英国・小売物価指数(RPI:Retail Prices Index)は、イギリスにおける物価の上昇率を示す古典的な指標であり、長年にわたって物価統計の中核を担ってきた歴史があります。現在では後発の消費者物価指数(CPI)に政策上の主導権を譲っていますが、一部の年金制度や公共料金の調整基準などにおいて、依然として影響力のある統計指標として利用されています。
RPIは、英国家統計局(ONS)が毎月発表しており、食品や衣料、交通、娯楽などの消費財に加えて、住宅ローン利払い(モーゲージ金利)や市税(カウンシル・タックス)といった住居関連コストも含まれている点が特徴です。これにより、実際の家計支出に近い構成となっている反面、金利動向によって数値が大きく変動しやすいという特性も持ちます。
この点が、イングランド銀行(BOE)が現在の政策目標としてCPIを採用している理由のひとつです。CPIは国際基準に準拠しており、金利変動の影響を除外した設計になっているため、金融政策の判断材料としてより適していると考えられています。
とはいえ、RPIはイギリス国内で長らく使われてきた経緯があり、いまなおいくつかの制度に根強く組み込まれています。たとえば、鉄道運賃や一部の学生ローンの利率、旧来の公的年金の増額基準などがRPIベースで決定されることがあります。そのため、国民生活に対する影響力は決して小さくありません。
また、投資家にとってもRPIは重要な指標です。というのも、英国債の一部には「インフレ連動国債(Index-linked Gilts)」と呼ばれる債券が存在し、その元本や利払いがRPIに連動して調整される仕組みとなっているためです。このように、RPIは市場や制度の中で一定の役割を担い続けています。
ただし、統計手法の古さや、季節調整・加重平均の算出方法における技術的な問題点も指摘されており、英統計局自身が「RPIはもはや公式統計として推奨されない」と明言しています。とはいえ、現実として数多くの契約や制度に組み込まれている以上、今後も併存的に使われ続けることが想定されます。