イラン輸出の生命線カーグ島に米軍攻撃 石油施設温存が示す次の焦点

2026年3月13日、アメリカ軍がイランのカーグ島にある軍事施設を攻撃した。トランプ大統領はSNSに映像を投稿し、「中東の歴史上、最も強力な空爆のひとつ」と自賛した。

ただ、今回のニュースの本当の意味は、「攻撃した」ことよりも、「何を攻撃しなかったか」にある。


目次

カーグ島とは──イランの「外貨収入の心臓部」

カーグ島は、イラン本土の沖合およそ30キロのペルシャ湾に浮かぶ小島だ。島にはイランの原油輸出のおよそ9割を処理する世界最大級の積み出し港があり、イラン各地の油田とパイプラインで直結している。1日の最大輸出能力は400万バレル。

イランにとってここは、「港」というより「外貨を稼ぐための動脈」そのものだ。ここが止まれば、国の収入源が断たれる。

実際、米軍とイスラエルによる軍事作戦が始まった後も、カーグ島は稼働を続けていた。ロイター通信の分析によれば、作戦開始から3月11日までの間、カーグ島は1日110万〜150万バレルの輸出を維持し、アメリカの経済チャンネルCNBCは、その間の総輸出量1170万バレルがすべて中国に向かったと伝えている。戦時下においてもなお、この島は機能し続けていた。


攻撃したのは「軍事施設だけ」──なぜ石油ターミナルは手をつけなかったのか

今回の攻撃でアメリカ軍が標的にしたのは、カーグ島の防衛設備・海軍基地・空港の管制塔・ヘリコプター格納庫といった軍事関連施設だった。イランのメディアも「石油関連施設に被害はなかった」と伝えており、いまのところ石油ターミナル本体は無傷だ。

なぜ温存したのか。

石油施設を破壊すれば世界市場への打撃を避けられないという計算が働いていたとみられる。カーグ島の機能が止まれば、日量200万バレル規模の供給が失われる可能性がある。それはイランへの最大圧力になる反面、日本をはじめとするアジア諸国を含む原油消費国すべてを直撃する。アメリカ自身も、同盟国への経済的打撃は避けたい事情がある。

トランプ政権は、軍事施設への攻撃と「次は石油施設もある」というメッセージを組み合わせた。石油インフラそのものへの攻撃は見送られたが、次の段階を示唆する圧力として受け止められる。


ホルムズ海峡という「世界の咽喉部」

この問題を理解するうえで欠かせないのが、ホルムズ海峡の存在だ。

ペルシャ湾と外洋を結ぶこの極めて狭い海峡は、世界の海上石油貿易の4分の1以上が通過する要衝だ。湾岸産油国から出荷される原油やLNG(液化天然ガス)のほとんどはここを通る。日本が輸入する原油の約9割も、このルートに依存している。

革命防衛隊の幹部は「海峡はイラン側の管理下にある」と公言しており、自由な航行が大きく損なわれている状況が続いている。この状況に対し、トランプ大統領はアメリカ海軍による船舶護衛を「すぐに実現する」と明言した。

双方がにらみ合うこの海峡は、いまや世界のエネルギー安全保障の最前線になっている。


イランの反撃と広がる戦線

カーグ島攻撃を受けて、イランは強い警告を発した。

「イランの石油関連施設やエネルギー施設への攻撃は、アメリカと協力する企業が保有するエネルギー施設への攻撃につながる」──イランは報復対象をエネルギー分野へ広げる構えをにじませた。

同時に、革命防衛隊は13日だけでもアメリカとイスラエルの標的に対し40回以上の攻撃を実施したと発表。さらに、バグダッドにあるアメリカ大使館がミサイル攻撃を受け、建物から煙が立ちのぼったと伝えられた。

アメリカ側も増強を進める。長崎・佐世保基地の強襲揚陸艦「トリポリ」が中東へ派遣され、沖縄に駐留する海兵隊の第31海兵遠征部隊も中東への派遣命令を受けた。ヘグセス国防長官はこの日の会見で、「本日もまた、テヘラン上空でのアメリカの攻撃は過去最大のものになる」と述べた。


すでに欧州まで波及──ドイツでは軽油が20%値上がり

この紛争の影響はすでに遠くヨーロッパにも及んでいる。

ドイツでは1週間余りで軽油がおよそ20%値上がりした。首都ベルリン近郊の運送会社では、25台のトラックの燃料費が1か月で200万円以上増える見通しだ。「中小企業が圧倒的に多い私たちの業界は、倒産の脅威に直面している」と現地の経営者は語る。

ドイツでは貨物輸送の85%をトラックが担っており、燃料高が続けばサプライチェーン全体に深刻な影響が出るおそれがある。

日本では現時点で直接的な供給不足の報道はないが、原油の輸入コストは上昇しており、ガソリン代や物価への影響が出始めている。エネルギー安全保障の観点から、中東情勢は決して「遠い戦争」ではない。


「まだ石油は壊していない」という圧力の正体

今回の局面を整理するとこうなる。

アメリカのメッセージは「まだ石油施設は壊していない。だが次はある」という強圧的な抑止だ。イランのメッセージは「エネルギー施設をやれば中東全域の米関連施設へ報復する」という相互威嚇。そして国際社会のメディアや市場が出している見方は「最悪シナリオは回避されているが、一段近づいた」というものだ。

トランプ大統領はFOXラジオで「終わるまでに長くはかからないと思う」と語った一方で、「来週にかけて非常に大きな打撃を与える」とも述べた。作戦開始から2週間が経過したいまも、収束の見通しは立っていない。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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