春闘5.26%達成でも、賃上げの本番はこれから——中小企業への波及が実質賃金を決める理由

「今年も賃上げ5%台」というニュースを聞いて、「じゃあ生活が楽になるの?」と思った人は多いのではないだろうか。

実は、その実感は、勤め先の企業規模や雇用形態によってかなり違ってくる。春闘の数字が高くなっても、多くの人の生活実感を決めるのは別の要因だからだ。


目次

3年連続5%台——しかし焦点はそこではない

2026年の春闘で、連合(日本労働組合総連合会)が集計した第1回の賃上げ率は5.26%だった。3年連続で5%台を維持したことになる。

政府・経済界・労働界の代表が集まる政労使会議が3月23日に開かれ、連合の芳野会長がこの数字を報告した。政労使会議とは、法律で賃金を決める場ではないが、政府・企業・労組が賃上げの方向性を確認し合う場だ。ここで首相が発言することで、春闘の空気や政策の重点が見えやすくなる。

高市首相はこの場で、「賃上げの勢いを大企業に加え、地方の中小企業や小規模事業者に広く波及させていくことが重要だ」と述べた。

大企業の高い賃上げ率そのものより、次はどこまで広がるかが焦点になっている。本当の問題は、その勢いがどこまで届くかにある。


なぜ中小企業が鍵なのか

日本の雇用の多くは、中小企業や小規模事業者が支えている。大企業の賃上げが続いても、そこに勤めていない人には直接の恩恵は届かない。

今回の連合集計でも、中小企業の賃上げ率は5.05%と全体並みの水準が出てはいる。しかし連合の今年の中小目標は「6%以上」であり、いまだ未達の状態だ。非正規労働者についての目標「7%」への到達はさらに遠い。

政府は2029年度までの5年間で「実質賃金を年1%程度のペースで継続的に上昇させる」という目標を掲げている。その達成のカギを、政府自身が「雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者の賃上げ」に置いている。


中小が賃上げできない本当の理由

では、なぜ中小企業の賃上げは大企業ほど進みにくいのか。

答えは「意欲の問題」ではなく、「原資の問題」だ。

賃上げするには、まず売上や利益が増えるか、コスト上昇分を価格に反映できる必要がある。しかし中小企業の多くは、大企業との取引で価格を自由に設定できない構造の中にある。原材料費や光熱費が上がっても、それを販売価格に転嫁(乗せ換え)できなければ、コストは自社で吸収するしかなくなる。

中小企業庁の2025年の調査では、価格転嫁率は53.5%、労務費(人件費)に限っては50.0%にとどまっている。少なくとも調査上は、コスト上昇分を十分に価格へ乗せ切れていない企業が多いことが示されている。賃上げ原資を作りにくい背景として、価格転嫁の遅れが重くのしかかっている。

だから政府は今回、「賃上げを後押しするため、価格転嫁や取引の適正化に加え、生産性の向上などの支援に取り組む」と表明した。単に「賃上げしてください」と呼びかけるのではなく、そのための取引慣行や制度環境を整える、という方針だ。


5.26%でも生活が楽にならないかもしれない理由

春闘の「5.26%」は、名目賃金の上昇率だ。私たちの生活実感に近いのは、これから物価上昇分を差し引いた実質賃金になる。

名目賃金が5%上がっても、物価が同じかそれ以上の速度で上がっていれば、「賃上げしたのに生活が楽にならない」という状況が続く。

実際、今この瞬間にも、イラン情勢を受けた原油高がガソリン代や光熱費、物流コストを押し上げている。政府によるガソリン補助の予備費支出といった対応は、賃上げ効果がエネルギー高で薄れることへの警戒とも重なる。

春闘の数字は「賃上げが進んでいるという事実」を示す。しかし「生活が楽になるかどうか」は、それが中小企業や非正規労働者にまで届くか、そして物価の動きとどう均衡するかで決まる。


賃上げは、春闘を超えた政策課題に

かつての春闘は、企業と労組が交渉して決めるものだった。しかし今の春闘は、政府が政労使会議を通じて方向性を示し、価格転嫁・取引適正化・生産性支援の政策パッケージを組み合わせる、政策課題としての色彩を強めている。

3年連続5%台という数字は、その取り組みの成果の一面ではある。しかし政府が「賃上げを事業者に丸投げしない」と繰り返すのは、まだ本丸——中小・非正規・地方への波及——が残っているからだ。

今年の春闘の本当の勝負は、大企業の回答が出た今この瞬間から、中小企業の賃上げが実際にどう動くかにかかっている。


まとめると

  • 2026年春闘の賃上げ率は5.26%と3年連続5%台だが、中小・非正規の目標には届いていない
  • 日本の雇用の多くを担う中小企業への波及が、実質賃金の改善を左右する
  • 中小が賃上げしにくい背景として、価格転嫁の遅れが大きな要因の一つになっている
  • 名目賃金が上がっても、物価上昇(特に原油高)が続けば実質賃金の改善は限定的になりうる
  • 政府は賃上げを「民間任せ」にせず、制度・政策・取引慣行を通じて環境整備する方針

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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