攻撃は「少ない回数でも心理的な効果が大きい」とも指摘されている。

トランプ大統領にとって中間選挙前の長期化は避けたいところで、一方的な「勝利宣言」という選択肢もあり得るが、イランへの無条件降伏要求を出した経緯もあり、当面その出口は遠のいたとの見方もある。

戦争が長引くほど、日本にとってこれは「遠い戦場」ではなくなる。ホルムズ海峡を通じる原油の90%以上を輸入する日本では、エネルギー価格の上昇が電気・ガス料金、物流コスト、食品価格へと波及し、家計と企業収益に直結する危機へと広がっていく。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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