2026年2月20日、株式市場では「米国がイランを攻撃する可能性があるのではないか」という見方が改めて意識された。ダウ平均は267ドル安。中でも金融株が目立って弱かった。実際に攻撃が起きたわけではない。それなのに、なぜ市場はこれほど敏感に反応したのか。そしてなぜ「金融株」だったのか。この記事では、その連鎖をひとつずつ解きほぐしていく。
何が起きたのか
2026年2月20日早朝(JST)、ロイターやBloombergが相次いでニューヨーク市場の動向を報じた。
| 時刻(JST) | 媒体 | 要点 |
|---|---|---|
| 2026/02/20 06:30 | ロイター | 米国株が反落。攻撃準備に言及する報道が材料視され、リスク回避の売りが広がった |
| 2026/02/20 06:42 | Bloomberg | 「米株反落、米・イラン情勢が重し。原油続伸」と報道 |
| 2026/02/20 06:50 | ロイター | 原油価格が約2%上昇。トランプ大統領の「10〜15日」という期限感のある発言も材料視された |
| 2026/02/19 20:20 | ロイター | 英FTSE100の下落要因のひとつとして米・イラン緊張が明記。警戒感は欧州市場にも波及 |
株安、原油高、そして金融株の下落。この3つはどうつながっているのか。
「可能性」だけで市場が動く——地政学リスクとは何か
まず押さえておきたいのは、今回の起点が「攻撃の事実」ではなく、「攻撃の可能性が意識されたこと」だという点だ。
市場は、実際に何かが起きてから動くのではなく、起きるかもしれないという段階で先に動く。これが「地政学リスク」の特徴だ。国家間の対立や軍事的緊張など、経済指標とは直接関係しない政治・地理的な要因が、投資家の判断に影響を与える。
不確実性が高まると、投資家は損失を避けるために株などの「危険資産」を減らし、国債や金(ゴールド)など相対的に「安全」とみなされる資産へ資金を移しやすい。これを**「リスクオフ」**と呼ぶ。今回の株安は、まさにこのリスクオフの動きとして説明できる。
「何も起きていないのに」と感じるかもしれないが、市場にとっては「何かが起きるかもしれない状態」そのものがリスクである。
なぜ原油が上がると、株にとって困るのか
地政学リスクが高まると、原油価格が同時に上昇しやすい。中東は世界の原油供給・輸送の要所であり、特にホルムズ海峡は世界の海上石油輸送における重要ルート(おおむね2割前後が通過するとされる)だ。米国とイランの関係が緊迫すれば、この海峡の通行が滞るリスクが意識され、原油が上がりやすくなる。
原油高が株式市場にとって厄介なのは、影響の経路が2つあるからだ。
① 企業コストの上昇 輸送費や電力、素材コストが上がり、企業利益が圧迫されやすくなる。
② インフレの再燃 エネルギー価格が上がると物価全体が上がりやすい。すると市場では「利下げが遠のく」「長期金利が下がりにくい」といった連想が働きやすくなる。
金利が株に関係する理由はこうだ。株価はざっくり言えば「将来の利益を今の価値に換算したもの」であり、金利が上がる(または下がりにくい)と、その換算に使う割引率が高くなり、将来利益の”今の価値”が下がりやすい。つまり、金利環境の引き締まりは株安と結びつきやすい。
原油高 → コスト上昇 → 企業利益の圧迫
→ インフレ連想 → 金利が下がりにくい → 割引率上昇 → 株安
なぜ「金融株」が特に売られたのか
今回の下落で目立ったのが金融株の弱さだ。銀行・証券・資産運用などを含む広いカテゴリを指すが、今回特に売りが目立ったのは銀行株よりも、資産運用・代替投資関連の銘柄だった。理由は2つある。
理由①:金融は景気敏感で、信用不安の連想が働きやすい
株式市場がリスクオフになると、金融株は特に売られやすい。景気が悪化すれば貸し倒れが増え、金融機関の収益が傷む——そうした連想が働くからだ。市場が荒れると、「どこかで大きな損失が出ているのでは」「資金繰りは大丈夫か」という不安が、事実確認より先に広がりやすい。金融株はその疑心暗鬼の矢面に立ちやすい。
理由②:今回は金融セクター固有の不安材料も重なった
地政学リスクとは別に、今回の下落では「プライベートクレジット」への懸念も金融株の売りに影響したと報じられている。
プライベートクレジットとは、銀行融資や公開市場を通さず、投資ファンドなどが直接企業へ貸し付ける非公開の融資のことだ。近年急速に拡大してきたが、リスクオフ局面では換金しにくく評価も見えにくいこの種の資産への警戒が強まりやすい。地政学リスクが重なることで不安が増幅され、関連する資産運用・代替投資系の金融株への売りが加速した、という構図だ。
つまり今回の「金融株安」は、地政学リスクによる全体の売り圧力と、金融セクター内部の固有リスクという2つが同時に作用した結果であり、「イランのせいだけ」とも「金融の問題だけ」とも言い切れない複合的な動きだった。
因果関係を一本の線でつなぐ
ここまで読んだあなたなら、以下の図がすっと読めるはずだ。
米国がイランを攻撃する可能性が意識される(地政学リスク上昇)
↓
中東の原油供給・輸送が乱れる懸念が広がる
↓
原油価格が上昇(地政学プレミアム)
↓
エネルギーコスト上昇 + インフレ再燃の連想
↓
「利下げが遠のく/長期金利が下がりにくい」方向に傾く
↓
株式の期待収益に逆風(リスクオフ・株安)
↓
景気敏感・信用不安の連想が働きやすい金融株が特に売られる
↓
プライベートクレジット等、換金・評価が難しい資産への警戒も重なる
↓
資産運用・代替投資関連を中心に、金融株の下落が"目立つ"形になる
これから何を見ればいいか
今後、この状況がどう展開するかを判断するために、以下の3点を押さえておくと次のニュースが読みやすくなる。
① 攻撃は実際に起きるのか 「可能性」が「事実」になれば、市場の反応は今より大きくなる。逆に緊張が緩和されれば、売られた株が買い戻される可能性もある。
② 原油は上がり続けるか 原油高が続けばインフレ懸念が長引き、金利見通しにも影響する。原油価格の動向は、株市場のムードを測るバロメーターになる。
③ 金融セクターの信用不安は広がるか プライベートクレジットへの不安が、より大きな信用不安に発展するかどうか。今回の金融株安が「一時的なリスクオフ」で終わるか、「構造的な問題」に発展するかの分岐点になりうる。
ニュースを見るとき、この3点を確認するだけで、「また株が下がった」という情報が、「なぜ、どこまで」という視点で読めるようになる。
掲載情報は2026年2月20日時点の報道に基づきます。

