賠償責任保険とは?日常生活と事業活動で違う備えを整理

自分の家が燃えたわけでも、自分がケガをしたわけでもない。それでも、他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりすれば、大きな支払いが必要になることがある。

賠償責任保険は、こうした「他人への損害」に備える保険である。火災保険や傷害保険が自分側の損害に備える保険だとすれば、賠償責任保険は、他人に与えた損害について法律上の責任を負った場合に備える保険だ。

この記事では、自動車事故の対人・対物賠償を深掘りするのではなく、日常生活や事業活動の中で起きる賠償責任を中心に整理する。日常生活では、自転車で歩行者にぶつかってケガをさせた、子どもが店の商品を壊した、飼い犬が他人に噛みついたといった場面が考えられる。事業活動では、販売した製品の欠陥で利用者に損害を与えた、店舗の管理不備で来店客が転倒した、工事中に第三者の物を壊したといった場面がある。

同じ「賠償責任」でも、個人の日常生活で起きた事故なのか、事業活動の中で起きた事故なのかによって、備える保険は変わる。ここを分けて考えると、賠償責任保険の全体像はかなり見えやすくなる。

目次

何に対して支払う責任なのか

賠償責任保険でまず押さえたいのは、「法律上の損害賠償責任」という考え方である。

単に迷惑をかけた、申し訳ない気持ちがある、道義的に支払いたいというだけでは、保険の対象になるとは限らない。保険で問題になるのは、法律上、相手に対して損害を賠償する責任を負う場合である。

たとえば、他人にケガをさせた場合には、治療費、通院費、休業損害、慰謝料などが問題になることがある。他人の物を壊した場合には、修理費や再購入費用が問題になる。事故の内容によっては、訴訟費用や弁護士費用などが関係することもある。

ただし、どこまで補償されるかは契約内容によって異なる。補償される費用、保険金額の上限、示談交渉サービスの有無などは、加入している保険や特約の内容を確認する必要がある。

個人の日常生活と事業活動では何が違うのか

賠償責任保険は、大きく分けると個人向けと事業者向けに整理できる。

個人向けの代表が、個人賠償責任保険である。これは、日常生活の偶然な事故で他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりして、法律上の損害賠償責任を負った場合に備える保険である。

一方、事業者向けには、事業活動に伴う賠償責任に備える保険がある。代表的なものとして、PL保険、施設所有管理者賠償責任保険、請負業者賠償責任保険、受託者賠償責任保険などがある。

大切なのは、「誰が、どの場面で、何を原因として損害を与えたのか」を分けて見ることだ。家族の日常生活で起きた事故と、店舗や工事現場で起きた事故では、同じ賠償責任でも必要な備えが異なる。

個人賠償責任保険はどんな事故に備えるのか

個人賠償責任保険は、日常生活で起きる偶然な事故を主な対象とする保険である。

身近な例としては、自転車で歩行者にぶつかってケガをさせた場合がある。自転車事故では、相手の治療費や慰謝料などが問題になることがあり、事故の内容によっては賠償額が大きくなる可能性もある。

子どもの事故にも関係する。子どもが友人宅の物を壊した、店の商品を壊した、遊んでいる最中に他人にケガをさせたといった場合、親が賠償責任を問われることがある。

そのほか、飼い犬が他人に噛みついた場合、ベランダから物を落として通行人にケガをさせた場合、買い物中に商品を壊した場合なども、個人賠償責任保険が関係することがある。

個人賠償責任保険は、単独で加入するよりも、火災保険、自動車保険、傷害保険などの特約として付けられることが多い。すでに加入している保険に特約として含まれている場合もあるため、まずは現在の契約を確認したい。

家族の事故も対象になるのか

個人賠償責任保険は、1つの契約で家族全員が補償対象になることが多い。

一般的には、本人、配偶者、本人または配偶者と生計を一にする同居親族、本人または配偶者と生計を一にする別居の未婚の子などが対象になることがある。

たとえば、親が加入している個人賠償責任保険で、同居している子どもの事故が補償対象になる場合がある。進学などで別居している未婚の子どもについても、生計を一にしていれば対象になることがある。

ただし、家族の範囲は契約内容によって異なる。別居している家族、既婚の子ども、同居している親族などが対象になるかどうかは、実際の契約で確認する必要がある。

個人賠償責任保険は、比較的広い範囲の事故に備えられることが多い保険だが、誰まで対象になるのかを確認しないままでは、必要なときに使えない可能性がある。

便利な保険でも対象外になりやすいものがある

個人賠償責任保険は、日常生活の賠償責任に備えるうえで便利な保険である。ただし、すべての賠償責任を補償するわけではない。

まず、業務中の事故は対象外になりやすい。個人賠償責任保険は、基本的に日常生活上の事故を対象にする保険である。仕事中や事業活動中に発生した賠償責任は、事業者向けの保険で考える必要がある。

次に、自動車やバイクによる事故も、個人賠償責任保険の対象外となるのが一般的である。自動車事故による対人・対物賠償は、自動車保険で備える分野である。

また、借りた物や預かった物を壊した場合も、対象外になりやすい。友人から借りたカメラを落として壊した、レンタル品を破損した、預かった荷物を紛失したといったケースでは、個人賠償責任保険で補償されないことがある。

さらに、同居家族に対する賠償責任、故意による事故、契約上の責任だけに基づく賠償なども対象外になりやすい。

つまり、個人賠償責任保険は「日常生活の偶然な事故」を主な対象とする保険であって、仕事中の事故、自動車事故、借りた物や預かった物への損害まで広く引き受ける保険ではない。対象外となる事故は契約によって異なるため、気になる場面がある場合は約款や保険会社の説明を確認する必要がある。

事業者向けはリスクの種類ごとに分かれる

事業活動では、個人の日常生活よりも大きな賠償責任が発生することがある。

商品を製造・販売する、飲食物を提供する、店舗を運営する、工事や清掃を請け負う、他人の物を預かる。このような場面では、それぞれ異なる賠償リスクがある。

そのため、事業者向けの賠償責任保険は、事業内容や事故の原因に応じて分かれている。代表的なものが、PL保険、施設所有管理者賠償責任保険、請負業者賠償責任保険、受託者賠償責任保険である。

名前だけを見ると似ているが、何を原因とする事故に備えるのかは異なる。ここからは、事例で分けて見ていく。

商品や飲食物が原因ならPL保険が関係する

PL保険は、生産物賠償責任保険とも呼ばれる。PLはProduct Liabilityの略で、日本語では製造物責任と訳される。

製造・販売した製品や、提供した飲食物などが原因で他人に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に備える保険である。

たとえば、販売した食品で食中毒が発生した場合、製造した家電製品の欠陥で火災が起きた場合、販売した商品に欠陥があり利用者がケガをした場合などが考えられる。

PL保険は、商品やサービスを提供した後に、その製品や飲食物が原因で発生した事故に備える保険と考えると分かりやすい。飲食店、食品製造業、メーカー、販売業など、製品や飲食物を扱う事業者に関係しやすい。

店舗や施設の管理が原因なら何を見るのか

施設所有管理者賠償責任保険は、施設の管理不備や、施設内外での業務遂行によって他人に損害を与えた場合に備える保険である。

店舗、事務所、工場、倉庫、ビル、駐車場などを所有・管理している事業者では、施設の状態そのものが事故につながることがある。

たとえば、店舗の床が濡れていて来店客が転倒した場合、看板が落下して通行人にケガをさせた場合、店内に積んでいた商品が崩れて客にケガをさせた場合、施設の設備不備が原因で事故が起きた場合などである。

施設所有管理者賠償責任保険は、施設そのものの安全管理や、施設を使った業務中の事故に備える保険である。来客や第三者が出入りする事業では、確認対象になりやすい保険の一つだ。

工事や作業中の事故はどこで考えるのか

請負業者賠償責任保険は、工事や作業などの請負業務を行う中で、第三者に損害を与えた場合に備える保険である。

建設工事、内装工事、設備工事、清掃作業、造園作業などでは、作業中に第三者の身体や物に損害を与える可能性がある。

たとえば、工事中に隣家の塀を壊した場合、清掃作業中に通行人にケガをさせた場合、クレーンや重機の操作中に第三者の物を壊した場合、内装工事中に建物内の設備を損傷させた場合などが考えられる。

ここで注意したいのは、作業対象そのものの損害と、第三者への損害を分けて考える必要がある点である。何が補償対象になるかは契約内容によって異なるため、請け負う業務の内容に合わせた確認が欠かせない。

預かった物を壊した場合は別に考える

受託者賠償責任保険は、他人から預かった物を壊したり、紛失したり、盗難にあったりした場合の賠償責任に備える保険である。

事業では、顧客や取引先から物を預かる場面がある。預かった物を適切に管理できず、損害を与えた場合、事業者が賠償責任を負うことがある。

たとえば、クリーニング店が預かった衣類を紛失した場合、修理業者が預かった機械を壊した場合、ホテルが宿泊客から預かった荷物を紛失した場合、倉庫業者が預かった商品を破損した場合などである。

個人賠償責任保険では、借りた物や預かった物への損害は対象外になりやすい。一方で、事業者向けには、預かった物に関する賠償責任に備える専用の保険がある。

受託者賠償責任保険は、「他人の物を預かる仕事」に関係する保険と整理すると分かりやすい。

加入前にどこを確認すればよいのか

賠償責任保険を考えるときは、まず事故の場面を整理する必要がある。

個人の日常生活の事故なのか、事業活動中の事故なのか。他人にケガをさせたのか、他人の物を壊したのか。借りた物や預かった物への損害なのか。自動車やバイクによる事故ではないか。業務中の事故ではないか。

同じ「物を壊した」事故でも、買い物中に店の商品を壊した場合と、友人から借りた物を壊した場合では、保険上の扱いが異なることがある。

個人の場合は、火災保険や自動車保険などの特約で、すでに個人賠償責任保険が付いていないかも確認したい。複数の保険に特約として重複して付いている場合もある一方、必要な補償が抜けている場合もある。

補償限度額も重要である。賠償責任は、事故の内容によって高額になることがある。特に自転車事故や事業活動中の事故では、治療費、休業損害、慰謝料などが積み上がる可能性があるため、補償額が十分かどうかを見ておきたい。

保険会社や契約内容によって、補償範囲、対象外となる事故、保険金額、付帯サービスは異なる。名称だけで判断せず、実際の契約内容を確認することが大切である。

賠償責任保険は「相手への責任」から考える

賠償責任保険は、他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりして、法律上の損害賠償責任を負った場合に備える保険である。

個人向けでは、個人賠償責任保険が代表的である。自転車事故、子どもの事故、ペットによる事故、日常生活の物損事故などに備えられる。1つの契約で家族全員が対象になりやすい点も特徴である。

ただし、業務中の事故、自動車やバイクによる事故、借りた物や預かった物への損害などは対象外になりやすい。便利な保険ではあるが、万能ではない。

事業者向けには、事業内容に応じた賠償責任保険がある。製品や飲食物による損害に備えるPL保険、施設管理の不備による事故に備える施設所有管理者賠償責任保険、工事や作業中の事故に備える請負業者賠償責任保険、預かった物の損害に備える受託者賠償責任保険などである。

賠償責任保険を選ぶときは、「どの保険が有名か」よりも、「誰に対して、どの場面の責任に備えるのか」を見る必要がある。自分の損害ではなく、相手への責任から考えることが、この保険を理解する出発点になる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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