「NATOの支援は必要ない。日本、オーストラリア、韓国も同様だ。われわれは誰の助けも必要としていない!」
アメリカのトランプ大統領が3月17日、SNSと記者団への対応でこう述べた。イランでの軍事作戦について、NATO加盟国の多くから「関与したくない」との意向を伝えられたことへの反応だった。
一見すると「米軍は強く、一人でやり遂げられる」という自信表明のように聞こえる。しかしこの発言の裏側には、米国が同盟国を十分に動かせていないという現実が透けて見える。
「支援を求めていた」から「支援は不要」へ
このトランプ発言を理解するには、直前の流れを確認する必要がある。
トランプ大統領はこれまで、ホルムズ海峡の安全確保のために、日本・中国・韓国・フランス・イギリスなど複数の国に対して艦船の派遣を求める発言を繰り返してきた。「エネルギー輸送の恩恵を受けている国が応分の負担をすべき」という考え方だ。
ところが17日、NATO加盟国の多くから軍事関与を拒否されたことを自ら認め、方針転換ともとれる発言をした。ホワイトハウスで記者団に「支援はまったく必要ない」と述べたうえで、「NATOは極めて愚かな過ちを犯している」と強く批判した。
同盟国に「来てくれ」と呼びかけたが断られ、「ならば結構」と強気を見せた——そうした側面もうかがえる。
フランスとEUは「戦時下の参加は断る」と明言
最も明確に不参加を表明したのがフランスだ。マクロン大統領は17日、「フランスは紛争の当事国ではない」としたうえで、「この状況においてホルムズ海峡を自由に航行できるようにするための作戦には、決して参加しない」と述べた。
EUも軍事的拡大より外交的解決を優先する立場を維持しており、欧州全体としては「航行の自由には賛成だが、現在進行中の米国主導の対イラン軍事作戦には加わらない」という整理になっている。
これは「何もしない」というわけではない。フランスを含む欧州は、戦闘終結後に国際協調による航行安全確保の枠組みを模索する考えも示している。問題は「今この形では参加できない」ということだ。
その背景には、NATOの本来の役割がある。NATOは加盟国が攻撃を受けた場合の集団防衛のための機構であり、加盟国が独自に始めた戦争への自動参戦を義務づけるものではない。加盟国の多くは、今回のイランへの軍事作戦はNATOとして事前合意した行動ではないという認識を持っているとみられる。
日本も「名指し」されたが……
今回のトランプ発言で日本は名指しされた。だが日本も、軍事的な関与には踏み込んでいない。
高市首相は国会で、ホルムズ海峡への艦船派遣について「法律の範囲内で何ができるか検討している」と述べるにとどめている。日本は原油輸入の9割超を中東に依存しており、ホルムズ海峡の混乱は家計・物流・企業活動に直結する問題だ。しかし自衛隊の活動には憲法・安全保障法制上の制約があり、戦闘が続く海域での護衛任務は簡単には踏み込めない。
むしろ日本は、「エネルギー外交・経済安保」の面で米国との接点を広げる方向を探っている。アラスカ産原油の調達意向は、中東依存の分散という観点から検討が進んでいる。また、5500億ドル規模の日米投資枠組みも、エネルギーを含む幅広い協力の基盤として位置づけられている。
今回トランプ氏が「日本の助けも不要」と言ったことは、一見すると日本への圧力が下がったようにも見える。しかし裏返せば、米国が同盟国に対してどう向き合うかという基本姿勢が不安定になっているサインとも読める。
現地では攻撃が続いている
外交的な議論が続く一方で、現地では軍事衝突のエスカレートが続いている。
米中央軍(CENTCOM)は17日、ホルムズ海峡近くにあるイランのミサイル基地を攻撃したと発表した。地下深くまで貫通する特殊な大型爆弾を複数投下したとしており、「ホルムズ海峡を通過する各国の船舶の脅威になっていたミサイルを無力化した」と成果を強調している。
一方、イラン側でも重大な変化があった。イスラエルのカッツ国防相は17日、イランの国防・外交を統括する最高安全保障委員会のラリジャニ事務局長が殺害されたと発表した。
ラリジャニ氏は、ハメネイ師(前最高指導者)の側近で、現体制のなかでも比較的現実路線をとる人物として知られていたとされる。米紙ニューヨーク・タイムズは「彼の能力は戦闘終結後の合意形成に欠かせなかっただろう」と伝え、幹部殺害が続くなかでイランの体制がより強硬化する可能性を指摘している。
イランのペゼシュキアン大統領はラリジャニ氏の殺害を受け、「間違いなく厳しい報復が待ち受けている」と声明を出しており、攻撃の応酬がさらに続く懸念がある。
ウクライナが湾岸諸国に専門家を派遣
この状況のなかで、予想外の動きも出ている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、訪問先のイギリス議会での演説で、無人機対策の専門家およそ200人をUAE・カタール・サウジアラビア・クウェートに派遣したと明かした。また、1日あたり2000機を製造できる迎撃用無人機のうち、1000機を各国に供与する用意があるとも述べた。
ウクライナはロシアからのイラン製無人機「シャヘド」の攻撃を受け続け、無人機迎撃の実戦経験を積んできた。その知見を湾岸諸国への支援に活用しようという狙いがある。同時に、湾岸諸国から防空システムなどの協力を得たいという思惑もあるとみられる。
「早期終結」への期待と「長期化」の現実
トランプ大統領は17日、軍事作戦について「近い将来には去るつもりだ。非常に近い将来だ」と早期終結を示唆した。ホルムズ海峡についても「機雷を敷設していた小型船はすべて破壊した。それほど長くはかからないと思う」と述べた。
ただし、現実はそれほど単純ではない可能性がある。イラン側は徹底抗戦の構えを崩しておらず、幹部の相次ぐ殺害が体制の強硬化につながる可能性も指摘されている。軍事的な成果があっても、政治的な収拾がつかなければ「終わった」とはならない。
また、中国の習近平国家主席との首脳会談については、当初予定から延期されており、約5〜6週間後に行われる見通しとトランプ大統領が述べた。中東情勢の長期化が米外交の全体スケジュールにも影響を及ぼしている。
まとめ——「不要」発言が示す同盟の現実
「支援は必要ない」というトランプ大統領の言葉は、強さの表れでもあるが、同時に米国が単独行動に傾いていることを示してもいる。
NATO・欧州は軍事参加を明確に拒否し、日本も直接関与を避けている。イランでの攻撃は続き、報復リスクは高まっている。ホルムズ海峡の問題がいつ、どのような形で落ち着くかは、現時点では見通せない状況だ。
日本にとってこの状況は、エネルギー安全保障の問題であると同時に、日米同盟の今後を問う場面でもある。「助けは不要」と言われた今、日本がどのような形で米国との協力余地を見いだすかが問われている。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

