スマートフォン、電気自動車、半導体——現代の産業を支えるこれらの製品には、ある共通点がある。「重要鉱物」と呼ばれる資源なしには作れない、という事実だ。
そして今、その重要鉱物をめぐる日本と米国の動きが加速している。3月19日(現地時間)に予定されている日米首脳会談に合わせ、日米両政府が供給網の強化に向けた新たな行動計画を策定する方向で調整を進めていることが分かった。首脳会談で正式に確認されれば、重要鉱物をめぐる日米の連携は新たな段階に入る。
「重要鉱物」とは何か
まず、重要鉱物という言葉を整理しておこう。
重要鉱物とは、産業上不可欠でありながら、供給が途絶えるリスクが高い鉱物を指す。代表例は、レアアース(希少元素)、リチウム、コバルト、ニッケル、銅などだ。
これらは私たちの生活に深く関わっている。スマートフォンのモーターや振動機能にはレアアースが使われ、EVのバッテリーにはリチウムとコバルトが欠かせない。風力発電の磁石にも、防衛・軍事用のミサイルやレーダーにも、広くレアアースが組み込まれている。
つまり、重要鉱物の供給が止まれば、現代の産業はたちまち立ち行かなくなる。それがこの問題の本質だ。
中国はなぜ「問題」になっているのか
重要鉱物をめぐる議論で繰り返し名前が挙がるのが、中国だ。
中国は世界最大級の重要鉱物の生産・精製国であり、特にレアアースの精製・加工においては圧倒的なシェアを持つ。「鉱山を持っていても、精製は中国頼み」という構造が、多くの国で現実となっている。
日本や米国は、中国の輸出管理強化を経済安全保障上のリスクとして警戒している。実際、中国はレアアースや重要鉱物の輸出管理を段階的に強めており、非中国圏の供給網に影響を与えている。
米国はこの構造を国家安全保障上の脅威と明確に位置づけ、2026年1月には同盟国との協定交渉や、後述する「最低価格制度」の導入検討を進めるよう正式に指示した。
日米が調整中の行動計画、その中身は
こうした背景を踏まえ、日米が策定に向けて調整している行動計画には、報道ベースで大きく4つの柱が挙げられている。
1. 採掘・加工プロジェクトへの優先支援
日米両国が関心を持つ採掘や加工に関わるプロジェクトに、資金を優先的に支援する仕組みを整える。ロイター通信は、対象鉱物としてレアアース、リチウム、銅を挙げている。
2. 資源の位置情報の共有
重要鉱物が潜在的に存在する場所の地理情報を日米間で共有することも盛り込まれる見通しだ。早期に有望な鉱床を把握し、開発に向けた準備を進めることが目的とみられる。
3. 「最低価格制度」の検討
計画の中でも特に注目されるのが、最低価格制度(価格フロア)の仕組みづくりだ。
これは、ざっくり言えば「安すぎる輸入品で市場が壊れないようにする仕組み」だ。中国が低価格で重要鉱物を市場に流すと、非中国圏の採掘・精製事業は採算が合わなくなり、投資が集まらなくなる。最低価格制度は、一定の価格水準を下回らないよう支える考え方で、自由な価格競争よりも「供給網の持続可能性」を優先する発想だ。
米国では2026年1月のホワイトハウス文書でこの考え方が示され、USTRも2月末に意見公募を始めている。したがって、今回の日米計画への盛り込みは政策的な流れに沿ったものではあるが、現時点では制度設計の具体像は確定していない段階とみるのが妥当だ。
4. 米国内の開発プロジェクトへの日本企業参画
米国内でも重要鉱物の開発が進みつつある。計画では、インディアナ州でのレアアース精製やノースカロライナ州でのリチウム鉱山開発といったプロジェクトに、日本企業が参画することを確認する方向だという。ロイター通信は、三井物産と三菱マテリアルの参画が想定されていると報じている。
日本独自の視点——南鳥島の「海底資源」
今回の計画では、日本にとって特有の論点もある。南鳥島(みなみとりしま)周辺の海底レアアース資源をめぐる協力だ。
南鳥島は日本最東端の島で、その周辺海底には「レアアース泥」と呼ばれる堆積物が豊富に存在するとされる。日本はすでにこの海域での探査や試掘を進めており、経産省も将来の供給源として期待を示してきた。
今回の行動計画には、この海洋鉱物資源の開発に向けて日米間でワーキンググループを設置するための文書を交わす方向が盛り込まれているという。ただし、この文書も含め、首脳会談での正式発表を経て初めて確定する案件と理解しておくのが正確だ。
もし海底採掘技術とコストの課題が解決されれば、南鳥島は日本が「資源小国」の立場を一部変えられる可能性を秘めたテーマでもある。
市場はすでに動き始めている
この動きは、外交・政策の話だけに留まらない。
ロイター日本語版は、今回の日米行動計画に関する報道を受けて、東洋エンジニアリング(6330)や第一稀元素化学工業(4082)など、レアアース関連とみなされる株式銘柄に投資家の関心が向かったと伝えている。市場は、今回の話を単なる外交ニュースではなく、実際のビジネスチャンスと安全保障投資テーマとして受け止め始めている。
まとめ——「中国依存からの脱却」は本当に進むか
今回の日米行動計画が正式に合意されれば、重要鉱物をめぐる供給網の組み替えが一歩前進することになる。
ただし、道のりは長い。中国が圧倒的なシェアを持つ精製・加工分野で対抗できる体制を築くには、採掘から精製、輸送に至るまでの供給網全体への投資と時間が必要だ。最低価格制度も南鳥島の海底採掘も、現時点では「構想・検討段階」の域を出ていない部分が多い。
それでも、日米がこれだけ具体的な行動計画に踏み込もうとしていること自体、経済安全保障の観点での変化を示している。日米は単に資源を確保するだけでなく、中国主導の価格形成そのものからも距離を置こうとしている。「重要鉱物」という言葉が外交の舞台に並ぶ時代、私たちの生活を支えるモノづくりの土台が静かに組み替えられようとしている。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

