2025年度(2025年4月〜2026年3月)に日本企業が関わったM&A件数は5228件となり、過去最多を更新した。取引総額も43兆円を超え、高水準となった。日本企業の再編が一段と活発になっている背景には、海外成長の取り込み、東京市場の改革、事業ポートフォリオの見直しが重なっている。
まず押さえたいのは「件数」と「金額」は別の指標だということ

M&AはMerger and Acquisitionの略で、合併や買収だけでなく、事業売却や子会社化、非上場化などを含む広い企業再編の動きを指すことが多い。今回の5228件、43兆円という数字も、レコフ集計の年度ベースの統計として読む必要がある。
件数の増加は案件数そのものの広がりを示し、金額の増加は大型案件の影響を強く受ける。2025年度はこの両方が伸びたが、それをそのまま「市場全体が一様に活況だった」と言い切るのは早い。総額には大型の非上場化案件や子会社再編案件が押し上げた面もあるからだ。
同じレコフ系列のMARR Onlineが公表した暦年ベースでは、2025年1〜12月の日本企業M&A件数は5115件、金額は35.7兆円だった。年度ベースと暦年ベースでは集計期間が異なるため、ニュースごとの数字を横並びで比較するときは、どの期間の統計かを見分ける必要がある。
背景にあるのは海外成長の取り込みだ
日本企業のM&Aが増えている理由の一つは、国内市場だけでは成長余地が限られる中で、海外の資源、インフラ、技術、市場を取り込もうとする動きが強まっていることだ。
その象徴の一つが、三菱商事(8058)による米Aethon関連資産の取得だ。天然ガス事業を含む大型案件であり、日本企業が北米のエネルギー資産に大きく踏み込む流れを示した。2025年上半期の日本関連M&A総額が2320億ドルに達し、アジア全体のM&A回復をけん引したとのロイター報道も、こうした対外投資の厚みを裏づけている。
ここで重要なのは、日本企業のM&A増加が国内の事情だけで完結していないことだ。成長の取り込み先が海外へ広がるほど、案件の大型化も起きやすくなる。
東京市場の改革が再編圧力を強めている
もう一つの大きな要因は、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」の要請だ。2023年以降、上場企業は資本効率や企業価値向上の説明をこれまで以上に求められている。これにより、配当や自社株買いだけでなく、事業の切り出し、子会社再編、非上場化まで含めた経営資源の再配分が現実のテーマになった。
この流れの中では、親子上場の見直しや、投資ファンドを交えた非上場化、グループ再編が増えやすい。M&A件数の増加は、単に「企業が強気だから買う」という話だけではなく、資本市場からの要請に応じて「持ち方を変える」「残す事業と切り離す事業を選ぶ」動きが広がっている結果でもある。
市場改革は、M&Aを成長投資の道具に変えるだけでなく、経営の説明責任を問う装置にもなっている。件数の多さだけを見るより、どの企業が何を残し、何を手放したのかを見る方が実態に近い。
AI時代は「買う」と「切り離す」を同時に促す
AIの普及は、この再編圧力をさらに強めている。企業は新しい技術を内製で育てるだけでなく、必要な機能や人材を外から取り込む手段としてM&Aを使う。一方で、将来性の薄い事業や本業との相乗効果が弱い資産は切り離しやすくなる。
このため、足元のM&Aは「買収が増えている」というより、「事業ポートフォリオ全体の組み替えが進んでいる」と捉える方が実態に近い。買う案件と売る案件、上場を続ける判断と非上場化の判断が、同じ経営課題の中で並行して動いている。
AIは単独でM&Aブームを生んだ要因ではないが、経営陣に再編の判断を急がせる圧力として作用している。技術変化の速度が上がるほど、時間を買うためのM&Aと、選択と集中のための事業売却は増えやすい。
問われるのは件数ではなく再編の質だ
M&A件数が過去最多になったこと自体は、日本企業が動き始めたサインとして重要だ。ただし、それだけで企業価値向上が約束されるわけではない。高値づかみ、統合失敗、短期的な株価対策に終わる再編は、むしろ企業の体力を削る。
これからの論点は、M&Aが何件あったかではなく、その再編がどんな成長戦略や資本効率の改善につながるのかにある。2025年度の記録更新は、日本企業がようやく大きく動き始めたことを示す数字であり、同時に「何のための再編か」がこれまで以上に厳しく問われる局面の始まりでもある。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

