【速報分析】1〜3月期実質GDPは前期比0.2%減、年率換算0.7%減 4四半期ぶりマイナス成長に潜む構造的課題

内閣府が5月16日に公表した2025年1〜3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動を除く実質ベースで前期比0.2%減、年率換算で0.7%減となり、4四半期ぶりのマイナス成長に転落しました。コロナ後の回復局面が一服し、内需と外需の両輪において弱さが目立つ結果であり、米国の関税動向など外部ショックへの脆弱性も浮き彫りになっています。

■赤沢亮正経財相の談話

「個人消費は食料品等が減少した一方で、外食等が増加しており、春季労使交渉での賃上げなどが景気の緩やかな回復を支えると見ています。一方、物価上昇の継続が消費者マインドの下振れを通じて個人消費に及ぼす影響は景気の下押しリスクです。」

「米国の通商政策による景気の下振れリスクに十分留意する必要があります。関税政策を巡っては引き続き見直しを強く求め、影響を受ける企業への資金繰り支援など万全を期します。」

(出典:日経速報ニュース 2025/05/16)

1.総括:外需の落ち込みが足を引っ張る一方、内需は底堅いが押し上げ力不足

スクロールできます
項目前期比(実質%)年率換算(実質%)
GDP合計▲0.2▲0.7
個人消費0.00.1
設備投資1.45.6
民間在庫変動(純増減)0.31.2
政府消費▲0.0▲0.0
公共投資▲0.4▲1.6
輸出▲0.6▲2.4
輸入2.911.6
  • 外需寄与度:▲0.8ポイント
  • 内需寄与度:+0.7ポイント

実質GDP成長率は、外需の大幅なマイナス寄与が全体を押し下げた格好です。内需はプラス寄与ながら、その規模が外需減の勢いを打ち消せなかった点が最大のポイントです。


2.外需の詳細分析:輸出減と輸入増が招く貿易赤字圧力

  1. 輸出:前期比▲0.6%(年率▲2.4%)
    • 自動車などモノの輸出は駆け込み需要で一部持ち直したものの、知的財産権使用料を含むサービス輸出が減少。
    • 24年10〜12月期の反動で、大型契約の終了があらわれた形。米国の追加関税発動前の駆け込みも限定的で、総じて外需の重石となった。
  2. 輸入:前期比+2.9%(年率+11.6%)
    • ウェブ広告や映像配信といったデジタルサービスの利用増加が目立ち、いわゆる「デジタル赤字」が急拡大。
    • 部品・中間材の調達回復も進み、航空機用部品や半導体関連の輸入が急増。結果的に純輸出がさらにマイナスに傾斜。
  3. 示唆
    • 日本経済は依然として貿易収支で足元を掬われやすい構造。米国の関税動向に加え、デジタルサービス取引を巡る国際ルールの動向も中長期のリスク要因となる。

3.内需の詳細分析:消費の慎重姿勢と設備投資の二面性

  1. 個人消費:前期比+0.0%(年率+0.1%)
    • 個人消費は4四半期連続プラスも、実質ではほぼ横ばい。
    • 外食やサービス消費は堅調だったものの、物価高が続く非耐久財(食料品、日用品)は売上減。家計の節約志向が根強い。
  2. 設備投資:前期比+1.4%(年率+5.6%)
    • 研究開発費やソフトウェアへの投資が引き続き拡大。DXや省力化ニーズに対応する企業の投資意欲は底堅い。
    • ただし、ハードウェア系の大型投資は一服感も。政府・日銀による企業向けファイナンス支援策の効果が今後問われる。
  3. 民間在庫:前期比+0.3%(年率+1.2%)
    • 在庫積み増しがほぼ横ばいの経済活動を下支え。生産調整リスクは現時点で乏しいが、過度な積み増しは将来の生産調整圧力となり得る。
  4. 公共部門
    • 政府消費は横ばい、公共投資は前期比▲0.4%。前期の大型土木・インフラ需要の反動減が主因。
    • 成長戦略として掲げるデジタル公共サービスや防災投資の早期実行が求められる。

4.名目GDP:年度ベースで600兆円突破の意義

2024年度の名目GDPは616兆9,095億円に達し、初めて600兆円の大台を超えました。背景には、物価上昇(GDPデフレーターのプラス寄与)と実質成長の継続的なプラスがあり、名目ベースでは拡大トレンドが鮮明です。ただし、実質ベースの足踏みが続く現状では、名目成長の恩恵が家計や企業収益にもたらす実質的な厚みには限界がある点に留意が必要です。


5.今後のリスクと注目点

  1. 米国関税政策の行方
    • トランプ政権下での自動車関税発動リスクは、4〜6月期以降の設備投資・輸出に直撃。
    • 企業のサプライチェーン見直しや東南アジア回帰の動きが加速すれば、長期的な輸出構造の再編も視野に入る。
  2. 消費者マインドと賃金動向
    • 物価高による実質賃金の伸び悩みが個人消費を抑制。5月以降の春闘での賃上げ実績が今後の消費回復の鍵を握る。
    • 家計の貯蓄取り崩しやクレジット利用の動向も引き続きウォッチが必要。
  3. 企業投資の持続性
    • DXや環境投資を含む成長分野へのシフトがどこまで広がるか。政府の税制優遇や補助金の効果検証が喫緊の課題。
    • 一方、利上げ局面での金融コスト上昇が投資意欲を鈍らせるリスクも内包。
  4. 「テクニカルリセッション」入りの可能性
    • 4四半期ぶりマイナス成長に続き、2四半期連続でマイナスとなれば「テクニカルリセッション」。ただし、国内のファンダメンタルズ面から見ると、本格的な景気後退には至らないとの見方も根強い。

まとめ

1〜3月期は、外需の失速と内需の押し上げ力不足が際立った四半期でした。年後半の消費回復や設備投資の持続性、そして何より米国の貿易政策動向が日本経済の行方に大きな影を落としています。名目GDPの拡大という明るい面と、実質的な成長力停滞という課題が同居する今、政府・日銀は緩和的な金融政策の維持と、成長分野への政策的支援を両輪で進める必要があります。企業・家計ともに「不透明感」を抱えた中、次期統計のトレンド変化に注目が集まります。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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