高市首相、日米首脳会談を終え帰国——持ち帰った「成果」と残った「宿題」

3月21日夕方、高市首相が政府専用機で羽田空港に戻ってきた。アメリカ・ワシントンでトランプ大統領と首脳会談を行い、2日間の日程を終えての帰国だ。自民・維新には「無難にこなした」と受け止める声がある。しかし同盟の外側から見れば、持ち帰ったのは成果だけではなかった。ホルムズ海峡への関与、対中抑止が手薄にならないかという懸念、予算の年度内成立——重い宿題が帰路に同乗していた。


目次

会談では何が話し合われたのか

今回の日米首脳会談で、主な議題は大きく3つあった。

①イラン情勢とホルムズ海峡。現在、イランとアメリカ・イスラエルの戦争が続き、ペルシャ湾からインド洋へと抜ける「ホルムズ海峡」の航行が深刻に妨げられている。日本の原油輸入の大半がこの海峡を通ることから、エネルギー安全保障上の最重要課題だ。高市首相は、イランによる周辺国への攻撃やホルムズ海峡の実質的な封鎖を非難する日本の立場を伝えた。トランプ大統領からは、航行の安全確保への貢献を求められた。

②中国への対応。米軍の一部が中東に振り向けられる中、日本は「アジアの安全保障から米国の目が離れるのではないか」という懸念を抱えていた。会談では、中国に関するさまざまな課題に両国で緊密に連携することを確認した。ただし詳細な内容は明らかにされていない。

③80兆円規模の対米投資。両政府は、日本がアメリカに行う約80兆円(5500億ドル)規模の投資・融資の枠組みについて、第2弾の候補プロジェクトをまとめた共同文書を正式に発表した。すでに第1弾として石油・ガスや発電関連のプロジェクトが公表されており、枠組み全体としてエネルギー、先端製造、AI関連インフラなど経済安全保障色が強い。今回の第2弾候補の詳細は限定的で、今後の協議で具体化していく段階だ。


最大の「宿題」はホルムズ海峡への関与

会談で最も難しい局面となったのが、ホルムズ海峡の安全確保をめぐる日米のやり取りだ。

トランプ大統領は、「日本はエネルギーの95%がこの海峡を経由している。だから関与すべきだ」と述べ、艦船の派遣を含む協力を求めた。AP通信によれば、トランプ政権は日本を含む約7か国に同様の要請を行っているという。

これに対して高市首相の答えは「日本の法律の範囲内でできることとできないことがある。可能なことには対応する」というものだった。

この言葉は、外交辞令に聞こえるかもしれないが、日本国内では法制度上の現実を指している。日本には憲法9条と安全保障法制上の制約があり、戦闘が続く海域での機雷除去や船舶護衛には高い政治・法的ハードルがある。状況次第では「武力行使と一体」と見なされる可能性もあり、政府は慎重にならざるを得ない立場だ。

帰国後、自民党の小林政務調査会長は「その方針にのっとって事態の早期沈静化に向けて動いていく」と述べ、方針を追認した。日本維新の会の吉村代表も「ホルムズ海峡を安全に通過できるよう努力が重要だ」と語ったが、いずれも「どこまで関与するか」という核心には踏み込まなかった。


「成功裏に終えた」と言い切れない理由

国内政治家の反応を見ると、会談の評価はおおむね前向きだ。自民・維新いずれも、同盟の強化と原油の安定供給をめぐる一定の合意を評価する声が出た。

ところがAP通信などの海外メディアが描く構図は、より複雑だ。同誌は会談の実態として、ホルムズ海峡警備への協力要請、米軍の中東シフトに伴う対中抑止力への不安、そして同盟内部の微妙な緊張が重なる場だったと報じた。

国内報道が「大きな失点なく乗り切った会談」に映るとしたら、海外報道は「未解決の火種を抱えながら同盟を維持した会談」に近い。同じ会談を見ているのに、評価がこれだけ分かれるのは、それぞれの媒体が見ている課題が異なるからだ。


80兆円投資は「外交カード」でもある

会談と同時に発表された80兆円の対米投資は、単なる経済協力ではない。

トランプ政権は通商政策で同盟国にも厳しい姿勢を取っており、日本も関税圧力や安全保障費用の分担増を求められてきた経緯がある。この投資枠組みは、「日本は米国の雇用・エネルギー・サプライチェーンに貢献する」という形で同盟関係を安定させるための外交的な手段でもある、と分析されている。

現時点では「候補リスト」の段階であり、実際の投資がどこまで実現するかは今後の交渉次第だ。


帰国直後に待ち受ける「もう一つの難題」

外交が終わっても、高市首相の仕事は終わらない。帰国直後から、国内では別の重い課題が待ち受けていた——新年度予算案の年度内成立問題だ。

年度末は3月31日。帰国時点で残り10日しかない。本来、予算案は年度開始前の3月末までに国会で成立させるのが原則だが、少数与党となっている参議院での審議は難航している。野党側は「日程的に年度内成立は無理だ」として、本予算に代わる「暫定予算」の編成を強く求めている。

暫定予算とは、本予算が成立しない場合に、政府機能を止めないために一時的に組む予算のことだ。編成自体は法的に可能だが、通常は例外的な措置であり、それを余儀なくされること自体が国会運営の行き詰まりを示す。

自民の小林政調会長は「中東情勢を考えれば、一日も早い予算の成立が国民生活の保護に必要だ」と語り、早期成立への意欲を見せた。しかし参議院での対応については「国会対策の現場の判断に委ねたい」とかわし、見通しは示さなかった。

訪米で外交の成果を演出した高市首相は、帰国した瞬間から「本予算か暫定予算か」という国会政治の現場へと引き戻される。中東の戦争、エネルギー価格、そして国会の算段——この3つが今、同時に首相の机の上に載っている。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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