中東戦争が日本に直撃——原油・ガス・物価への波及とホルムズ海峡問題

中東で続くアメリカ・イスラエルとイランの軍事衝突は、遠い地域の出来事ではない。イランがホルムズ海峡を封鎖し、原油や天然ガスの供給が滞り始めたことで、日本の家庭や企業の暮らしに、すでに影響が及び始めている。


目次

ホルムズ海峡が止まると何が起きるのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾と外洋を結ぶ細い海の通り道だ。幅は最も狭い部分で約55キロメートル。この海峡を、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールなど湾岸産油国のタンカーが毎日大量に通過し、世界の石油供給を支えている。

ロイター通信は今回のホルムズ海峡封鎖を「史上最大級の石油供給混乱」と位置づけており、世界のエネルギー供給に大きな混乱をもたらしていると報じている。湾岸産油国は迂回ルートとなる代替パイプラインでの輸送を急いでいるが、全量を補うことは難しい状況とされている。


日本はなぜ特に影響を受けやすいのか

日本は、原油の輸入の90%以上を中東に依存している。ホルムズ海峡が封鎖されれば、その多くが通れなくなる。

原油価格が上がると、まずガソリン・軽油の値段が上がる。次に、電気やガスの料金が上がる。さらに、工場の燃料費、物流コスト、農業の燃料費も上昇し、食品を含む幅広い物価に波及していく。「物価高」という言葉でまとめられがちだが、その根本には輸入エネルギー価格という一本の糸が通っている。

日本の経済研究機関では、原油急騰と供給減が長期化した場合、日本経済がマイナス成長に陥るリスクも指摘されているという。現時点では試算のレベルだが、戦争の長期化次第では現実の問題になりかねない。


天然ガス(LNG)も打撃を受ける

原油だけではない。日本は電力や都市ガスの原料となる液化天然ガス(LNG)の輸入においても、中東、特に湾岸産のカタール産LNGへの依存度が高い。

湾岸アラブ諸国の天然ガスは、欧州向けにも輸出されており、今回の封鎖は欧州のエネルギー事情にも影響を与えている。FT(フィナンシャル・タイムズ)は、オマーン産原油の急騰や代替調達をめぐる国際競争を伝えており、日本も例外ではない。


日米首脳会談でトランプ氏が「名指し」

戦況は外交にも直結している。アメリカのトランプ大統領は、ホルムズ海峡を通る原油輸入国に対し、タンカーを護衛する艦船の派遣を求める考えを示し、特に「日本・中国・韓国」を名指しした。

日本にとってこれは難しい注文だ。日本はエネルギー安全保障の観点からホルムズ海峡を守りたい立場にあるが、一方で、憲法の制約や国内世論への配慮から、軍事的な形での貢献には慎重にならざるを得ない。ロイター通信は、高市首相の訪米をめぐりホルムズ海峡への対応が日米首脳会談の最大の争点になっていると報じており、3月19日の首脳会談に向けて日本政府は対応を迫られている。


日本に何ができるのか

軍事的な直接関与が難しい日本に残されている選択肢は、大きく4つある。

一つ目は戦略石油備蓄の放出だ。日本は国家と民間合わせて約200日分の石油備蓄を持っており、供給が滞った際の緊急対応として活用できる。二つ目は調達先の多角化で、中東依存を下げるべく米国産やアフリカ産の原油・LNGの調達比率を高める動きが急がれる。三つ目は、イスラム革命後のイランとも比較的良好な関係を維持してきた日本が担える仲介・調停外交だ。四つ目は、有志国と連携した海上安全確保の国際協調への参加で、艦船の護衛や情報共有といった形での貢献が検討されうる。

ただし、備蓄放出には限界があり、仲介外交が実際にどこまで機能するかは情勢次第だ。いずれの手段も万全ではないが、日本が取りうる選択肢を組み合わせて対応していくことが、当面求められることになる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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