イラン戦争が「米国内政治」になった日──No Kingsと反戦が交差した理由

3月28日、アメリカ50州すべて、合計3000か所超で同時抗議デモが行われた。名前は「No Kings(王はいらない)」。主催者によれば過去最大規模だ。一部報道ではイラン軍事作戦への反戦色が強調されやすいが、今回起きた本質的なことは「反戦デモが起きた」ではなく、「反トランプ運動の器の中に、イラン戦争への怒りが流れ込んだ」ことだ。

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「No Kings」は反戦運動ではなかった

まず、この運動の出自を確認しておく必要がある。

「No Kings」は、民主主義の防衛と権力集中への抗議を自己定義とする運動だ。移民取締りの強化、行政権限の肥大化、司法への介入といった問題意識を背景に広がり、スローガンの「アメリカに王はいらない」は、大統領が独裁君主のように振る舞うことへの拒否を意味している。つまりもともとは、イランとは無関係な「権力の使い方」への抗議だった。

それがなぜ、今回これほど大きな規模になったのか。Washington Postによれば、軍事作戦開始から1か月というタイミングと重なったことで、抗議の焦点が移民・物価・権威主義批判に加えて、イラン戦争にも一気に広がったという。

現場のプラカードはその混在をよく示していた。「戦争をやめろ」の隣に「民主主義を守れ」がある。「イラン情勢でガソリンが高騰した」の隣に「エプスタイン文書から目をそらすな」がある。これは一見バラバラに見えるが、実は一本の線でつながっている──すべてが「大統領の権力行使への不信」だ。

戦争はなぜ「国内問題」になったのか

デモ参加者の声を聞くと、反戦の中身が多層的であることがわかる。

ペンシルベニア州の女性(67歳)は「アメリカへの差し迫った脅威がなければ、攻撃が正当化されるか疑問だ」と話した。法的・倫理的な問いかけだ。18歳の男性は「地上作戦になれば長期化して借金が積み上がるだけ」と話した。これは生活者としての恐れだ。ベトナム戦争の従軍経験を持つ70代の男性は「トランプ大統領は数日で終えて救世主になれると思っていたが、予想外の反撃にあっている。ベトナム戦争と似た状況だ」と話した。歴史的な警戒感だ。


War Powers Resolution(戦争権限決議)とは? 大統領が議会の承認なしに軍事行動を開始した場合でも、一定期間内に議会へ報告し、承認を得なければならないとする制度的枠組みだ。実際には大統領権限が広く解釈されることが多いが、APによれば3月上旬にすでに上下院でイラン攻撃をめぐる戦争権限決議が争われており、下院で僅差で否決されていた。


つまりデモ参加者が「戦争反対」と言うとき、その中身は3種類入り交じっている。

  1. 理念としての反戦:アメリカへの直接の脅威なしに戦争に踏み込んでよいのか
  2. 家計としての反戦:ガソリン高騰・戦費拡大・長期化リスクが自分の生活を直撃する
  3. 統治としての反戦:議会を通さず大統領が戦争を拡大することへの違和感

特に3つ目が、今回の抗議が「No Kings」という民主主義防衛運動と合流した際の軸となり、他の論点をひとつにまとめるつなぎ目になった。

「王のような戦争決定」への拒否感

APの報道によれば、今回の議会での戦争権限決議は僅差で否決された。「議会は大統領のイラン攻撃を止められるのか」という問いは、まだ答えが出ていない。

このことが、デモ参加者の「王はいらない」という言葉に実質を与えた。戦争の是非だけでなく、「誰が戦争を決めるのか」という手続きの問題が、抗議の底流にある。

ベトナム戦争世代の従軍者がトランプ政権を「似た状況」と評したのは、偶然ではないかもしれない。ベトナム戦争もまた、大統領権限による段階的拡大、議会の後追い承認、泥沼化という構造を持っていた。今回の抗議には、その記憶が重なっている。

「外の戦争」が「内の争点」になるとき

ホルムズ海峡での緊張が高まれば原油価格が上がり、米国内のガソリン価格は即座に動く。このわかりやすい経路が、中東の戦争を「遠い話」から「今週の家計の話」に変える。


ホルムズ海峡とは? ペルシャ湾とアラビア海をつなぐ幅が最小約33キロの海峡で、世界の原油輸送の約2割がここを通過する。現在の戦争でこの海峡の通常の商業通航が事実上封鎖に近い状態になると、原油価格は世界的に急騰する。


今回のデモは、戦争を遠い政策の話として受け取るのではなく、「自分のガソリン代」「自分や家族が戦争のコストを負うかもしれない」「自分の税金が何に使われているか」という形で受け取った人々が集まった場でもあった。

Washington Postは、今回の「No Kings」が移民・物価・権威主義批判にイラン戦争批判を加えた形になったと整理している。いずれも「トランプ政権の権力行使」という軸でつながっている。

数字が示す規模と限界

50州・3000か所超という数字は、主催者側の発表だ。参加人数の独立した検証はまだない。また、「過去最大規模」という表現も主催者側の評価であり、実態の規模感は今後の検証を待つ必要がある。

デモの大きさが直ちに政策を変えるわけでもない。戦争権限決議は否決され、軍事作戦は続いている。

ただし、これだけの動員が「イラン戦争への反対」だけで組めたとは考えにくい。「No Kings」という器があり、そこに戦争批判が流れ込んだ。その合流こそが、今回のデモの構造的な特徴だ。

戦争は国内政治になった

「イラン戦争への反戦デモ」と整理するだけでは、今回起きたことの半分しか見えない。

アメリカでいま進んでいるのは、中東での軍事衝突が「大統領権限」「物価」「民主主義の形」という国内政治の争点と融合していくプロセスだ。プラカードに「戦争をやめろ」と「民主主義を守れ」が並ぶのは、矛盾ではない。この国では今、その2つが同じ問いの別の表現として受け取られている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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