PBR(Price Book-value Ratio)/株価純資産倍率とは、企業の1株あたり純資産(BPS)に対して株価が何倍かを示す指標で、企業の「解散価値」に対する株価水準を測るものです。
PBRは、企業が清算された場合の簿価(帳簿上の資産価値)を基準に、現在の株価が割高か割安かを評価するため、PER(株価収益率)と並ぶ重要なバリュエーション指標です。
目次
PBRの計算方法
PBR = 株価 ÷ BPS(1株あたり純資産)
例:
株価が2,000円でBPSが1,000円の場合 → PBRは2倍
つまり、企業の純資産の2倍の価格で株が取引されているという意味です。
日本株におけるPBRの目安【2025年版】
PBRの範囲 | 解釈の目安 |
---|---|
~1.0倍 | 解散価値を下回っている。割安と評価される場合がある |
1.0~2.0倍 | 標準的な水準。成長期待や資本効率により変動 |
2.0倍以上 | 成長性やブランド価値が評価されている可能性が高い |
🔍 2023年時点の参考値:東証プライム市場の平均PBRは約1.2倍(出典:JPX資料)
業種別のPBR傾向と実例【2025年時点】
業種 | 一般的なPBR | 代表例(2025年時点) |
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銀行・金融 | 0.5〜1.0倍 | 三菱UFJ:約0.8倍 |
製造業 | 0.8〜1.5倍 | トヨタ:約1.1倍 |
小売・消費 | 1.0〜2.5倍 | ユニクロ(ファーストリテ):約5.0倍 |
テクノロジー | 2.0倍以上 | キーエンス:約6.0倍 |
グローバル比較:PBRの国際水準
地域・指数 | 平均PBR(目安) | 特徴 |
---|---|---|
日本(TOPIX) | 約1.0〜1.3倍 | 解散価値に近い評価が多い |
米国(S&P500) | 約3.5〜4.0倍 | 成長性・ブランド価値が高評価される |
欧州(STOXX600) | 約1.7〜2.2倍 | 景気連動型企業が多くやや低め |
PBRの限界と注意点
- 無形資産を反映しない
例:ユニクロのブランド価値、製薬会社の特許、コンサル企業の人的資本などは簿価に含まれない - 赤字企業でも計算可能:利益に依存しないため、PERと違って赤字企業にも適用できる
- 簿価の信頼性問題:古い資産の簿価が実態を反映していない場合も
- 資本効率を反映しない:ROEの低い企業でも高PBRになる場合あり
PBRとROEの関係性【資本効率の視点】
PBRはROE(自己資本利益率)と密接に関係しています。
PBR ≒ ROE × PER(簡易的な関係)
状況 | 解釈 |
---|---|
PBRが低くROEも低い | 市場からの期待が低い。改善余地も低い可能性 |
PBRが低くROEが高い | 割安放置の可能性。投資機会として注目されやすい |
PBRが高くROEも高い | 資本効率が良く、成長性も評価されている |
PBRが高くROEが低い | 割高で非効率な経営の可能性あり |
投資戦略とPBRの活用
割安株戦略(バリュー投資)
- 条件例:PBR1倍未満かつROE10%以上 → 割安だが効率的な企業
- 実例:2024年以降、日本の機関投資家もこの条件でスクリーニングを強化中
アクティビスト戦略
- 対象:長年PBRが1倍を下回る企業
- 改善要求例:自社株買い・配当増・資産売却・事業再編など
- 成功例:大手総合商社・一部不動産企業などが改善でPBR1倍超へ
日本市場の背景:PBR1倍割れ問題
2023年、東京証券取引所はPBR1倍割れの企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現」を要請。背景には次のような問題があります:
- 低ROE体質:利益率・効率性が低い企業が多い
- 株主還元の弱さ:配当や自社株買いが限定的
- 過剰な現金保有・資産活用不足
改善策の開示が義務ではないが、投資家からの監視が強化され、企業の対応姿勢が株価に影響を与える時代になっています。
マクロ経済との連動性
マクロ環境 | PBRへの影響 |
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金利上昇 | 将来利益の割引率上昇 → 評価圧縮(PBR下落) |
景気回復局面 | 成長期待が高まりPBRが上昇しやすい |
インフレ抑制策強化 | 評価指標全体が圧縮される傾向あり |
歴史的背景と事例
- ベンジャミン・グレアム:PBRを活用した割安株投資を提唱(通称:ネットネット株)
- リーマンショック後(2009年):金融株のPBR0.3倍台に注目が集まり、回復局面で大きなリターン
ESG投資とPBR
近年、ガバナンス(G)重視のESG投資の観点から、PBR1倍割れ企業はガバナンス改善のターゲットとされることが増えています。経営陣の資本効率改善努力が注目されやすい局面です。
PBRとPERの違い【比較表】
項目 | PER(株価収益率) | PBR(株価純資産倍率) |
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分母 | EPS(1株あたり利益) | BPS(1株あたり純資産) |
赤字企業 | 利用不可 | 利用可能 |
目的 | 収益性・利益評価 | 資産評価・解散価値の視点 |
主な指標 | 成長性や業績の割高・割安 | 簿価に対する割高・割安 |
限界 | 業績変動に影響されやすい | 無形資産を評価しない |