ホルムズ回避ルートで中東産原油が日本初到着──「物流の実証」と「安定供給」はまだ別の話

愛媛県今治市の沖合に、サウジアラビア産の原油約10万キロリットルを積んだタンカーが到着した。アメリカとイスラエルがイランへの軍事作戦を開始してから、中東を出発した原油が日本に届いたのは、これが初めてとみられる。

ただし、この到着が意味するのは「原油が手に入った」という安心材料だけではない。より重要なのは、ホルムズ海峡を使わない物流経路が、少なくとも1便は実際に動いたという事実の方だ。

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今回の輸送ルート——どこをどう通ったのか

従来、サウジアラビアからの原油はペルシャ湾側の港からタンカーで積み出し、ホルムズ海峡を通ってアジアへ向かうのが主な経路だった。しかし今回はまったく異なるルートを通っている。

原油は3月1日、サウジアラビアの西海岸——紅海に面したヤンブー港——で積み込まれた。ペルシャ湾岸からではなく、紅海側に出るため、ホルムズ海峡を通る必要がない。このタンカーは紅海を経て東南アジアのマレーシアへ向かい、そこで別のタンカーに積み替えたうえで日本まで運ばれてきた。

ヤンブーはサウジアラビアが長年にわたって整備してきた西岸の輸出港だ。Saudi Aramcoは、ペルシャ湾岸の東部から国内を横断する「東西パイプライン」でヤンブーへ原油を送ることができる。このパイプラインは通常で日量500万バレル規模の輸送能力を持ち、過去には700万バレル規模まで一時的に拡張された実績があると伝えられている。2018年には西岸の輸出能力をさらに増強するターミナルも稼働させた。

つまり今回の迂回は、危機が起きてから急ごしらえした「抜け道」ではなく、サウジが平時から整備してきた危機対応インフラが実際に機能したことを示したといえる。

なぜマレーシアで積み替えたのか

輸送経路のなかで気になるのが、マレーシアでの積み替えだ。「ヤンブーから直接日本へ持ってこればいいのでは」と思うかもしれないが、そうはいかない事情がある。

船腹(使える船)の確保状況、船の喫水や荷役効率の問題、保険の適用条件、アジア向け配船スケジュールの組み替えなど、複数の要因が絡み合う。今回の輸送は、こうした制約を1つひとつクリアしながら組み上げた「危機対応ロジスティクス」と見るべきものだ。

「実証できた」と「十分に代替できる」は全く別

今回のルートが動いたことは確かだが、「ホルムズがなくても大丈夫」を意味するわけではない。

ヤンブー経由には、いくつかの制約が指摘されている。まずパイプライン容量には上限があり、サウジが輸出する原油の全量をこのルートに切り替えることはできない。さらにヤンブー港の積み出し能力にも限界がある。Aramcoが3月上旬からホルムズを避けてヤンブーへ原油を振り向け始めたとされるが、当初から「必要だが容量の制約が大きい」との指摘が海外報道では相次いでいた。

日本が必要とする原油の量に対して、このルートがどこまで継続的に対応できるかは、まだ見えていない。

新たなリスク——紅海も「安全な海」とは言い切れない

ホルムズを避けて紅海経由にすれば安心かというと、そうとも言えない状況が生まれている。

イエメンを拠点とする武装組織フーシ派は、2024年以降に紅海を航行する商船への攻撃を繰り返してきた経緯がある。3月28日時点では、フーシ派がイスラエルへの攻撃を再開したとも報じられており、紅海の海運への新たな脅威が意識されている。

つまり今起きているのは、ホルムズの危険を紅海の危険へ「置き換えている」側面もある。「ホルムズを回避した」ことは前進だが、別のリスクが完全に消えたわけではない。

「調達先の多角化」ではなく「輸送ルートの多様化」

もう一点、読み違えやすいポイントがある。今回の到着は、原油の「産地」という意味ではサウジアラビア産のままだ。中央アジアや北米産に切り替えたわけでも、脱中東を進めたわけでもない。

「原油調達先の多角化」とは、産地そのものを分散させることだ——中東以外にロシア、カナダ、中南米なども含め、複数の地域から調達できる体制を整えることを指す。一方、今回のヤンブー経由は「中東産原油を別のルートで運ぶ」——輸送ルートの多様化だ。

この2つは別の話だが、混同しやすい。日本が今取り組んでいるのは両方であり、今回の到着は後者の方で一歩進んだというものだ。

1便の成功と、安定供給の確立は別問題

今回の愛媛到着は、「理論上は可能とされていた迂回ルートが、実務上も回った」という意味で、確かに重要な1歩だ。

しかし、この1便を成功させるためには、複数のタンカー、積み替え港、複雑な物流調整が必要だった。それをコスト面でも採算に合う形で、必要な量だけ継続して回し続けられるかは、まったく別の問題だ。

石油化学工業協会によると、主要樹脂製品ではポリエチレンが約4か月分、ポリプロピレンが約3か月分の在庫がある。その間に、ヤンブーや他の代替ルートがどこまで整備できるかが問われている。政府と企業が今まさに探っているのは、1便届けることではなく、安定した流れを作り続けることだ。

今回の到着が示したのは「抜け道がある」という事実だ。ただ、その抜け道をどれだけ太くし、長く使い続けられるか——それが、本当の意味での「問題解決」になるかどうかを決める。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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